• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

土地を購入される方の声を聴いていると、不同沈下や地震のことを心配される声が多く、地盤にも関心が向いていてよいことだと思う一方で、気になることがあります。

家が傾きそうな地盤がある場所は、多くの場合、「低地」です。低地は、標高が低く、洪水の際には、浸水する可能性が極めて高い地域です。この危険性をどのように評価するのかは、地盤が軟弱であることよりも深刻な問題だと、私考えています。

今回は、低地に家を建てる場合に、配慮しておくべきことについて考えたいと思います。

  1. 不同沈下リスクが高い地形
  2. 浸水リスクの存在を忘れている
  3. 浸水リスクは許容できるのか
  4. まとめ

1.不同沈下リスクが高い地形

私のクライアントや一般の消費者の方から、「この土地、地盤大丈夫ですか?」と尋ねられることがしばしばありますが、それらの土地は、9割くらいの確率で「低地」に属しています。水田だった土地に盛土をして宅地にしたものです。

私は、後背湿地や旧河道等、長期間に渡って湿地であった地域以外は、盛土による沈下が終了していれば、ある程度の費用の中で沈下対策は可能だと考えています。

なぜ、湿地だった場所は、沈下リスクが大きいのかというと、湿地に生えていた葦など植物が未分解のまま残された「腐植土」という「変な土」があるからです。この「変な土」は、「普通の土」とは構造がことなりますので、沈下量が大きく、長期に渡って沈下し続けます。

また、この地形は、湿地だったのですから、周囲よりもさらに低い土地になります。このような場所は、洪水によって浸水すると、最後まで水が引かない地域になるでしょう。

2.浸水リスクの存在を忘れている

低地は、軟弱地盤が堆積していること以外に、「浸水リスクが高い」という問題も抱えています。

「保険でカバーできる」とか「行動(早期避難)でカバーできる」とか言いますが、新築住宅をせっかく購入したのに、大雨のたびに、避難所に行きますか?

「保険でカバーする」場合と「行動でカバーする」場合について、ちょって想像してみましょう。

保険でカバーする

浸水すると少なくても1日~1週間は避難所で暮らします。場所によっては数日水が引きません。水が引いたとしても、床上浸水なら、補修が済むまで数か月は自宅で過ごせません。2階が冠水していなければ、2階で生活するという手もありますが、台所やお風呂は1階にある場合が多く、普通の生活はできないでしょう。

浸水した地域が広い場合は、復旧は順番待ちです。規模の大きなメーカーで建設した人のケアは比較的早いですが、小規模な工務店で建てた家の復旧には、相当の時間を要するでしょう。

また、泥だらけの家を綺麗にするのは、家のオーナーの仕事です。お勤めの方は、被災後数日は有休をとって、仮住まいを探して、被災した家の大まかな片づけをして、その後は、週末ごとに少しづつ片付ける。こういう日々が続きます。

恐らく水道の復旧にも時間を要するので、最初の1週間は水を使った後片付けができないので、作業はあまりはかどりません。。。

それから、避難所は快適な場所ではありません。トイレも自由にいけません。スマートフォンの充電もままなりません。

洪水に遭うと、こういう苦労をすることになります。こういう「苦労」は、保険で賄えません。

行動でカバーする

どの程度の雨が降ったら避難所に行けばよいのでしょう?

気象庁が出す警報等の「気象情報」と避難指示と対応する「警戒レベル」の関係が以下のサイトにあるので、ご確認ください。

【参考資料】気象庁 防災気象情報と警戒レベルとの対応について
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/alertlevel.html

大雑把に言えば、家族に高齢者がおられる場合は、「警報が出たら避難を始めましょう」ということになっています。小さいお子さんがおられる家庭も同様と考えてよいでしょう。

