• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

家を買う時、洪水や地震で被害に遭いたくないな。と考えるのが人情というもの。あなたは、お客さんから、「この場所で、水害や地震で被災しない家を作りたいです」と言われたら、どうしていますか?

「そんなん言われましても、ここ低地なので、洪水被害に遭わないとは断言できません」と回答されている方は、まともな方だと思います。人によっては、「火災保険の水災特約を付けていれば、冠水しても大丈夫ですよ」と答えているかもしれませんが、本当に大丈夫なんでしょうか?

浸水した家を、浸水前と同じ性能に戻すためには、相当な現状調査とそれに基づく対応が必要で、このような対応を、どこの工務店でもできる話ではないと、私は考えています。

であれば、建築士としてできることは何かなと考えると、その場所で想定できる災害に対応するための家を作るしかないのではないでしょうか。

例えば、想定される浸水深より下の部分は、鉄筋コンクリート造にして、木造部分は冠水しないようにする。建築予定地が比較的広いのなら、浸水深を超える盛土を行って、住宅が冠水しないようにする。とか。

こういう工夫を提案するのが、建築士のお仕事ではないかと思います。

実際、地震については、耐震等級の高い構造を勧めておられますよね?

これは、想定される水平力に対して、より安全性の高い設計をしましょうということだから、先ほどの水害に対する対策と同じですよね。

耐震性に関する話が活発にされるようになったのは、2000年の品確法施行からのお話なので、水害については、まだまだなのかもしれませんが、地震と同様に考えるべきだと、私は思います。

今回は、そのための気づきになるお話を、ちょっとだけします。

1.ハザードマップを読む

冒頭でお話したように、建築士は、その場所で起こる可能性のある事象に対して安全な家を提供するのが仕事だと、私は理解しています。この場合、お客さんが、「ここに家を建てたい」と言ったら、その場所に応じた対応策を考えるのが、建築士のお仕事になります。

なので、まずは、「この場所で、どんなことが起こるのか?」を知らないといけない。

国土地理院は、洪水、土砂災害、高潮、津波に関するハザードマップを同時に見ることができる「重ねるハザードマップ」というサービスを提供しています。だから、お客さんから話がきたら、とにかく、このサイトを開いて、「お客さんの土地では、どんな災害に遭う可能性があるのか」を調べます。

【参照】国土地理院 重ねるハザードマップ https://disaportal.gsi.go.jp/maps/

問題は、このハザードマップをどのように見るか?という点です。

ハザードマップを一般の人に見て頂くと

「うちはギリギリのところでセーフで安心しました」

というような感想を耳にするのですが、この考えでは、災害から身を守られません。ましてや、プロフェッショナルは、そんなことを言ってはいけません。

必ず、現地の様子を見て、ハザードマップとの整合性を確認してください。

災害のたびに報道されますが、ハザードマップで危険性を開示されていない箇所は、多くあります。これは、ハザードマップの限界でもあるし、そもそも対象河川が限られていることもに注意してください。

ハザードマップのどこかに、「●●川が氾濫した場合」という文言が書かれています。支流は対象になっていない可能性があるので、要注意です。

2.確認されていないハザード

静岡大学防災総合センターの牛山先生は、洪水や土砂災害で亡くなられた方が、「どこで遭難されたのか」という情報をデータベース化しておられます。

先生の論文を読んでいると、土砂災害の犠牲者の約8割が、ハザードマップで「危険だよ」と言われていた場所で遭難されています。一方、洪水の犠牲者の約4割が、ハザードマップで「危険だよ」と言われた場所で遭難されています。

この違いは何か?

先生の論文を拝読する限り、洪水に関しては、洪水の原因になる全ての河川について危険性が公開されていないことと標準的な分析方法では、全ての危険な箇所を明示することが難しいことが、その原因だと考えられます。

浸水深度の特定は、地図情報を使って計算されているので、平地と台地の境界部等は、解析精度が低く、色分けが必ずしも実態を表現しているとは限りません。また、全ての河川について浸水深が予測されていません。大河川に流れ込む支流については、情報がないものもあります。

このような状態なので、先にも述べたように、ハザードマップだけを見て、一喜一憂することは危険です。必ず現地に出向くことと、地形をよく見ること。これを忘れてはいけません。

【参考文献】牛山素行:豪雨による人的被害発生場所と災害リスク情報の関係について, 自然災害科学, Vol.38, No.4, pp.487-502, 2020.

3.地形を読む必要性

土砂災害や洪水による被害の発生個所は、地形によって決まります。

全ての河川についてのハザードマップが整備されることは、この10年の間にはないでしょう。むしろ、人材不足の自治体では、今以上のパワーで災害に向かうことは無理でしょう。ならば、あなたのような住宅づくりに関わる人が、地形を判読して、顧客に災害に対する危険性を説けるようにならないと、災害で亡くなる人や財産を失う人は無くならない。

洪水の場合、周辺に河川や用水路はないか、河川に対して、対象とする敷地の標高は低いのか高いのか?こういう、ごく当たり前のことを確認します。さらに、インターネットや図書館で周辺地域での洪水の履歴を調べ、浸水深さがどの程度だったかを探ります。

浸水深が分かったら、あとは、どのようにかさ上げするかを考えるだけです。

ちなみに、河川近傍の場合、堤防から流れ出す水の流れは、相当なスピードです。高低差もあるので、非常に大きな水圧が作用します。この水圧についても考慮する必要があります。水害時に建築物で考慮すべき水圧については、以前、さくら事務所の田村さんから紹介頂いた書籍が役に立ちそうなので、書いておきます。なお、盛土で敷地をかさ上げする場合は、盛土を支える擁壁にも水圧が働きます。場合によっては、擁壁の基礎地盤を洗堀されることもあります。このようなことも含めて、洪水時の対策は検討する必要があります。

【参考文献】桑村仁:建築水理学ー水害対策の知識ー, 技報堂出版, 2017.

4.まとめ

上記のような水害に対する対応には、相当なお金が必要になります。高額なので、受け入れられないから、提案しないと考えられるかもしれませんが、それは、絶対だめです。少なくとも、リスクを具体的に説明し、「技術者としては、これこれこういう対応をすべきだ」ということを、丁寧に説明する必要があります。

この提案とその背景の説明は、必ず行いましょう。洪水後に、あなたが設計した建築物が冠水し、大きな被害が出たとします。お客さんが、法律に詳しい人の場合、あなたを訴えてくる可能性があります。訴訟になると、建築物に瑕疵があったということは問えないと思いますが、専門家としての説明を怠っていると、説明責任を果たさなかった「過失」を問われる可能性があります。それによって、大きな損害賠償を請求される可能性があります。ご注意を。

さて、水害に対する対策、地震と同じように考えるべきだと思いませんか?。

ただし、水害の場合、場所を変えれば遭難から逃れらえます。このことを、多くの人が忘れてるように感じます。確かに、冠水する地域は、冠水しない地域よりも地価は安いでしょう。しかし、リスクは、低地の方が格段に高い。このことを、お客さんに教えるのも、建築士のお仕事なのかもしれません。

ご一考ください。

以上



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