• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

先日、不同沈下物件の原因調査依頼があったので、事務所から2時間弱。車を飛ばして現場を確認してきました。この案件も、SWS試験の読み間違いと楽観的な地盤補強仕様が不同沈下の原因でした。今回は、本来であればどうすべきだったのかについて考えたいと思います。

  1. 不同沈下を誘発する典型的なSWS試験結果
  2. 本来のSWS試験の利用方法
  3. 地盤改良の使命を全うするために注意すべき情報の信頼性
  4. まとめ

1.不同沈下を誘発する典型的なSWS試験結果

あなたは、SWS試験の結果は、「絶対」だとお考えでしょうか?確かに得られた結果は「事実」です。しかし、その結果が、「真実」であるという保証はありません。このブログでも、何度も取り上げていますが、SWS試験結果には、エラーが入り込む余地が多くあります。特に問題になるのが、図1に示したロッド周面に作用する摩擦力の影響です。図2は、ロッド周面に摩擦力が発生してしまったと考えられる試験結果と土質確認結果の一例です。

図1 SWS試験のエラーの一例 ロッド周面での摩擦の影響

SWS試験では、Wswという値が1kN以下の場合、その地盤は軟弱だと判断します。図2では、 Wsw=1kN線を赤線で示しました。地表面から下方に約3mまでの範囲では、 Wswが1kN未満の地層が確認できるので、この部分は軟弱であること分かります。ところが、地表面から3.5m付近から、SWS試験結果は、 Wsw=1kN線をわずかに超え、小さいながらNswが計測される状態が続きます。この部分の土質は、「腐植土」でした。腐植土は、非常に弱く、ものすごく沈下することで有名な土質です。

図2 ロッド周面に摩擦力が作用していたと考えられるSWS試験結果と土質確認結果の一例

こういう、試験結果に遭遇したら、要注意ですWswが1kNで、低Nsw層が連続する試験結果が現れたら、詳細な地盤調査を行って対応を検討するか、Nswが100~150を超える地層を支持層として、地盤改良や杭の導入を検討することをお勧めします。

参考になりそうな過去のブログと動画のURLを貼り付けておくので、参考にしてください。

2.本来のSWS試験の利用方法

SWS試験が、地盤調査方法として注目されるようになったのは、平成13年国土交通省告示1113号に、その名前が現れてからです。当時、この告示の内容を考えた人たちは、SWS試験が、今のように利用されるとは考えておられなかったのではないでしょうか?

わたしは、SWS試験を活用する場合、試験結果と地形情報の整合性を確認することを強く推奨しています。SWS試験では、土質についての情報を得られないので、試験結果から地層構成を推測するためには、地形の情報が不可欠だからです。

例えば、図2のSWS試験結果が得られた敷地が属する地形は、海岸線に沿って形成された微高地である砂州と陸地との間に挟まれた後背湿地です。こういう場所では、毎年、夏になると、葦が人の背丈よりも高く伸び、冬になると枯れます。枯れた植物が分解されるまでには相当の時間を要するので、葦が生い茂る湿地では、未分解の植物が厚く堆積します。これが、「腐植土」です。

つまり、地形から、この場所には高い確率で「腐植土」や植物や動物に由来する有機物を多く含んな「高有機質土」などが堆積していると推測できるのです。なお、腐植土や高有機質土は、軟らかく、SWS試験装置のロッド周面が地盤と接触する可能性が高いことが知られています1)。このため、「このような場所では、SWS試験結果が、実際の地盤の強さを過大評価する可能性がある」ということを推察することができます。

【参考文献】1) 例えば、下平祐司、広瀬竜也、大島昭彦:二重管スウェーデン式サウンディングの開発と貫入抵抗値の考察, GBRC, Vol.42, No.4, pp.31-37, 2017.

