• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

今回も地震のお話です。今日は、地震荷重に対して考えておかなければならない、地盤の短期許容支持力度に関するお話と、耐震等級3が必要だ、いやいや基準法レベルで十分だと言ったお話に対する私の意見を示しました。

  1. 地震や風によって増加する接地圧
  2. 安全率を削る発言をする専門家
  3. 発生確率に基づく説明が必要では?
  4. まとめ

1.地震や風によって増加する接地圧

日本建築学会の小規模建築物基礎設計指針(小規模指針と略します)には、二階建ての建物に、地震荷重や風荷重を受けた場合の接地圧を求めるための検討図表が示されています。この図から、接地圧が20kN/m2以上になる基礎の短辺長は、表1の通りです。

一般地域多雪地域
軽い屋根+軽い外壁4.0m以下4.3m以下
重い屋根+重い外壁4.7m以下5.4m以下
表1 接地圧が20kN/m2を超える基礎短辺長

【参考文献】日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針, pp.156-160, 2008.

小規模指針には、沈下量の検討用の建物荷重も示されていますが、一般的な二階建て住宅の接地圧として、8~12kN/m2としています。

このことから、短辺長が4m程度のべた基礎の場合、地震力を受けることで、基礎底面での接地圧が、最大値で、2倍程度増加することが分かります。

住宅の地盤補強の設計では、べた基礎採用基準である長期許容支持力度を20kN/m2以上となるように、設計していると思います(平12建告第1347号第1)。ですから、基礎の短辺長が4m程度よりも大きい建物では、大きな問題になりませんが、短辺長が4m程度の場合、地震荷重や風荷重に対して、不安定になる可能性があります

ただし、この値は、震度5弱程度の地震を想定した場合でしょうから、もっと大きな地震がきたら、もっと大きな接地圧が作用することになります。さて、あなたの設計する住宅では、地震荷重に対して、地盤の支持力度や沈下に関するリスクをどのように評価されていますでしょうか?

2.安全率を削る発言をする専門家

工務店さんが集まる会合で、1.のようなお話をすると、ある建築士が、「地震力に対する地盤の安全率は、地盤の場合、1.5もあるから、今より1.5倍の力を掛けても壊れないはずだ!」というような話をされたことがありました。これは、完全に間違いです。

こういうことを言う人は、許容応力度設計法というものを理解していない人なので、基本的に相手にしてはいけません。このブログを読んでいるあなたは、大丈夫だと思いますが、こういうことを、大きな声で、ペラペラしゃべっている人には、決して近づいてはいけません。こういうアホな話を大きな声でしゃべって、誰からも何も言われない人は、意外に権力者だったりしますので・・・

多くの建築材料では、建築基準法で「基準強度F」が設定されています。建物の自重のように長期に渡って作用する荷重に対する安全率は、基準強度を弾性体を維持しつつ大きな変形が生じない限界の応力で割った値と定義されます。また、地震力のような短期に作用する荷重に対する安全率は、基準強度を弾性体を維持できる限界能力で割った値になります。

鋼材の場合、製品としてのばらつきがJISでも定義されているので、弾性体を維持できる限界応力を基準強度Fとして定義していますが、自然材料である材木や地盤、現場によって品質にばらつきが出やすいコンクリートでは、材料のバラツキや弾性域が不明瞭であること等から、材料としての「強度」を基準強度としています。

ですから、安全率が1.5でOKとしているところに、さらに1.5倍の荷重を作用させると地盤は破壊します。

わたしは、建築士とは、意匠、計画、設備、構造、断熱等、様々な知識とスキルを併せ持った、究極の技術者だと思っています。実は、私は、明石高専建築科を落ちて土木工学科に入学しました。建築士は、わたしにとって憧れの職業です。

だから、建築士に、こんなアホなこと言われると、本当にがっかりします。というか、腹が立ちます・・・

もしも、「安全余裕度」の話をしたいのであれば、「実際の基礎接地圧は10kN/m2程度だけど、長期荷重に対する地盤の許容支持力度は20kN/m2で評価しています。だから、実荷重に対する安全率は、通常の倍程度を見ているので、その範囲内なら、想定荷重を超える力が作用しても大丈夫なんですよ」という話をしましょう。安全率が所定の値よりも小さくなっても良いなどあり得ません。

3.発生確率に基づく説明が必要では?

