• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

私は、災害に遭う可能性の高い場所に、土地を買い求めることに否定的な立場をとっていますが、あなたが、その場所のリスクを理解して、その場所に住まうことを決められたのであれば、私は、あなたのリスクを最小化するお手伝いができます。

大切なことは、その土地を購入することによって、あなたが「どんなリスクを背負うのか」ということを理解し、損失を最小化するために行動することです。残念なことに、このようなリスクを管理するということが、私たちの生活ではまだまだ一般的になっていないように感じます。

今回は、前回と同様にリスクマネジメントに関わるお話です。なかなかご理解を頂きにくいテーマでもあるので、何度も取り上げてしまって申し訳ありませんが、お付き合いください。

  1. 思考停止が大きな損失を生み出す
  2. 受け入れがたいことを受け入れない
  3. 資産としての住宅
  4. まとめ

1.思考停止が大きな損失を生み出す

地盤が悪い場所は、多くの場合、水害等、災害に出会いやすい場所ですので、そういう場所を、「わざわざ選んで私財を投入する必要があるのか?」ということを、私はしばしば問いかけています。

しかし、「そういう場所しか自分には購入できない」という声も頂きます。

誤解があるようなので、私の考えをもう一度整理しておきましょう。

災害に遭いやすい場所に土地を求めるのは、あなたの自由です。

あなたにとって価値ある住まいをそこに作るのであれば、私はそれを否定しません。

私の指摘は、「あなたが描いた価値を維持するために必要な行動や資金のことを考慮していますか?」ということです。

「自分が購入できる土地は、こういう場所しかないから」ということを理由に思考停止してしまっては、災害という大きなリスクに向き合おうこともできません

「こういう場所だからこそどう対応するのか?」

そこがとても大切です。

2.受け入れがたいことを受け入れない

例えば、水害に遭遇する可能性が高い、河川近くの水田を埋め立てた盛土造成地を購入した場合、あなたは「どんなリスクを受け入れたのでしょう?」

このような地形ではざっと以下のようなリスクが存在するのですが、それぞれを受入れるために、必要な行動がありますし、必要な費用があります。受け入れがたいリスクもあるでしょう。

  • 豪雨によって住宅が冠水する(場合によっては全壊になる)こと
  • 警報が出されるたびに避難所に向かうということ
  • 避難中に家族が危険な目に遭う可能性があるということ
  • 転売時にはリターンは得られない可能性が高いということ
  • もしかすると、将来、移転を求められるかもしれないということ
  • 盛土の自重で圧密沈下が発生し住宅が傾くこと
  • 隣地に同様に盛土が行われたことで住宅が傾くこと
  • などなど
2015年9月関東・東北豪雨の洪水被害の写真
写真 河川の氾濫で水没した街並み

あなたが土地を購入する場合、このようなリスクの対策費用を考慮するとともに、リスクを受け入れる条件を設定しておく必要があります。

例えば、三つ目の項目「避難中に家族が危険な目に遭う可能性があるということ」について考えてみましょう。

このリスクに対応するためには、豪雨の可能性がある場合に、より安全な場所に家族で避難するという対応が必要になります。これによって、このリスクを受け入れることが可能になります。

近隣住民との関係が良好であれば、地域の避難所を選択肢とすることも可能ですし、近くのより安全な地域に実家があるなら、なお好都合でしょう。この場合、対策に必要な費用はほぼゼロです。一方、そのような都合のよい場所がない場合、宿泊施設を避難場所として利用することになるので、避難ごとに費用が発生します。この費用の推測のためには、1年間に何度、避難警報が出ているのか、避難に使える宿泊施設の費用はどの程度か等を調べておく必要があります。

このように、様々なリスクを、あなたが受け入れることが出来るようなものに、一つ一つ変換ていく必要があります。

場合によっては、土地を購入すること自体を遅らせるという判断もあり得ます。

3.資産としての住宅

上記のようなリスクに対する対策費用を書き出していくと、結構な金額になっていくことに気づくと思います。

これらの費用の中には、土地の購入時や住宅の建設時に必要になる「初期費用」と「毎年必要になる費用」に分けられるはずです。なお、住宅建設時に抜本的な対策を行うことで、初期費用がかさみますが、毎年必要な費用を圧縮できる場合もあります。

土地や住宅を購入する場合は、購入費用だけではなく、これらのリスク対策費用も考慮しておく必要があります。

なお、「毎年必要になる費用」はローンで対応できませんから、家計を圧迫します。このため、土地の購入時には、あなたのキャッシュフローについて十分に検討しておくことが必要です。このため、対象となるリスクが、住宅建設時に何らかの対策工事を行うことで解消できるなら、対策費用を住宅ローンに組み込んでしまうということもありかもしれません(返済額は増えますが・・・)。

また、住宅は、メンテナンスフリーではありません。必ず維持管理費が発生します。維持管理費を毎年積み立てることになりますが、先ほどのリスク対策費も含めると。住宅を購入するということは、購入後も結構お金のかかるお話なのです。

このように、毎月の支払いがかさんでくると、維持管理費の積み立てやリスク対策費をカットする家庭が現れます。例えば、私は、東日本大震災で被災した方を訪問することが何度かあったのですが、地震保険を解約している家庭が結構ありました。これをやると、受容可能になっていたリスクが受容不可能な状態に変わってしまいます

受容不可能な状態に変化したリスクが何かにもよりますが、例えば、住宅の損害を補填するための保険であったとすると、保険で賄えたはずの修理費用が、「見えない負債」として現れることになります。その家に住まい続けている間に災害に遭わなければラッキーですが、災害に遭った時点で、この負債が顕在化します。場合によっては、あなたの家計は債務超過に陥るかもしれません。

土地購入時には、このようなことまで考えておかないと、これから起こる様々な変化に対応することが出来ません。

4.まとめ

私は、まだ50代ですが、20代後半に独立してから、人並みに色々なことがありました。人の人生は短いものですが、この先もまだまだ様々な試練に出会うと考えています。

特に土地や住宅を購入するということは、個人の経済にとっては、ものすごくインパクトのあることです。日本の住宅は、多くの場合、転売によって利益を得ることができないので、住宅は「資産」として計上はされるものの、その購入や維持のための負債の方が大きいことが多く、個人の純資産を大きく圧迫しています。

ですから、想定にない災害等による被害が発生すると、たちまち債務超過に陥る危険性があります。

住宅の一次取得者で、ここまで考えて住宅を購入する人はあまりいないと思いますが、健全な経済状態を維持して、安心して生活していくためには、考えておくべきことです。

楽しい住まいづくりを実現し、子供たちに安心して成長できる時間と場所を提供するためには、面倒でも、災害などのリスクにしっかり向き合う必要があるのです

神村真



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