• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

先日、とある不同沈下案件の調停の場に同席しました。

この時、強く感じたのは、家を建てることに関する基本法は建築基準法なのに、発生した損害の原因を論じる時に、なぜ、真っ先に、建築士の責任を問わないのだろう?ということです。

もちろん、その調停では、建築士が第三者だったのでしょうがないのですが、建築基準法や建築士法をよく理解している人なら、この訴状の歪みにすぐ気づいたと思うのです。

何のために建築士は独占を許されているのでしょう?この世界は少し歪んでいるなと感じました。

  1. あるべき世界
  2. 現実の世界
  3. 誰も頼りにならない
  4. まとめ

1.あるべき世界

私は、住宅の地盤について第三者として適切なアドバイスをしたいと考えています。どうやったら、自分の知識・経験を、多くの人に使ってもらえるかを模索していたら5年も経ってしまいましたが・・・

この話を、独立前に、ある方にお話ししたところ、「そんなことは工務店がやるから、あなたの考えはビジネスにならない」と言われました。「あー、そうかー」と妙に納得したことを覚えています。

そう。これが「あるべき姿」です。

注文住宅だったら、工務店が、持ち込まれた土地を見て、地盤調査を丁寧にやって、その結果に基づいて基礎を設計する。これが正しい姿です。

建築士は建物の安全性や耐久性に責任を持っているので、当然、地盤のことも正しく評価している「はず」です。

そして、残念ながら不同沈下が発生しまった場合は、瑕疵保険を使って修復する。もしも、建築中に不同沈下が発生してしまったのなら、工事保険や「地盤補償」という民間サービスを使って補修費用を確保する。

このように、責任をとるべき建築士が、法に則って建物を造り、事前にリスクヘッジをしておくことで、消費者が不利益を被ることはありません。

2.現実の世界

先日、「この地盤調査データと地盤補強の設計内容を見てー」と連絡が来たので、気軽に引き受けたら、これがびっくり設計でした。

直ちに「これはヤバいですよ」っと返信しました。

どのようにヤバいかは、別の機会にお話しするとして、このままでは不同沈下が起こると推測できる内容でした。

施主は、賢明な方なので、直感的に「オカシイ」と思われたのでしょう。賢明な判断です。

この話には後日談があります。

施主は、私に相談をくださった建築士の指摘に従って、地盤補強工事内容の再検討を依頼されたそうです。その後、1週間も経ってなかった思いますが、施主から、連絡がありました。

工務店から、”解約してくれ”と言われてしまった。住まいづくりは白紙に戻ってしまった」

唖然としました。
施主が、問題を提起し再検討を促しているのに、それを精査することなく解約を求める。
住まいの作り手はどうなってしまったのでしょう?

しかし、これも、住まい造りの現実です。消費者が良いものを手に入れるためには、十分な知識や数千万円を預ける相手の器量を見極める力が求められるようです。

3.誰も頼りにならない

工務店は、地盤のことを地盤改良会社や地盤補償会社に一任しています。大手ハウスメーカーの中には、自分の資本で地盤調査会社を作っているところもありますが、非常に稀なケースです。

住宅の設計・施工に関する責任は、設計を行う建築士に帰着するので、地盤調査やその結果の評価を外注したとしても、建築士がその内容を承認する必要があります

住宅の設計が完璧で、不同沈下したことのみが問題になれば、地盤補償制度や瑕疵保険制度を利用することで、誰も大きな損害を受けることなく、住宅を修復することが可能です。

ところが、増積み擁壁をしていたり、地盤調査後に盛土をしていたり、補償制度や保険制度を利用できないような場合、損害の補填方法がないので、施主と工務店の間で訴訟が発生することがあります。

多くの場合、施主は専門知識がありませんので、工務店にお任せで工事が進んでいきます。ところが、家が傾く、頼りにしていた補償や保険は使えない。最悪の状態ですね。

だから、消費者は、住まいづくりを始める前に、注意しておくべき基本事項を知っておく必要があります

私のような独立系のちっちゃな会社にも、こういうこじれた案件の相談が、年間数件寄せられます。全国規模でみると、同じことが何件起きているのかと恐ろしくなります。

訴訟をしても酷いものです。調停には、専門委員という建築士が同席してくださいますが、この方が地盤のことを全然知らい人だと、議論は混迷を極めます。私の少ない経験の中では、地盤のことに詳しい専門委員の先生に当たったことは一度もありませんが。。。瑕疵保険制度のことさえご存じではない先生もおられます。

なぜ、こんな状態なのでしょうか?

住宅建築の分野で、「地盤」が認知されたのは、2000年に「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が制定されてからのことです。地盤に関する知識を教育する機会や制度は、未だに整備されていません。私が調べた国立大学の建築学科の必修科目には、地盤に関する科目が含まれていませんでした。それが「現実」です。

私は、地盤補償会社が、建築士事務所登録をして、より責任ある立場で地盤補償制度を運用してくれれば良いなあと思うのですが、そういう社会の実現のためには、まだ道は遠いようです。

4.まとめ

私は、工務店やハウスメーカーにお任せで家を造ることを否定しません。しかし、お任せするなら、お任せできる会社を見つける必要がありますよね。そのためには、基礎的な知識くらは持っていないと会社の良し悪しを判断することもできません。

特に、地盤に関することは、一度やってしまうと、やり直しが困難です。難しい問題を抱えないためにも、土地選びは慎重に!

神村真



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