• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

傾いた家を調べていると、色んな事象に出会います。厄介なのは擁壁です。この擁壁。地上高さ2m以下のものは、誰の審査も受けないので、不安定なものが作られている場合があります。今回は、宅地の中の擁壁の良し悪しを判断するポイントについて書いていきます。

  1. 擁壁の種類
  2. 安全な擁壁の形
  3. 注意すること
  4. まとめ

1.擁壁の種類

擁壁には、色々な種類がありますが、宅地でよく見かける擁壁は、写真1に示したコンクリートL型擁壁石積み擁壁(間知擁壁)です。

写真1 (i)コンクリートL型擁壁
写真1 (ii)石積み擁壁(間知石)

この他にも、色々な擁壁があります。

新し擁壁も怪しいものが多いですが、古いものは、全くメンテナンスされていないので、近づかないことをお勧めします。私は、写真2に示した大谷石や玉石を積んだ擁壁も「風情があってよい」とは思いますが、補強対策や維持管理がされていないのであれば、地震時や豪雨時には凶器になるので、私の行動範囲内からは撤去して頂きたいと思います。

写真2 (i)石積み擁壁(大谷石)
写真2 (ii)石積み擁壁(玉石)

以下では、こういう古い擁壁のことには触れまず、比較的新しい擁壁の安全性の確認方法に触れたいと思います。

2.安全な擁壁の形

「安全な擁壁」は、形を見ればおおよそ判断することが出来ます

コンクリートのL型擁壁

L型擁壁の形については、いろいろな市町村が標準形状を示しています。下には、横浜市の公開情報のURLを示しておきました。「第5編 資料集」の中に、擁壁の高さごとに、細かい寸法が書かれています。参考にしてください。

L型擁壁の場合、地上高さに対して底板の幅が確保されていなければ安定性を確保できません。このため、敷地内にL型擁壁がある宅地を購入される場合は、この擁壁底板幅に注目してください。

造成計画時の資料がある場合は、擁壁の断面形状が分かる資料を探してください。また、施工報告書で、所定の幅の底板が施工されていることを確認しましょう。

造成計画時の資料や施工報告書がない場合は、不動産屋さんにお願いして、横浜市等の示す擁壁形状と同程度の底板幅があることを確認してもらいましょう。売買契約前なので、どこまで協力してもらえるかは分かりませんが、鉄筋等を突き刺して、底板の存在を確認していく作業は、さして難しい作業ではありませんので、お願いしてみましょう。

不動産屋さんによっては、資料を取り寄せてくれなかったり、底板幅の確認に協力してくれなかったりと、非協力的な場合があります。こういう場合は、この不動産屋さんとのお付き合いはしないことをお勧めします。

【参考資料】横浜市「宅地造成の手引き」
https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kenchiku/takuchi/takuzo/kiseiho/tebiki.html

石積み擁壁(間知擁壁)

石積み擁壁の形状は、法律で規定されています。

下の参考資料には、石積み擁壁の地上高さと勾配に対して、各部の寸法が記載されています。

私たちが、簡単に確認できるのは、擁壁の地上高さと勾配そして天端幅になります。

【参考資料】宅地造成等規制法施行令第8条 別表第四
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337CO0000000016_20190401_429CO0000000232

擁壁の勾配は、スラント(https://jpn.tajimatool.co.jp/series/308)を使うと簡単に計測できます。ホームセンターで2,000円程度で売っています。高さが2m以下の石積み擁壁が敷地内にある場合は、高さと勾配と天端幅を確認して、上に示した別表第四の数値を照らし合わせてみましょう

3.注意すること

擁壁に必要な地耐力

形状が確認できて、ちょっと安心。かもしれませんが、もう一つ確認しておくことがあります。

擁壁を支える地盤の支持力(地耐力)についてです。

先に挙げた横浜市等、市町村が公開する擁壁の標準的な形状を示した図面には、必ず「地耐力」または「長期許容支持力度」という語句が書かれています。この数値は、擁壁の底板下の地盤に求められる強さです。地盤調査を行わないと確認する方法がありません。

ですから、「擁壁が作られているのに、地盤調査結果がない」という案件には注意してください。

水抜き孔

今の法律では、擁壁には、3平方メートルのついて一つ以上の水抜き孔が必要で、その穴の直径は7.5cm以上とされています。

水抜き孔は、擁壁の最下段付近とその上方に適当な間隔で千鳥配置します。水抜き孔が適切に配置されていても、水抜き穴から土砂が流出しているような擁壁には注意が必要です。

擁壁の上に自然斜面

石積み擁壁の上に、自然斜面が残っている。

こういう状況をしばしば見かけますが、これは、擁壁の高さを低く抑えるテクニックである可能性があります。お勧めできる斜面ではありません。

図1 下部にだけ擁壁がある斜面(何を防いでいるんだろう?)

擁壁の目地部分で面が揃っていない

擁壁と擁壁が隣り合う場所は、「目地」と言いますが。ここで、両方の縦壁の面がずれていたり、開きが大きい場合は、擁壁が動いている可能性があります。

擁壁の縦壁の上の部分が一直線に揃っていなかったり、たわんだように見える場合は、造成地全体が沈下している可能性があります。

4.まとめ

今回は、宅地に見られる擁壁の安全をどのように調べればよいのか?という点に触れました。

造成業者の中には、既製品の擁壁なら、どんな場所でも置いておけば良いくらいに考えている業者がいます。そういう感覚でなければ、水田に盛土をしてから数か月で「絶賛分譲中!」というノボリを掲げたりできません。知らないから、ああいうことができるのでしょうが、消費者にとってはたまったものではありません。

貧乏くじを引くのは消費者です。貧乏くじを引いている事すら気づいていない人もいるようです。

あなたは、どうしますか?

神村真



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