• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

先日、私のところに消費者の方から、「工務店さんから、数社の地盤改良会社から提案された地盤改良工事を選ばなければならないのだけど、どすればよいですか?」という質問が届きました。そりゃ、困りますよね。今回は、こんなことになった時にどうすればよいか考えていきたいと思います。

  1. 戸惑う施主
  2. 複数の工法を提示された時にする質問
  3. 地盤に詳しい建築士
  4. まとめ

1.戸惑う施主

冒頭に書いた内容ですが、工務店さんから、地盤改良の見積書と配置図等を数種類見せられて、「どれにするか決めてください」と伝えられたとのことです。あなたが、これから家を造ろうとしている人なら、同じような質問をされるかもしれませんね。

工務店さんは、金額の異なる複数の工法を施主に提示し、施主に選択してもらうことで、納得感のある選択ができると考えられると思います。

私も、異なる地盤改良の方法を提示して、どれを選ぶかを施主に決めてもらうのが良いと考えていた時期があります。

私は、高品質の地盤改良方法や環境にやさしい地盤改良工法の開発に関与しています。これらの工法の工事費用は、一般的な工法よりも割高ですから、原価管理が肝の工務店さんは、あまり積極的に選択頂けません。このため、品質の良さや環境への配慮等、施主の「こだわり」に訴えることで、私の関与した工法の採用を促そうと考えていたのです。

しかし、工務店での打ち合わせの机の上に並ぶ地盤改良工事の見積書は、決して「機能やリスクが同じ」ものばかりではないのです。

機能やリスクが異なる内容の工事ですから、選択するためには、機能やリスクについて十分な知識がないと、とんでもないリスクをしょい込む可能性があります。

私に問合せをしてくださった施主は、提案されている工法が、直感的に、機能やリスクが同じではないことに気づき、困って私に問い合わせをしてこられたのです。

2.複数の工法を提示された時にする質問

さて、「機能とリスクが同じ」とはどういう意味?と思われましたよね?今から説明します。

現在、市場で採用されている地盤改良工法は、大きく二つのグループに分けられます。一つは、建物の重さを杭だけで支える方法(図1)。もう一つは、建物の重さを基礎下の地盤と杭で負担し合う方法です(図2)。

図1 地盤の支持力を期待しない方法
図2 地盤の支持力を期待する方法

両者は、見た目はよく似ていますが、前者は基礎下の地盤に何も期待しないのに対して、後者は基礎下の地盤に建物荷重を支える役割を期待します。このように、両者は、「異なる機能」の地盤改良方法なのです。

また、前者は、基礎下の地盤(地盤補強すべき地盤)に「何も期待しない」ので、建物荷重による地盤沈下の可能性は、ほぼありません(先端地盤を間違えると話は別ですが・・・)。一方、後者は、地盤補強すべき地盤に建物荷重を負担させるので、判断を間違うと建物荷重によって地盤沈下が発生します

このように、両者は、抱えるリスクが全く異なるのです。

このような、機能もリスクも異なる二つの地盤改良工法を示されて、「どっちにしますか?」と言われたら、私でも判断できません

複数の地盤改良工法を示されて、「どっちにしますか?」と聞かれたら、以下の三つのことを確認してください。建築士では、あなたを納得させる説明ができないこともあるので、地盤改良業者や地盤補償会社に、工法の説明をしてもらうようにお願いするのも良いでしょう。三つの質問は、してもしなくても良いですが、しておくと、建築士に余計な期待を抱く必要がなくなります。後述しますが、建築士のなかには、地盤のことを良く知らない人が結構な割合でおられます。

  • 各提案での「住宅を支えるメカニズム」
  • 各提案に含まれる「リスク」
  • 建築士が考える「ベストな工法」

これらの質問をして、あなたが納得できる内容のものがあれば、その工法を選ばれると良いでしょう。もしも、納得できる説明をもらえなければ、私に相談してください(有料ですが・・・)。

3.地盤に詳しい建築士

あなたは、住宅づくりでは、ずっと昔から地盤調査をしているとお考えですか?建築士は、地盤についての豊富な知識を持っていて、自分たちに適切なアドバイスをしてくれるとお考えですか?

もしそうなら、それはちょっとした勘違いです。

住宅建設の現場では、地盤調査を行うことが事実上義務化されたのは2009年10月からのことです。この年、2007年に公布された瑕疵担保履行法(特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律)に基づいて、新築住宅を売っている工務店さんや不動産屋さんに対して、住宅に不具合が出た時に補修費用を出せるように準備をしておくことが義務付けられました。この法律の制定によって、多くの工務店が瑕疵保険を利用することになりましたが、瑕疵保険会社が、住宅の四隅でスクリューウエイト貫入試験(SWS試験)を実施することを求めたため、SWS試験を実施することがようやく一般化したのです。

案外、最近のことですよね!

2000年に施行された住宅の品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)では、工務店や不動産屋さんに対して、「住宅の不具合について10年間責任を持つこと」が求められていたのですが、住宅分野ではこの責任を全うしていることを確認する方法がなかったので、品確法施行後も、SWS試験を行わない工務店が存在していました。

このような状態ですので、住宅分野では地盤のことを十分に学んでこなかった建築士が市場に多く存在しているのです。

建築学科を持つ多くの大学でも、地盤に関する科目は必須科目とされていないことが多く、2009年10月以降も、住宅分野で活躍する建築士の中には、地盤に関するリテラシーが低い人が多いのが実態です。

4.まとめ

さて、地盤改良工法を選ばなければならなくなたったら、何をすべきかはっきりしましたか?瑕疵保険が始まってから、10年以上経過したので、そろそろ、地盤に詳しい建築士で町はあふれかえっても良い頃ですが、なかなかそうもいかないようです。

施主は、多額のお金を使うので、地盤のこと、構造のこと、断熱のこと等、後からどうにかすることが難しいことについては、しっかりと勉強しておかれることを、私は強くお勧めします。

「何千万円もお金を払うのに、そんなことしなきゃいけないの?」と思われるかたは、株式投資のことを考えてみてください。数千万円の株式を購入することがある人は少ないと思いますが、購入する株式を発行している企業について、相当深く調べますよね?

住宅の場合、住宅ローンのために、高額な投資をしている実感が持てないかもしれませんが、十分なリターンを得るためには、相当勉強しないといけないと、私は思います。

神村真



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