• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

「住宅の重さで住宅が傾く」というこは、実は、一般の人にとっては「受け入れがたい事実」のようですね。それどころか、建築士の中にも、その「事実」として受け入れられない人もいるようです。

普段足の下で自分を支えている地盤が軟らかいということを認識することは、確かに難しいですね。

中学を卒業してから、ずっと土木分野の勉強ばかりしている私にとっては、「住宅の重さで家が傾かない」と考えることの方が困難なのです。

今回は、「地盤はかなり軟らかい材料だ」というお話。

  1. 地盤の軟らかさ
  2. 軟らかいと何が問題なのか
  3. もう一つの問題
  4. まとめ

1.地盤の軟らかさ

モノづくりの場では、材料が硬いことが良いことなので、「軟らかさ」という言い方はしません。

モノの硬さを表す指標に「変形係数(ヤング率)」というものがあります。

図1に長さL、断面積Aの物体に、力Pを作用させた場合に計測される力Pと変位量δ(デルタ)の関係を示します。図では、力Pを断面積で割り算した応力σ(シグマ)と、変位量δを長さで割り算したひずみε(イプシロン)の関係にしています。「変形係数」は応力~ひずみ関係の「初期勾配」のことです。

変形係数は、「与えた力に対してどれくらい縮むのか」を表した値なんですね。

図1 応力σとひずみεの関係と変形係数

いくつかの材料の変形係数を見てみましょう。

  • 鉄骨などの鋼材の変形係数は、約205,000N/mm2です。
  • コンクリートの変形係数は、約22,000N/ mm2 です。
  • 材木の変形係数は、約10,000N/mm2 です※。

鋼材は、コンクリートの約10倍の硬さです。材木は、コンクリートの半分くらいの硬さです。自然のモノにしては硬いですね!

一方、地盤はどうでしょうか?

沈下の可能性があるとされる地盤の変形係数は、約2.1N/ mm2 以下です。

沈下しそうな地盤は、コンクリートよりも約10,000倍以上軟らかいのです!

ちなみに、住宅を支える杭の先端地盤は、沈下の可能性があるとされる地盤よりも、たかだか、数倍硬い程度です。

わたしたちは、毎日、舗装された道を歩くことがほとんどですが、その下の地盤は、実は、とっても軟らかいものなのです。

【参考資料】林産試だより 2006年2月号 特集『景観に配慮した木製道路施設
Q&A 先月の技術相談から〔木材の強度の基準値〕
https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fpri/dayori/0602/5.htm

2.軟らかいと何が問題なのか

地盤は、軟らかい材料なので、建物の重さが作用すると変位量が生じます。この変位量を「沈下」と言います。

ここで、注意をしたいのは、「沈下が生じるので、建物を支えることができない」というワケではないことです。

例えば、木造二階建ての場合、基礎底面から地盤に伝わる力は、約10kN/m2 だと言われています。沈下の可能性を考えなければならない地盤の強さ(支持力)は30kN/ m2 です。

あれれ、全然、余裕ありじゃないですか?

地盤に伝わる力=約10kN/m2  >  地盤の強さ(支持力)=30kN/ m2

そうなんです。

沈下が生じても、地盤は、建物を支えることはできるのです。

でも、その沈下量が大きすぎたり、基礎の東側と西側で沈下量が異なったりすると、生活にさまざまな問題が発生します。

例えば、傾いた家で長く生活すると、体調を崩すこともあるのです。

だから、住宅の重さに対して、生活に支障を来すような沈下が生じないことを確認しなければならないし、沈下の影響が大きい場合は、何らかの手当をしなければならないのです。

住宅の他の部材でも、同じようなことを考えなければならない部材があります。例えば、床を支える梁(はり)がそうですね。

あなたが、すごく大きなリビングを実現しようと思うと、天井を支える梁は、とても長くなります。

同じ重さのモノを支えるなら、梁の長さが長くなるほど、たわみ量は大きくなります。床がたわむと生活しずらいので、できるだけたわみを抑える必要があります。さて、どうしましょう。

単純に、「硬い材料を使う」という方法がありますが、「梁の高さを大きくする」という方法でも対応できます。

例えば、定規をイメージしてください。定規は平たい面を上に向けると簡単に曲がります。ところが、寸法を測る部分を上向きにして曲げようとしても曲がりませんね。同じ材料、同じ長さ、同じ断面積ですが、高さを大きくすると、材料は曲がりにくくなります。

この特性を使えば、大きなリビングを実現するためには、背の高い梁を使えばなんとかなりそうですね。

ほら、建物の方でも、変位量(たわみ)に注意していますよね。地盤は、梁と同じように、強さだけではなく、硬さについても確認する必要があるんですよ。

3.もう一つの問題

地盤には、木材にない性質がいくつかあります。地盤が「圧密(あつみつ)」という現象を示すことは、その代表的なものです。

地盤は、非常に隙間が多い材料なのですが、中でも粘性土は、隙間がめちゃくちゃ小さい土です。

粘性土というのは、「粘土」を主成分とする土のことです。「粘土」は焼き物にも使われる材料です。幼稚園から小学校低学年でよく遊んだ油粘土も粘土です。あの油粘土。隙間があることに気づきましたか?気づきませんよね?粘土の隙間はそれぐらい小さいのです。

そういうところに住宅の重さが働くとどうなると思いますか?

あなたが、お漬物をつけたことがあったり、麻婆豆腐を作るときに豆腐の脱水したことがあったら想像できると思います。

答えは、「長い時間をかけて水がしみ出してきて、地盤が縮む(沈下する)」のです。

このような沈下現象を「圧密沈下(あつみつちんか)」と呼びます。

漬物は数か月、豆腐は数時間で圧密が終了しますが、地盤の場合、圧密沈下が終わるまでに数年を要します。

つまり、地盤は、強さ(支持力)だけ見ていてもダメだし、強さと硬さ(変形係数)だけ見ていてもダメ。「強さ」と「硬さ」と「土質」の三つを見て、長期的に建物を安全に支えることができるのか?という判断をする必要があるのです。

4.まとめ

「地盤は難しい」とよく言われます。その理由は、地盤調査の段階で、「強さ」と「硬さ」と「土質」を見ないからです。情報がないのに、地盤のことを理解できる訳がありません。

私は、個人資産の中でも購入費用が最も高額になる住宅づくりでは、地盤調査にもっとお金を掛けるべきだと本気で考えています。せっかくの住宅建設なのに、足元になる地盤をしっかり見ないなんて。。。

実は、このことは、私自身が家造りをした時に、とても後悔した点でもあります。その話はまた別の機会に。

神村真



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