この情報に基づいて、図2のSWS試験結果を見れば、Nswが小さい値が連続している区間は、腐植土や高有機質土が堆積している可能性が高いということを推察できます。だから、「建物を確実に支えることができる大きな貫入抵抗を示す地層が、地表面からどの程度の深さで現れるか確認しよう」とか、「ボーリング調査のような、もっと詳細な地盤調査をしよう」といいった発想が生まれます。

3.地盤改良の使命を全うするために注意すべき情報の信頼性

地形を見ることを怠って、SWS試験で得られた値だけに着目すると、地盤補強の仕様を誤ることがあります。

図3は、不同沈下した建築物で、実際に採用されていた柱状改良体の長さとSWS試験結果の関係を表したものです。

この調査結果が得られた場所は、ローム台地を切り開いた小さな谷地形が大きな谷地形と合流する地点に位置しています。小さな谷は、その幅も延長も小さく、傾斜も緩やかです。雨が降れば台地上に溜まった落ち葉や動物の死骸などが谷に運ばれ堆積していたと考えられますし、稲作に利用される以前は、葦などが生い茂った湿地だったと考えられます。

図3 施工された改良体と推奨する改良体の仕様比較

図2と同様に、Nswが小さな値を示す地層が、地表面から下方に9m付近まで連続しています。

おそらく、この物件で、地盤改良の設計をした人は、地形を一切見ないで、SWS試験結果だけを見ていたのでしょう。この調査結果から、長さ6mの柱状改良体によって建物を支持することが提案されています。地表面から下方に3mよりも深い箇所では、Wswが1kN未満の自沈層は確認できないので、改良体先端での支持力も、改良体周面での周面抵抗力も期待できると考えたのでしょう。

ところが、実際には、周面抵抗力を考慮できるような地盤ではありませんから、建物を支えることができなかったのです。

このような、間違いは、試験結果の信頼性を考えて対応していれば起きることはありません。

SWS試験結果は、先述のように、土質に関する情報を得ることができないし、軟弱な地盤が連続する場所では、試験結果に、かなり深刻なエラーが含まれます。つまり、SWS試験が提供する情報の信頼性が非常に低いということです。このような試験でも、信頼できる情報が一つ得られます図3からも確認できますが、「硬い地層がどの深度に現れるのか」という情報は、高い信頼性を持った情報です。

地盤改良は、建物を確実に支えるという使命(目標品質)があります。さらに、新築住宅の場合、工務店は、10年間の瑕疵担保責任を負います。この使命を全うするためには、信頼性の高い情報を基に地盤改良の仕様を考えなければならないのです。

以上のことから、不同沈下の原因の多くは、「使命(目標品質)」ではなく「経済性」に重きを置くあまり、信頼性の低い情報を用いて地盤改良仕様を決めてしまうことにあることが推測できます。

4.まとめ

私のところに届く不同沈下の案件は、数年前~10年ほど前までの間に建築されたものが多いのですが、その多くは、上記のように、地盤調査結果の信頼性を無視して、基礎仕様や地盤改良工事の仕様を決めたことに起因しています。

極端なものでは、地盤調査結果を全く見ずに、この辺りは地盤が良いので地盤改良は要らないとか、既存の住宅が不同沈下していないから、地盤改良は要らないという理由で、地盤改良を行っていないというものもあります。

「既存の住宅が不同沈下していない 」ということは一つの真理ですが、既存住宅の基礎は布基礎だったのに、新設住宅の基礎をべた基礎にしてしまっては、その真理を再現することは不可能です。

言葉は悪いですが、こういうアホみたいなことが実際に起こっています。

「地盤補償に入っているから」とか「瑕疵保険があるから」とか、工務店の経営者や建築士から良く聞きますが、資力確保できていれば良いというワケではありません。建物が傾かないことは、建物として当然もっているべき性能ですから、それを満足できないのは、生産者の責任です。訴えられると、えらいことになると思いますのでご注意ください。

住宅分野では、地盤のことが軽視され続けているなあと、私は思うのです。あなたは、どうでしょう?生産者として当然果たすべき責務を、果たしておられますか?

神村真



コメント一覧

返信2023年10月2日 8:11 AM

上田俊一24/

神村様 お世話になります。ブログを非常に興味深く拝読いたしました。現在、建替え新築戸建をベタ基礎鉄骨三階建てで計画しております。地盤は腐植土が一部堆積する土地です。 進め方についてご相談は可能でしょうか。よろしくお願いいたします。

    返信2023年10月2日 10:42 AM

    神村真25/

    上田様  ブログを読んで頂きまして、本当にありがとうございます。  物件のご相談とのことですが、対応可能です。  後ほど、直接メールさせて頂きます。 神村

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