• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

私が住宅の地盤に関わるようになってから、15年以上の月日が過ぎましたが、その間、市場の傾向に大きな変化は見られず、災害リスクのことはお構いなしで宅地開発が進められ、地盤の悪い場所に、どんどん家を建てるという状態が続いています。

「この状態」が、どの程度よくないのかを考えるために、今回は、「地盤改良をしないと家を建てられない土地」「洪水で家が水没する土地」の関係について解説します。

  1. 沈下の種類
  2. 沈下リスクと浸水リスクはセット
  3. 政策の変化の影響
  4. まとめ

1.沈下の種類

家が、その重さで地中にめり込むことを「沈下」と言います。あなたは、沈下には次の二種類があることをご存じでしょうか?

  • 即時沈下
  • 圧密沈下

両者の違いを、図に示すと図1のような表せます。

即時沈下はただのバネが重さで縮む現象です圧密沈下はダンパーのついているバネが、ゆっくりと縮む現象です。

ばねの強さ=地盤の強さ・硬さです。ダンパーは、板に開けられた穴の大きさによって変化する「水の移動するスピード」でバネが縮む時間を遅らせることが出来ます。バネが縮む速さ(水の移動するスピード)は、地盤の水はけの良し悪しと同じです。

図1 即時沈下と圧密沈下

家を建てる時に問題になるのは、「圧密沈下」です。スクリューウエイト貫入試験は、地盤の強さや硬さを計測できますが、水はけの良し悪しは計測できません。

日本建築学会は、圧密沈下の可能性が高い地盤を「Wswが0.75kN程度以下の地層と読み替えてもよい」と言っています。Wswは、スクリューウエイト貫入試験で得られる値です。建築基準法では、Wswが1kN以下なら沈下の可能性が高いと考えるので、日本建築学会の基準は、建築基準法よりも、少しゆる目の基準と言えそうです。

Wswは、地盤の「弱さ」を表す指標です。この値が小さいほど弱い地盤です。上の基準は、「弱い地盤は、圧密沈下すると考えておきましょう」ということですが、圧密沈下が問題になるのは、粘性土なので、土質にも注意をしておく必要があります。

ところが、スクリューウエイト貫入試験は、土質を確認できるとは言い難い試験方法なんです。

2.沈下リスクと浸水リスクはセット

さて、家を建てる時は、「家の重さで圧密沈下が発生しないか?」ということが心配でなりませんが、その前に既に圧密沈下が発生していることがあります。

水田跡地等に土を盛って宅地にした場所では、盛土の重さで圧密沈下が発生します。沈下の完全な終了には長い時間を必要とする場合があります。腐植土のような特殊な土が堆積している場合、盛土終了から10年近く経過しても沈下が止まらない場合もあります。

ですから、水田跡地の造成宅地には安易に手を出してはいけません。あなたのお客様がそのような土地に家を建てたいと言われたなら、できれば、別の土地を探されることをお勧めしてください。その後に生じる様々な対策費用を考えれば、坪単価がもう少し高い土地を求められた方がよいでしょう。

また、圧密沈下する土は「粘性土」であることも忘れてはいけません

粘性土は、砂質土よりも軽く、粒子径が小さいので、堆積するために長い時間を必要とします。粘性土が厚く堆積しているということは、水の流れが遅く、小さな粘土の粒子が堆積しやすい場所だったか、洪水時に川からの濁流が溜まる場所だったと考えられます。つまり、水の通り道や洪水時に冠水する場所だったということです。そしてそれは、今も変わらないのです。

つまり、粘性土が厚く堆積している土地は、洪水によって浸水するリスクが高い場所です

あなたのお客様は、地盤調査結果を見て、地盤改良の要否判定で一喜一憂されていると思いますが、地盤改良が必要な土地というのは、沈下リスクもさることながら、「浸水リスクが高い」ということを理解しておられるでしょうか?

3.政策の変化の影響

このように、「地盤改良が必要だ」ということは、「浸水エリアに資産を投じる」という「お金に関わるリスク」でもあります。

このため、地盤改良が必要でかつ浸水リスクの高い地域に住宅を建てるのであれば、水害によって資産を失う可能性があることを想定して、対策を講じておく必要があります。

特に、近年は、国の治水についての思想が変化しています。

気候変動などによって災害の規模や頻度が変化しているため、「今までのやり方では被害を抑えられないので、考え方を大きく変えましょう」ということです。

具体的な施策として、不動産売買時に浸水リスクを説明することを義務化したり、地方自治体が立地適正化計画を立案して、災害リスクの高い地域から低い地域に人を誘導したりと、人が災害から距離をとるように誘導することが行われています。

【参考資料】国土交通省の治水に関する考え方を説明したサイト
https://www.mlit.go.jp/river/kasen/suisin/index.html

今後、さらに水害被害が激しくなるようであれば、被害が頻発する地域では、新規住宅建設の制限や集団移転が、今よりも簡単に行えるようになるかもしれません。

このような制約を受ける可能性のある土地は、宅地として売買できませんし、家の建て替えもできません。そんな土地を子供は相続したがらないでしょう。もしも、子供が相続したとすると、既存の家を借りてくれる物好きな人を探すか、家を解体して更地にして、商業利用者に転売するくらいしかありません。今よりもさらに人口が減少する数十年後に、浸水リスクの高い地域に住む人はいないでしょうし、坪単価は激安ですので、売却できたとしても解体費用の回収さえ難しいかもしれません。

こういうことを考えていくと、「浸水リスクの高い土地を購入して家を建てる」ということは、お金の面から考えても非常にリスクの高い行動だと言わざるを得ません

4.まとめ

軟弱地盤は洪水が作った土地です。地球上のその他の陸地よりも、はるかに若いので不安定な土地です。あなたのお客様が、そのような若い土地を買おうとしておられるのなら、もう少し年季の入った安定した地盤がある場所を教えてあげてもらえないでしょうか?

神村真



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