警報は、梅雨時、台風シーズンを通して、何度か発令されています。そのたびに、避難をする必要があるのです。

ちなみに、内閣府の避難情報に関するガイドラインには、以下のような記述があります。

自治体などが、避難に関する情報を提供してくれるけれども、いつ逃げるか、どこに逃げるかは、自分で判断してくださいということです。

居住者等は、このような既存の防災施設、行政主導のソフト対策には限界があることをしっかりと認識するとともに、自然災害に対して行政に依存し過ぎることなく、「自らの命は自らが守る」という意識を持ち、自らの判断で主体的な避難行動をとることが必要である。

避難情報に関するガイドライン 令和3年5月 内閣府(防災担当)

3.浸水リスクは許容できるのか

 2.で示したような苦労は、その土地に住まなければ「する必要のない苦労」です。「そんなことにはならない」、「そんな洪水は生きている間にない」という考えが頭をよぎるでしょう。確かに、洪水が発生するような大雨は、百年に1度の確率かもしれませんが、その大雨は、いつ降りますか?

百年に1度の大雨は、明日降るかもしれないのです。確率とはそういうものです。

ギャンブル好きの方は、運を天に任せて水害リスクの高い土地を購入し、天寿を全うされてから「俺の勝ち」とほくそ笑めばよいのですが、その土地は、あなたの家族や子孫のどなたかに引き継がれる可能性があります。あなたはイチ抜けかもしれませんが、その危険な賭けは、あなたが死んだ後も続くのです。

過去の浸水履歴等から、浸水深が明らかな土地の場合、浸水リスクを低減させる方法は、以下の三点でしょう。浸水履歴が分からなければ、河川水位の標高と対象地の標高から、浸水深を想定することも可能でしょう。

  • 土地をかさ上げする
  • 構造による対応
  • その他

土地のかさ上げをする

この方法は非常に有効ですが、敷地内に盛土を行うことになるので、それによる沈下が発生します。なお、盛土すると、地盤が水平方向にも移動します。これによって隣地にも影響が及ぶので、盛土の前に、このような周辺への影響について詳しく調べておく必要があります。

また、盛土による沈下が安定するまで、時間を要します。先に示した後背湿地のような場所では、盛土による沈下が数年しても継続することがあります。

盛土の前に、対象地の沈下特性を十分に把握しておきましょう。

構造による対応

盛土するのは大変なので、基礎を高くしたり、1階が駐車場になっているピロティ―構造を採用したりすることで、土台より上の構造が水に浸からないようにします。盛土をするよりも、敷地の制約を受けません。

住宅分野には地盤のことを良く理解している人が少ないので、構造での対応がより現実的でしょう。

その他

最近では、コンクリート塀を止水板として敷地を囲むことで、浸水を防止しようとする製品も販売されています。門扉などの開口部の止水方法には工夫が必要なのでしょうが、こういう方法であれば、購入後に浸水リスクが気になるようになった場合でも、対応できそうです。

【参考資料】塀のねっこ
https://concretus.jp/license/heinonekko/

なお、浸水リスクを許容できると判断している方は、自分が高齢になられた時のことも十分にお考え下さい。私は今年51歳ですが、普段、体を使っていないので、泥で埋まってしまった住宅の後片付けをできる自信がありません…

4.まとめ

土地の購入の判断は個人の自由ですが、浸水リスクのある土地に人が住み続ける限り、個人住宅の浸水被害は無くなりません。極端な話をすると、浸水リスクのある土地に誰一人住まなくなれば、個人住宅の浸水被害がなくなります。

今、浸水地域に居住されている人は、3.で示したその他の方法等、個人でできる対策を検討頂きたいと思います。新たに浸水地域の土地を購入することを検討されている方は、浸水によるリスクを許容することについて、十分に検討してください。

今から50~60年ほど前までは、浸水地域に住まれている人たちは、納屋に小舟を常備されていたり、お米を貯蔵する蔵や母屋を高く積んだ石垣の上に建設したりと、個人でできる工夫は色々とされていたようです。現代人が、そのような備えをしなくてよい理由はありません。リスクに対してどのように備えるか。十分にご検討頂きたいと思います。

神村真



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