• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

数年前に独立して、様々な不同沈下案件を、純粋に一技術者の視点で見ることが出来るようになると、住宅分野での課題が目に留まるようになりました。その一つが、「SWS試験だけやっていればよい」という思い込みです。私は、住宅建設の地盤調査として、SWS試験だけでは全然足りないと考えています。

今回は、「SWS試験だけやっていれば良いなんて、誰も言うてへんよ」というお話。

  1. 必要な地盤調査項目
  2. 住宅建設のための地盤調査の実態
  3. 必要な地盤調査が行われない理由
  4. まとめ

1.必要な地盤調査項目

住宅以外の建築物や構造物をつくる時、設計者は、少なくとも、次の4点について考えています。

  • どの程度の支持力を期待できるのか
  • 沈下量はどの程度になりそうか
  • 液状化の危険はないか
  • 敷地内に斜面や擁壁があるなら、その安定性はどうか

建築の場合、第二項目を考えるのが難しいので、杭基礎を採用する傾向が強いように感じます。

なぜ、「難しい」と考えられるかというと、建築物の傾き(不同沈下)の許容値が小さく、これをクリアすることを考えるなら、杭基礎にして沈下の発生リスクをゼロにする方が簡単だからです。

2.住宅建設のための地盤調査の実態

住宅建設のための地盤調査で多用されるスクリューウエイト貫入試験(SWS試験)では、以下の3項目を知ることが出来ます。

  • 地表面付近の地盤の支持力
  • 住宅を支えることが出来る硬い地層の出現する深さ
  • 建物の重さに対して地盤が沈下する可能性

SWS試験のみでは、「沈下量の大きさ」や「液状化の危険性」について知ることは、難しいのです。

特に、長期間に渡って沈下が継続する「圧密沈下」については、その発生の可能性を推測することは可能ですが、沈下量を予測することは難しいのです。

つまり、住宅建設のための地盤調査では、その他の建築物や構造物の設計時に考えられていることが、考えられていない可能性が高いのです。もちろん、優秀な設計者は、住宅以外の建物と同様に検討をしていると思いますが、そのために必要になる費用は、SWS試験だけ行う調査費用よりも格段に高額になります。

「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」が施行された約20年ほど前は、SWS試験が不十分な調査であることが、ぼんやりと理解されていて、沈下の可能性があれば、硬い地層まで地盤改良することが普通のことでした。

それが、次第に地盤改良工事費の価格競争が激化していきます。改良業者は、地盤改良のコスト低減を目的としたさまざまな地盤補強工法を考案し、第三者機関で技術審査を受けて市場に投入していき、結果としてさらに価格競争が激化することになりました。

私は、経済性を追求することが悪いと言っているのではありません。

私の指摘のポイントは、「沈下リスクや液状化リスクを確認できないSWS試験結果だけを頼りに、経済性を追求することは、住宅の基礎の性能を曖昧にしている」という点です。

3.必要な地盤調査が行われない理由

住宅建設のための地盤調査費用は、地盤補償をつけて、数万円です。

この調査で得られる内容は、先に述べたように、以下の2項目です。

  • 地盤の支持力
  • 不同沈下の可能性(地盤改良の要否)

まれに、液状化についてのコメントを入れている調査結果も目にしますが、既存のハザードマップを参照した程度の内容です。また、調査報告書に記載されている地盤の支持力や沈下の可能性は、いずれも、日常的に地盤に作用する荷重(常時荷重)だけを対象にしています。

地震のことは考えていません。

斜面や擁壁の安定性に至っては、崖条例などの基準(敷地内に、傾斜角が30度超で、高さが2m超の斜面がある場合に、建築時に様々な制約が付与される)に関する注意喚起程度にとどまります。

数万円なので、この程度の調査内容が妥当なところでしょう。

「え?そうなの?」

と思われ人は、工務店に、次の質問をしてみてください。

「建物の重さはどの程度ですか?その重さは地震時にはどうなるんですか?

許容応力度法で構造計算している工務店は、上記の問に回答できるはずですが、その他の工務店は回答できないでしょう。

建物の重さも知らないのに、地盤の検討をするのが、多くの工務店のやっていることなのです。つまり、地盤調査はポーズです。瑕疵保険を付けるために、SWS試験をやらなければならないから、やっているだけです。

困ったことに、建築基準法も、こういう工務店を支援するような基準を示しています。構造計算を行う工務店から見れば、このような基準の存在価値を理解することはできないでしょう。

「地盤の長期に生ずる力に対する許容応力度」が、1平方メートル当たり20kN以上あればべた基礎を、30kN以上なら布基礎を、それぞれ採用できる(平成12年建設省告示第1347号)。

構造計算をしない工務店は、これを根拠に、「うちはべた基礎が標準なので、地耐力が1平方メートルあたり20kNあることを確認しています!」と答えることでしょう。これは、あなたの問の回答になっていませんね!

工務店が答えたのは、地盤の長期許容応力度の下限値であって、建物の荷重ではない。さらに、地震時に考えておくべき荷重についても、何も答えていません。

構造計算していない工務店は、あなたの問に答えられないのです。

このように、工務店が、安全な建物を建築するために必要な事項を理解していないことが「普通」なのです。なぜなら、構造計算しなくても家を造る仕組みが存在しているからです。ああ、何と悲しいことでしょう。できない人を基準に、法律が作られているのです。

お金を掛けて、地盤のリスクを明確にすべきであることを、私が訴えると、次のような声が返ってきます。

「今の地盤調査の内容で、家は傾いていないから、詳しく調べる必要は全くない」

困ったことに的を得た回答のように聞こえます。

確かに、傾いていないというのは事実です。しかし、その住宅が、実際に「どの程度の安全性を確保できいるのか?」は、全く分かりません

いくつか例えを挙げましょう。

<例1>あなたの土地の隣地で宅地造成が行われました。高さ1mほどの盛土がされたようです。造成盛土の影響で、あなたの家が不同沈下することはないのでしょうか?

<例2>あなたの土地で液状化が発生しました。あなたの家は、安全なのでしょうか?

<例3>地震によってあなたの土地の擁壁が倒壊しました。あなたの家は安全なのでしょうか?

SWS試験しかしていない場合、また、住宅の荷重によるリスク評価しかしていない場合、上記のようなリスクに対して、住宅がどの程度安全なのかを示すことは不可能でしょう。

さて、あなたは、SWS試験のみの地盤調査で満足でしょうか?

4.まとめ

住宅に何らかの瑕疵があった場合に、補修費用などを補填してくれる瑕疵保険は、地震による被害に対して免責です。

このことは、日本の住宅は、基準法レベルの設計では、地震で家が傾く可能性が極めて高いことを意味しています。

だから、耐震等級3に注目が集まるのでしょうが、地盤にも注目しましょう。建物が耐震等級3を満足していても、地盤がダメで被害を受けていては、何の意味もありません。

全ての工務店が地盤に精通した専門家である保証なんかありません。同じように、地盤の専門家を名乗る企業が専門家である保証もありません。

住宅は、数千万円の投資です。十分に目を養ってから、パートナーを探すことをお勧めします。

神村真



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