先日、とある建築紛争の調停の場に同席する機会がありました。
そこで、専門家であろうがなかろうが、「意思決定すべき人が、自分のあたまで考えずに行動することで、色々な問題が発生するんだなあ」と改めて考えさせられました。
今回は、建築士が、地盤を扱う際に注意頂きたいことについてです。
建築紛争の調停の場に同席すると、技術者として行うべきことは、「自分の選択に対して、想定しうるリスクを顧客に説明すること」だなあと思うことがよくあります。
私のような専門家は、問題が発生すると、顧客に対して想定されるリスクについて説明責任を果たしたか否かを問われます。そして、説明責任が果たされていないと、結構大きな責任をとらされます。ルールに従って仕事をしていてもです。
特に、相手側が消費者の場合ほど、説明責任に対する過失割合が大きいようです。
ルールは、技術的に十分なものではない場合がほとんどなので、この「説明責任」というのは、非常に重要です。
例えば、地盤改良工事の場合、平成13年国土交通省告示1113号(建築基準法施行令第93条に定める国土交通大臣が定める方法が規定されています)に定められた方法で行った地盤調査結果に基づいて、地盤改良の方法やスペックを決めたとします。
告示では、六つの地盤調査方法と四つの試験方法が示されているので、どの地盤調査方法を用いたかによって、決定した地盤改良工事の仕様の信頼性が変わります。この違いが、「どのようなリスクを含んでいるか」を、専門家は消費者に対して説明する必要があるのです。
こういう話をすると、建築士の中には、「自分は地盤の専門家ではない」ということを言い出す人がいますが、そういう言い逃れは、調停や裁判の場では通用しません。
この地盤調査方法に関する規定は、先に示したように建築基準法に書かれたものです。建築士は、地盤の専門家ではなくても、調査方法の違いや調査方法の違いによって生じるリスクについても知っておく必要があるのです。
自分でできない場合は、地盤改良仕様を持ってきた地盤改良会社に対して説明を求め、自らが理解することが必要なのです。
地盤改良工事のお話をしたので、もう一つ地盤改良のお話をしましょう。
地盤改良工法の開発をしていると、「とにかく経済的な工法を造りたい」という声を耳にしますが、私は、その声を聴くのが非常に苦手です。その理由は、「経済的」の定義があいまいだからです。
例えば、鋼管杭と柱状改良工法の二つを比較した時、どちらが経済的でしょう?
同じ重さの建物を支えるのですが、鋼管と柱状改良では、鋼管と柱状改良体では断面積が全然違うので、必要になる先端地盤の強度やその出現深度も全然違うはずです。
こういう仕様の異なる地盤改良工事の経済性を比較する場合、各工事で得られる性能やその信頼性をそろえておく必要があります。
仮に、この工事を行う場所が液状化の危険性がある地域だったとしましょう。
鋼管は液状化のリスクを考慮して先端地盤を非液状化層としています。一方の柱状改良の仕様は、液状化のリスクを考慮していません。
当然、改良工事費用は、鋼管が柱状改良よりもかなり高いでしょう。
しかし、液状化発生時の被害額数百万円を考慮すれば、鋼管は、柱状改良と比較にならないほど高い経済性を示すでしょう。
地盤改良工事の経済性の比較は、このように、性能や信頼性が全く違う両者を比較していることが非常に多いのです。
「説明責任」と「経済性」の二つのお話をしました。
一つは、自分が提供するサービスに含まれるリスクを説明すること
もう一つは、経済性を考えるなら、性能等の提供する価値をそろえること
この二つのことを実行するためには、あなたが提供するサービスやモノの価値、それによって消費者が得る利益を十分に知っておく必要があります。また、利益の一方で、残されているリスクが何かについても理解しておく必要があります。
要は、意思決定に対して主体性を持つことが重要だということです。そのためには、自分のあたまで考えて、結論を出す必要があります。
ところが災害や地盤によって生じた被害についての建築紛争の場では、業者も消費者も、一様に他人任せな姿勢がとられます。
あるベテラン建築士は、「建築士は地盤を学ぶ機会がない。だから、地盤は専業者に任せるんだ。」ということを言われました。
それはそうでしょう。お気持ちが理解いたします。
しかし、専業者は、建築士ではありません。
家造りは建築士にのみ独占が許された業務です。意思決定は、建築士にしかできません。
地盤のことを専業者に一任するのであれば、建築士事務所登録している専業者をご利用ください。
社会派ブロガーのちきりんさんが「自分のアタマで考えよう」という本を出版されていますが、この「自分のあたまで考える」ということは、本になるくらい難しいことです。
なぜか?
面倒だからです。
自分で考えるためには、その分野の基本的な知識が必要になります。それなりにまとまった時間も必要です。
しかし、忙しい私たちは、この考える時間がないのです。だから、人に任せる。
いや、丸投げする。
これをやってしまうと、丸投げした分野についての意思決定が出来なくなります。
そして永久に自分のあたまで考えられなくなる。
これは、「まずい」。
地盤は建物を支える重要な材料です。ここがモヤっとしていると、建物の性能モモやっとします。
地盤についての学びの場は、私が用意します。近々、お知らせできると思いますので、ご興味のある方はDMください。
神村真