• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

住宅の品確法や瑕疵担保履行法が施行されてから、相当な時間が経ちましたが、未だに不同沈下事故はなくならないし、地盤に関する本質的な理解が深まっていかない。これってどういうことなんだろうと考えていた時、ある報告書とブログの記事が目につきました。

ということで、

今回は、家造りをしていくうえで、地盤の重要性を理解していくためには、建築士自身が、地盤についての理解を深めていくことが重要なんじゃないかなあというお話です。

【お詫び】今回は、物事の本質を理解して、本質と実際とのギャップを埋める行動をとれるのがよい技術者であり、よい経営者だなあ。と思ったことを書こうとしていたのですが、気がついたら、私が運営しているオンラインサロンへの勧誘文になってました。ごめんなさい。でも、興味がある人は、是非お越しください。

  1. カタカタ言葉で大丈夫か?
  2. 本質を理解しないと良いものは作れない
  3. ほな、どないせえゆうね
  4. まとめ

1.カタカタ言葉で大丈夫か?

「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」の総括成果報告書を読んでいると、目次で躓きました。私が年をとったということなんでしょうが、目次から内容を読み取れないことがいくつかありました。

レジリエンス」と「インフラフラジリティ

両者の意味は以下のようなものですが、レジリエンスは、東日本大震災以降、この10年くらいの間に頻繁に使われるようになった言葉です。私が最初にこの言葉に触れたのは、心理学者の書いた本の解説文を読んでいた時だと思います。2008年頃に、会社の後輩のK原君に勧められて読んだV.E. フランクルの「夜の霧」。第二次世界大戦中にユダヤ人心理学者である著者が、実際の収容所での経験を著した名著ですが、この本の内容をもっと深く知りたくて調べていた時に、「resilience」という言葉が頻繁に登場しました。

その後、東日本大震災以降、レジリエンスという言葉を頻繁に聞くようになりました。京都大学の藤井聡先生は、レジリエンスとは「強靭性」だとおっしゃっています。

フラジリティについては、荷物に貼る「割れ物注意」のシールに「fragile」という文字が書かれていることがあるので、知っている人も多いと思いますが、これは、「脆弱性」のような日本語で表現可能ではないかなあと思います。

「resilience」とは、「回復力」・「立ち直る力」・「復活力」・「復元力」・「弾力」等を意味する英語表現。

weblio辞書

「fragility」 壊れやすさ、もろさ、虚弱、はかなさ

weblio英和辞典・和英辞典

これらの言葉は、この報告書の中で、とっても重要な言葉だと思うのですが、日本語で表すことができていないんですね。日本語で表せないから、英語の発音をそのままカタカナで表現している。なぜ、日本語で表そうとしないのか?

「レジリエンス=強靭性」、「フラジリティ=脆弱性」でよいですよね?

こういうことしていると、いつまでたっても、その概念は、国民の中に浸透しないのではないでしょうか?

幕末から明治にかけて活躍した人たちは、海外の言葉を、日本語に訳しています。この作業は、海外から入ってきた言葉とその概念を、日本語として取り入れるために必要不可欠だったのだと思います。この作業があったからこそ、独自の学問や制度が日本の中で急速に定着して、成長していったのではないかと思います。

もう、何十年も前、建設省の時代から、白書の中はカタカナだらけです。言葉の概念を広く定着させたいなら、安易なカタカナ言葉ではなく、日本語で語るべきだと、わたしは思います。

2.本質を理解しないと良いものは作れない

私は、太田英将という人のブログが大好きで、いつも読んでいます。その方が、最近、日本の技術力の低下に関する記事を書かれていました。この中で、太田様は、東京海洋大学の北里洋博士の話を引用しておられました。

https://news.livedoor.com/article/detail/24639016/

技術力低下の原因の一つは、「お金がジャブジャブあったあのころ、政府も産業界も新しいものを作るより、必要なものがあれば買えばいいと思ってしまった」ことであるとのこと。

わたしは、この話が、先ほどのカタカナ言葉に繋がるように思えてなりません。

新しいものを自分で作ろうとするから、技術力が向上する。ないから、買ってこようでは、「消費者」でしかない。そんな場所で技術は生まれない

わたしは、「レジリエンス」とか「フラジリティ」なんてカナカナ言葉を使っているうちは、「消費者」なんだと考えています。消費者には、改善策や改良を行う知識も技能も権限もありません。この言葉の理念や概念を定着させるためには、日本語にすべきです。