安全率の問題を突き詰めていくと、「考えている外力で十分なのか?」という問題に突き当たります。

SNS上では、「耐震等級3は必須だ」という声もあれば、「基準法レベルでいいんじゃない?」という声も目にします。どちらの意見もあって良いとは思いますが、「小学生の終わりの会」レベルの話で、少々、うんざりします。

Aが良い、Bが良い。って言い合っても、答え出ないからです。

私は、これは、歴史と確率に基づいて、建築士が判断すべき問題だと考えています。

地震は大きく分けると、海溝型の地震と断層に起因する地震の二種類があります。東日本大震災は、海溝型地震です。兵庫県南部地震等、近年の被害の大きかった地震の多くは、断層に起因する地震です。

例えば、内閣府の防災情報のページには、海溝型の地震と断層型の地震について、発生確率に言及しています。

「宮城県沖で起こる地震の平均発生間隔は約37年で、約30年前に一度地震が発生しています。そのため、10年以内にM7.5前後の地震が発生する確率は60%程度、30年以内だと99%に達します。今後30年以内に震度6 弱以上の揺れに見舞われる確率を見ると、太平洋側の大部分が26%以上 。いかに地震の危険が迫っているかが分かります。」

内閣府 防災情報のページ 特集 地震を知って地震に備える! https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h21/05/special_01.html

また、地震調査研究推進本部事務局(文部科学省研究開発局地震・防災研究課)は、各地方での地震の履歴について、その地域の断層と関連付けて以下のサイトで解説してくれています。

【参考資料】 地震調査研究推進本部事務局(文部科学省研究開発局地震・防災研究課) web サイト https://www.jishin.go.jp/

また、気象庁では、「震度データベース検索」というサービスを提供しています。このサービスを利用すると図1のように、検索期間中に発生した震度の大きさを確認することができます。このサービスが良いところは、マグニチュードと震源の深さを同時に確認できるところです。こういうサービスを利用すると、さらに、現実的な地震荷重の設定が出来そうですね。

図1 1990年から2023年の間に発生した震度6弱以上の地震発生地点


最近の住宅の期待耐用年数は50年程度のようなので、50年間に、遭遇する可能性がある地震の規模から、計画する地震力を決定すればよいわけです。

【参考資料】国土交通省土地・建設産業局不動産業課 住宅局住宅政策課:期待耐用年数の導出及び内外装・設備の更新による価値向上について, 平成25年8月 (https://www.mlit.go.jp/common/001011879.pdf)

少なくとも、太平洋側の工務店さんは、基準法レベルの耐震性では足りなさそうですね。

4.まとめ

わたしは、建築士の中には、意匠を得意とする人と構造を得意とする人等、得意分野が異なる人がいることは理解しています。しかし、それが原因で、消費者が、十分な性能を持たない住宅しか手に入れられないようでは困ります。

今も、日本中で何十万という住宅が建設されていますが、今、作った住宅が、将来の災害で被災しないように、十分に考えて家造りをしなければなりません。建築士に求められるのは、姿・形・使いやすさ・断熱等に加えて、数十年の供用期間中に、常に安全な場所である「家」を設計することではないでしょうか?

兵庫県南部地震では、住宅が驚くほど倒壊していました。「旧耐震基準の家」です。多くの建築士が盲目的に、法律に定められた基準だけを守った家を作った結果が、あの地震です。今は、先に示したように、過去の地震情報、未来の地震の予測等、1995年当時では考えられないほど多くの情報を入手することが可能です。あなたが、建築士なら、法律とは関係なく、一人の技術者として、設計する建物の耐震基準を、ご自分でお決めになることをお勧めします。

神村真



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