• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

今回も、地盤改良工事費用に関するお話です。

地盤改良工事は、その土地に、安全な家を建てるために必要不可欠なものです。だから、地盤改良の内容は、工事費が「高い」とか「安い」とかではなく、「適切さ」で選定すべきです。しかし、20年近くこの業界にいますが、未だに、工事費が工法選定の中核にあることに変わりはありません。

建築士には、「目利き」として、地盤改良工事を選定して頂きたいと思います。

  1. 安売りを求められる地盤改良
  2. 必要な品質の理解不足
  3. 安物買いの銭失い
  4. まとめ

1.安売りを求められる地盤改良

私が知っている地盤改良会社の経営者の中には、「工事は安くないと市場で勝負にならない」と言う方が、かなりおられます。「改良工事に求められているのは、安さだけ」と断言する人もいます。これは、市場が実際にそうなっているからでしょう。

発注者である工務店の中には、少なからず、金額だけで改良工事を選定する企業があるということです。

工事費を抑えることで、工事業者のレベルが下がることがあったとしても、建物荷重を大きめに見積もっているし、改良体の本数も多めになっているから、安全上問題ないでしょう。ということなのでしょうか?

それとも、「もしも、工事に問題があって家が傾いても、地盤補償や瑕疵保険があるから大丈夫」と、リスクヘッジは完璧だとお考えなのでしょうか?

必要な品質が確保されていれば、確かに安い方がよいのですが、発注者であるあなたは、相見積をとった地盤改良会社の提案内容で、最低限クリアすべき品質が同一条件になっていることを確認しておられますか?

もっと、言えば。最低限確保すべき品質とは何か理解されていますか

鋼管と柱状改良の共通品質管理項目は、「打ち止め管理」です。これは、杭状補強材の先端が、計画した地層に到達したことを確認することです。

柱状改良工法の管理項目の主なものは以下の通りです。

  • 固化材スラリーの密度
  • 施工データの全杭確認(1m区間ごとの撹拌回数固化材流量、引上げ時固化材スラリー注入が行われていないこと、施工速度が規定範囲内であること)
  • モールドコア供試体の採取深度

見積りをとっている業者に、上記事項を、どのように対応しているか確認してみてください。みんな一様に、「しています」、「管理装置つけて、現場で対応しています」と言うと思います。

それでは、その内容を、報告書に添付することができるのか、また、その対応を行う場合、同じ価格で工事ができるのかを業者に確認してください。まともな営業マンなら、即答を避けると思います。

もしかすると、「対応できます」と答える業者は、1社もいないかもしれません。

上記項目を実行すると、工事を1日で終えることができない現場が出てくるでしょうし、報告書の作成手間も通常の数倍になります。そんな余裕のある見積金額を提示している業者はないでしょう。

お分かりになられたでしょうか?

「低価格」の工事は「低品質」ではなく、「品質確認ができていない」可能性が高いのです

2.必要な品質の理解不足

品質が確保されていない地盤改良工事の何が問題なのでしょうか?

打ち止め管理ができていない改良工事は、支持力を確保できていることを証明できません

柱状改良工事の場合、固化材スラリーの密度管理や1m区間ごとの撹拌回数、固化材流量を確認できていない柱状改良体は、全深度で所定の強度を有していることを証明できません。つまり、改良体強度から決まる支持力を確認できないのです。モールドコア供試体を、頭部でしか採取しない場合も同様です。

地盤改良工事は、建物を支持するために必要な支持力を確保する工事なので、その支持力が確保できていることを証明できないとなると、工事を行った意味がありません。

だから、必要最小限の品質管理ができていない地盤改良工事には、何の価値もないのです。

このことを、建築士の設計監理者の立場から見れば、どう解釈できるでしょうか?

私には、工事費用を最優先する工務店は、「最低限の品質の確保を怠っている」と見えます。

例えば、住宅が不同沈下した時、消費者から、「工務店が、適切な地盤改良工事の提案と工事管理を怠ったから、家が傾いた」として、損害賠償請求されたら、どうしますか?

逃げられませんねえ。

3.安物買いの銭失い

あなたが、「地盤改良に品質なんて不必要だ」と言われるのなら、私は、それでも構いません。しかし、そのことを消費者に公言できるでしょうか?「うちは、工事価格を下げるために、地盤改良の品質にはこだわらないようにしています」とお客さんに伝えられるでしょうか?

少なくとも、私は、そんなことを言う工務店には、仕事を頼みません。一事が万事だからです。住宅は、多くのパーツを現場で作り込んでいきます。一つ一つにこだわって管理していかないと、計画していた品質のものは出来上がりません。

先日、ある住宅の施工現場を見る機会がありましたが、釘の位置を現場で細かくチェックした痕跡が見られました。

地盤改良工事も同じです。チェックポイントがあるのです。

各工事会社は、そのチェックポイントを現場でしっかりと確認していると思いますが、その内容が、報告書に反映されていないことが多いと思います。

例えば、鋼管杭の場合、打ち止め管理を行うためには、SWS試験の調査位置近くで施工を行い、打ち止め管理基準を決定します。各杭が、この基準をクリアするまで、鋼管を打ち込みます。計画深度を超えても管理基準値を満足しない場合、設計者と協議して、鋼管長を延長するか、計測した施工データから逆算して、設計上必要な支持力が確保できていることを確認したうえで、打ち止めとするかを判断します。

大規模な地盤改良工事現場に入ると、管理者が常駐して、改良体の打ち止め、撹拌回数や吐出量が計画値を満足することを、一本一歩確認します。万が一、基準を満たさない杭が出てきたら再施工です。

さて、なぜ、そのような適切な管理がされた改良工事を、工務店は求めないのでしょう?

私には、目の利かない工務店が、安物を買って、お客さんに売りつけているようにしか見えません。

工務店(建築士)は、住宅のことに関しては、「目利き」であるべきだし、それを求められていると思います。

その役割を果たさずに、工事金額だけで、地盤改良工事を選定しているなら、まさに、「安物買いの銭失い」です。しかも、銭を失うのは、お客さんです。何かあったら、工務店が訴えられてもしょうがないですね。

4.まとめ

私は、ローコストという言葉があまり好きではありません。「低価格」が「価値」のように聴こえるからです。

これまでの30年は、日本人は「低価格」がよいことだと思い続けてきたように思いますが、その裏側で、本当に必要な「価値」が失われていったように感じます。

工事に求められる品質を十分に理解した上で、適切な価格を提示しているのは誰なのか、建築士には、そのような「目利き」の役割が求められていると思います。

私は、住宅の長い供用期間中に求められる価値は、雨風や地震でも安全であることだと考えています。このような価値を確保するための「要」は、構造と基礎です。足元を固めないと、あなたの理想の住宅は、あなたにとっての負債になりますので、ご注意を。

神村真



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