逆にいうと、カタカナ言葉を使うことで、政府は、国土の強靭性や脆弱性には、何の興味もありませんよということを表明してくれているのかもしれませんが・・・

瑕疵担保履行法が施行されるまでは、地盤調査を頑なに拒否する工務店さんもありました。構造塾の佐藤先生が、先日メールマガジンに書かれていましたが、「現状維持バイアス」が働いているんですね。人は、変化を嫌います。それがたとえ良いことであっても。ですから、新しい概念を、関係する全ての人が理解し、行動に移すまでには、相当な年月が必要なのです。

10年間の瑕疵担保責任を全うするためには、長期的な沈下についてのリスク評価が不可欠ですが、そのリスク評価には、SWS試験では精度不足です。また、液状化の危険度予測もできません。この事実を多くの工務店経営者は理解していると思いますが、それでも、SWS試験だけで地盤調査を行うことが、品確法施行から23年経過しても継続されています。

現状維持バイアスがフル稼働していますね。

法律施行当時の関係者の皆様は、SWS試験だけでは不十分であることを、恐らく十分承知しておられたのでしょうが、まず、新しい法律を広く浸透させることを優先されたのだと思います。そのために、SWS試験という超簡易な調査方法を普及させたのだと思います。これは、これで、大きな成果だと思いますが、2000年時点で、SWS試験ではなく、住宅建設でも、ボーリング調査と土質試験、液状化判定用の土質試験を行うことを強制していれば、2000年以降に建築された住宅の多くは、2011年の東日本大震災で液状化現象で大きなダメージを受けることはなかったでしょう。

現状を維持しようとする人たちに気をつかっていると、せっかくの正しい理念も水の泡です。

毎年35万棟以上の戸建て住宅が作られています。こう言う姿勢は、大きく切り替えないと、日本の住宅はいつまでたっても十分な性能を持たないまま増え続けることになります。そのツケを払うのは、わたしたちの子供や孫の世代です。

3.ほな、どないせえゆうね

今、家造りをしているあなたが、間違ったことをしているわけではありません。しかし、20年以上前に市場に導入された「常識」が、「正しい」と思いこむのは誤りです。それこそ、「現状維持バイアス」のフル稼働状態です。

また、地盤調査の費用が高すぎるから、ボーリング調査は無理だと考える必要もありません。

不要な場所で高額な地盤調査をする必要はありません。本当に必要な場所で、必要最小限の地盤調査を提案すればよいのです。

問題は、あなたに、「必要な場所が分かるのか?」ということと「その必要性を説明できるのか?」ということです。

地盤は分からない」と外注する方が多いと思います。

地盤補償の仕組みは良い仕組みですが、これは、本質的な危機回避にはなっていません。契約から見ても、建築基準法からみても、責任を取るのは建築士であるあなたです。納品された地盤報告書とその判定結果を「適切な内容だ」と判断し、受理したのは、あたななのだから。

事業継続上の大きなリスクを回避するためにも、地盤のことを良く知る必要があるのです。

「どないやって知るねん?」と思われると思いますが、まず、「勉強しましょう」。

「勉強しましょう」と言うと、「そんな時間がない」という言い訳が返ってくると思うんでが、あなたが抱える事業リスクを考えれば、時間は確保すべきだと、私は思います。

宣伝になってしまいますが、私は、今年からオンラインサロンを始めています。まだ、試験段階なので、十分な情報提供ができていませんが、毎週、水曜日10時から定例会を行っています。

「地盤のことをじっくり学べる」そういう場所にしたいと思って、少しずつですが、あなたが勉強できる環境を整備しています。気が向いたら、いつでもお越しください。

https://lounge.dmm.com/detail/6058/

※「ほな、どないせえゆうね」:今は小説家として有名になられた町田康さんですが、この方は、元々ミュージシャンで、町田町蔵と名乗られていました。この人が1987年に発表したミニアルバムのタイトルを拝借しました。

4.まとめ

税金を使って実施された一大プロジェクトの報告書や市井の技術者のブログから、物事の本質を理解することの大切さを、改めて感じたお盆明けでした。

その視点で住宅の足元を見ると、やはり問題が多いと考えざるを得ません。

先に引用させて頂いた太田さんのブログでは、住宅のメーカーは、住宅の瑕疵担保責任期間が10年しかないので、それ以上の時間経過を考えないし、コストも出さないというようなことを指摘しておられました。おそらくそうなんだろうと思いますが、「自分の寿命を超えて残るかもしれないものを作っている」という意識をお持ちの方は、是非、一緒に地盤のことを学びませんか?そして、その学んだことを、あなたの周りの建築士に伝えて頂けないですか?そうすることで、日本の住宅の強靭性は、随分と向上すると思います。

神村真



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