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今回は、敷地内に地上高さ2m以下のL型擁壁がある場合の注意事項について書きました。石積み擁壁のことは、また機会を見つけてお話します。

  1. L型擁壁に必要な支持力
  2. 必要な支持力に及ぼす斜面の影響
  3. 既存擁壁の安全性
  4. まとめ

1.L型擁壁に必要な支持力

図₋1は、日本建築学会の小規模建築物基礎設計指針に示された、L型擁壁の標準構造図の一例です。地上高さ1.15mで、背面地盤に5kN/m2の荷重が作用することを想定したものです。この形状の擁壁では、、必要な長期許容支持力度の最大値が50kN/m2を超えることが示されています。

図-1 地上高さ1.15mのL型擁壁の標準図の例

【参考文献】日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針,付図3.6, p.328, 2008.

インターネットで、「L型擁壁、支持力(または地耐力)」という語句で検索をすると、既成品の擁壁の形状と必要な支持力を示した資料が多数確認できます。敷地内に擁壁があって、その安全性に関する資料が全く手に入らない場合は、この支持力確認を、まず行ってください。

2.必要な支持力に及ぼす斜面の影響

構造標準図では、基礎を支える地盤が、水平に無限に広がっていることを想定しています。図-2は、基礎近傍の斜面の高さと支持力の低減係数ζs(ゼータエス)の関係を示した図ですが、基礎近傍に、斜面があると、期待できる支持力が低下することが示されています。右側の図では、斜面高さと基礎幅の比が1を超えると、支持力は、8割近く低下することを示しています。

図-2 支持力に及ぼす斜面の影響

【参考文献】日本建築学会:建築物基礎構造設計指針, pp.132-135, 2019.

なお、建築基礎構造設計指針の一つ前の版には、図-3に示す法肩(斜面の上端部)から基礎端部までの距離と基礎幅の比αs(アルファエス)とζsの関係が示されていて、αsが4を超えないと、水平地盤と同じ支持力を期待できないことも示されていました。図₋1に示した形状の擁壁の場合、擁壁の基礎が、斜面の上端から6m離れた位置でないと、水平地盤と同じ支持力にならないということです。

図-3 法肩(斜面の上端)から基礎までの距離と基礎幅の比αsと支持力低下率ζsの関係

【参考文献】日本建築学会:建築物基礎構造設計指針, pp.118-121, 2001.

3.既存擁壁の安全性

例えば、宅地内に既存の擁壁があるとします。住宅は、沈下の可能性があるので、杭や柱状改良体で建物荷重を、地表面付近よりも数m下の安定した地層に支持させているとします。べた基礎の2階建て住宅の接地圧は、10kN/m2程度(参考文献参照)です。

図-1に示したように、地表高さ1.15m程度の擁壁の最大長期許容支持力度は約50kN/m2です。べた基礎の適用に必要な長期許容支持力度は20kN/m2なので、この擁壁も、杭等で支持しておかないと、擁壁が傾斜したり、沈下する可能性があります。

【参考文献】日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針, 表5.5.2, p.82, 2008.

擁壁の地上高さが2mを超えると、確認申請が必要になるので、第三者の目が入りますが、地上高さ2m以下の擁壁は、第三者の目が入りません。だから、擁壁付きの敷地を購入する場合や擁壁近傍に住宅を建設する場合は、既存の擁壁の性能を十分に把握しておく必要があります。

なお、擁壁は、今、安定していても(平衡状態にあっても)、地震や豪雨時に安定性を維持しているかどうかは分かりません。「これまで何の問題もなかった」ということは、安全性の説明ではありません。「過去の事実」です。住宅を設計する建築士である「あなた」が知っておくべきことは、未来についての安全性です。

残念ながら、擁壁の設計法は、100年近く昔に考えられた土圧理論を使った方法で、予測される安全性についての正確さは不明です。しかし、設計法を適切に運用した擁壁の安全性については、過去の事実が証明してくれています。ですから、擁壁の設計がどのようになされたのか、その設計内容の妥当性を確認すれば、その擁壁の安全性を確認することが可能です。

少なくとも、「形状」と「支持力の不足の有無」程度の確認はしておくべきだと、私は思います。

4.まとめ

地上高さ2m以下の擁壁の安全性を規定した法律は、多分ありません。建築基準法でも宅造法でも、地上高さ2mを超えるものについてのみ規制されています。ただ、宅地として販売する以上、安全性の確保は必要だと思うので、擁壁の安全性が確保されていない宅地を造った人又は売った人にも、何らかの罰を与えることは、できるのではないかなあと思います(法律は専門外なので、よく分かりません)。

一方、建築士は、建築基準法第19条4に、「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない」とあるので、「何か」しないといけない立場にあります。その「何か」には、建築物の安全性の確保だけではなく、擁壁の安全性の確認、安全性に問題がある場合の施主への説明、改修・再築が必要な場合、それを想定した対応等、様々なことが含まれます(福岡地裁平成25年(ワ)第1059号損害賠償請求事件)。

そういう訳で、敷地内に擁壁があある場合、宅地の安全性を確保する最後の砦が、皆さん建築士なのです。家のことだけ考えておきたい気持ちは重々承知しておりますが、擁壁や斜面のことも、どうか一つ、よろしくお願い申し上げます。

神村真



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