• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

以前から浸水リスクの高い地域に住宅が建設され続けていることは知っていましたが、最近の豪雨の影響で、こういう場所の浸水被害が相次いでいます。政府は法律の見直しなど対応を行っていますが、ことの発端は、政府が規制緩和を許したことです。さらに、自治体は、自らの利益のために、危険な浸水リスクの高い土地を宅地として利用することを許しています。2022年4月に、規制緩和については、ある程度の制約が付されることに改められましたが、許認可を出すのは自治体であり、この問題はしばらく続きそうな気配がします。

今回は、このような背景を踏まえて、真っ当な宅地について考えていきたいと思います。

  1. 宅地に必要な三つの条件
  2. なぜこんな簡単なことが満たされないのか
  3. 自分の予算で買える土地はこんなところしかないという発想
  4. まとめ

1.宅地に必要な三つの条件

私が考える宅地に必要な条件は、たった三つです。

  1. 災害で誰も死なないこと
  2. 災害に備えて特別な費用が発生しないこと
  3. 災害時に避難しなくてもよいこと

あなたは、今、「そんなの当たり前だ」と思われましたか?

とても正常な考えです。

ところが、世の中の宅地の多くは、この基本的な条件を満足しないものが多いのです。その証拠に、梅雨の時期から10月の末の台風シーズンが終わるまで、毎年どこかで浸水したとか、洪水で家が流されたとか、崖崩れで家が土に埋まってしまったというニュースを目にしますよね?

いわゆる高級住宅地はどうでしょう?

土砂崩れで人が死んだとか、洪水で家が流されたとか、大雨のたびに住民が避難している。そんな風景を目にしますか?こういう場所では、地盤改良する必要がないことも多いのです。

高級住宅地は、宅地が持つべき条件を満足している「普通の宅地」なのです。

言い方を変えれば、日本の宅地の多くは、「宅地に適さない」場所なんです。

2.なぜこんな簡単なことが満たされないのか

さて、なぜ、毎年のように水害で辛い思いをする国民が出てしまうのでしょう。

簡単に言えば、「日本政府が住んではいけない場所を定めていないから」というだけのことです。

私が示した宅地として三条件は、多くの人にとって「当たり前」と感じるものだったと思いますが、この当たり前のことが、実は、全然当たり前ではありません。むしろ災害で命や財産を失う可能性が高い土地が、「宅地」として売買されているのです。

こういうことになっている一つの原因として、2000年の都市計画法の改正が挙げられます。

それまでは、市街化調整区域では宅地の開発は厳しく制限されていましたが、2000年の法改正によって地方自治体の権限で、規制を緩和できるようになったのです。

下の参考記事には、この規制緩和は、人口減少が激しい自治体、土地を探す子育て世代の住民、不動産業者にとって、いずれにも利益になることのようです。

【参考記事】NHK 災害列島 命を守る情報サイト 特集記事 浸水リスク地域で増える住宅 一体何が…(2022.06.03)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/select-news/20220603_02.html

開発される市街化調整区域は水田地帯であることが多く、浸水リスクが非常に高い地域です。このような地域で人口増加が起こっているのが、2000年以降の実態なのです。

実に、短絡的な行政の対応だと、私は思います。

また、上記の記事によれば、浸水リスクの高い地域に引っ越してきた住民の半数以上は、住宅購入時にハザードマップの確認すらしていないとのこと。自治体は、災害リスクが高い地域に宅地を開発させるのだから、販売者に対して、せめて、説明責任の付与程度はしておくべきだったのではないかと思います。

幸い、国は、あまりにも甚大な水害が多いので、2022年4月に法律を改正して、市街化調整区域のうち浸水深3m以上のリスクがある場所では、住宅の建設を厳格に規制することにしたようです。しかし、最終的な決定権は自治体に一任しています。人口減少を食い止めたい自治体が、災害発生のことを考えて土地開発を食い止められるかは、甚だ疑問であはあります。

現在は、不動産の売買契約時に浸水リスクの説明を行うことが義務化されてはいますが、都合のよい土地が、手ごろな価格で売られていれば、消費者は買ってしまいますよね・・・

3.自分の予算で買える土地はこんなところしかないという発想

先に取り上げたNHKの記事にあるように、危険な場所に住宅が建ち続ける理由として、自治体の存続の問題もあるようです。が、そんな組織の存続問題を、個人資産で解決しようという発想が異常です。

こういう場所で何が起こるかをイメージしてみましょう。

浸水リスクの高い土地の売買に関わる人で、損をするのは誰ですか?

この物語の登場人物は、①許可を出す自治体、②土地を売る農家、➂土地を開発し販売する不動産業者、④あなた(土地の購入者)です。

あなたは、浸水リスクの高い土地を購入しました。

3年後、近くの河川が氾濫します。ちょうど休日で、家族全員が自宅で過ごしていました。あなたは、この地域が浸水リスクが高いことを知ってはいましたが、あまり気にせず雨の休日を過ごしていたので、周囲の状況の変化に気づくのが遅れます。

気づいた時には、自動車での移動が困難な状態になっており、まだ小学校低学年の上の子供と幼稚園児の下の子供を抱きかかえ、腰まで水につかりながら避難所に移動しました。

結局、自宅周辺は、2階まで浸水し、2週間水が引きませんでした。避難所に1カ月暮らした後、ようやく仮設住宅に移ることが出来ました。

もう一度聞きます。損をするのは誰ですか?

自治体は何か損をしますか?土地を売った農家は何か損をしますか?不動産業者はどうですか?

あなた以外の関係者は、誰も損しませんよね?

自治体はあなたから税金を受け取ります。もちろん、地元の消防署や警察の動員はありますが、自治体の予算で賄えないような災害の場合、県や国が助けてくれます。農家さんも不動産屋さんも、土地代を振り込んでもらった時点で、この件とはオサラバです。

損をするのは、あなた(土地の購入者)だけです。自治体主導の恐ろしい企みです。

土地を購入する時は、もっと普通に考えましょう。

水没してさらに支出が増える可能性がある家屋敷に、数千万円の借金をして投資しますか?

災害リスクを回避できる土地を確保するための十分な予算が確保できないなら、一戸建ての購入を諦めるという判断も必要だと、私は考えます。

4.まとめ

数千万円の借金をして、住宅を手に入れる時、「我が家が災害でどうにかなってしまうかもしれない」なんてことは考えないですよね。

でも、上に書いたようにイメージすると、考えやすくなりませんか?

腰まで水につかりながら、子供抱きかかえて避難所に移動する光景を想像できれば、それだけでも、その土地の購入は控えようと思えるのではないでしょうか?

「安い土地」には、必ず理由があります。「リスク」は損害です。土地を購入する時は、その場所には、どんなリスクがあるのか、そのリスクは、自分の経済上、容認できるのか?そういう考えを巡らせておくと、適切な判断をしやすいと思います。お試しを。

神村



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