• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

「住宅のための地盤補強工事の費用が高い」という嘆きの声をSNS上で時々目にします。

この工事費用が高い原因は、色々あるのですが、杭状地盤補強の場合、補強仕様の計画段階に、大きな問題があります。

この問題は、構造計算をしない工務店で顕在化する問題ですが、今日はこの問題について考えていきたいと思います。

  1. 杭状地盤補強の仕様計画での課題
  2. ルール1 杭状補強体が負担する荷重
  3. ルール2 杭状補強体の配置
  4. まとめ

1.杭状地盤補強の仕様計画での課題

住宅の地盤補強仕様の詳細な計画は、地盤補強工事業者が行うことが一般的です。

多くの工務店では、「地盤保証」と言われる不同沈下発生時の修復費用などの保険サービスを使用していますが、このサービスを利用する場合、地盤保証会社が、計画した工事内容を審査・承認しています。

杭状地盤補強の仕様計画段階では、図-1に示すような二つのルールに従うことが一般的です。

図-1 杭状地盤補強の仕様計画時のルール

一つ目のルールは、建物の全荷重を杭状補強体が支えるという考え方です。

もう一つのルールは、杭状補強体は、主要な柱の下に配置し、その間隔は広くても1.8~2.3m程度までとする考え方です。

このルールは、地盤補強工事業者が地盤補強工事仕様を計画する場合に運用されるルールで、建築士が、このようにすることを定めたものではありません。

このルールは、構造計算をしない工務店が多く、地盤補強仕様の計画時に基礎に関する情報も提供されないことが多い中で、不同沈下事故や基礎の破損と言った重大な事故を起こさないために、地盤補強工事業者が考えて、一般化されていった言わば「暗黙のルール」です。

このため、厳密に言えば、「合理的」なルールではなく、検討結果が「安全側」の仕様になるように工夫されたルールになります。

市場では、時々、「地盤改良業者は、自分で地盤調査を行い、調査結果を好きなように解釈して地盤補強工事に誘導している」という声を聴くことがありますが、これは間違った理解だと、私は思います。

地盤補強仕様の計画は、本来、建築士の仕事です。

地盤補強工事会社は、自分たちの経験に基づいて、建築士の補助者として仕様計画(あえて「設計」とは言いません)をしているだけです。

地盤補強工事は請負工事ですので、不同沈下事故や基礎の破損等が発生すると、地盤補強工事会社の責任とされることが想定されますので、おのずと安全側の評価をするようになります。

また、工務店によっては、建物荷重や基礎伏図さえ提供されない状態で、地盤補強仕様の計画を求められます。

自分たちの背負う責任に加えて、少ない情報しか与えられない。このような条件下で、経済性を追求した仕様計画をすることができるでしょうか?

わたしは、地盤補強会社に10年以上在籍した人間ですので、地盤補強会社にひいき目なのかもしれませんが、少なすぎる情報に基づいて、ぎりぎりの仕様計画を求める方が「危険な行為」に見えます。

さて、上記の二つのルールですが、これらのルールは、安全側の考え方ですので、この考え方をより合理的なものにしていけば、杭状地盤補強の配置計画を、より経済的なものにすることができます。

2.ルール1 杭状補強体が負担する荷重

図-2に、日本建築センターが示した「柱状改良体の頭部に作用する圧力の算出方法」を、先端翼付き鋼管に拡張した場合の検討モデルを示します。

このモデル図は、本来三次元のモデルを二次元にしているので、正確なモデルではありませんが、ここでは、杭状補強体が設置されたべた基礎底面での圧力分布を理解するために示すことにします。

図-2 杭状地盤補強された場合の杭頭反力の算出モデルと計算結果の一例

基礎は、その曲げ剛性が十分大きければ、建物自重によって均等に沈下するので、補強体頭部にも、地盤にも圧力が作用します。

補強体先端地盤が非常に硬い場合、地表面の沈下量δは、補強体の硬さEpに支配され、地表面に作用する圧力qsは、小さな値になります。

スクリューウエイト貫入試験結果を地盤補強仕様計画に利用する場合、補強体先端地盤の換算N値は最大でも約12ですが、もっと小さい値(換算N値が5程度)でも、補強体先端地盤として採用する場合があります。

この場合、補強体周辺地盤の換算N値は1~3程度なので、補強体先端地盤と周辺地盤での換算N値の比が、1.7~5倍程度しかありません。

図-2を用いて、補強体先端地盤の換算値と杭状補強体の頭部に作用する荷重・地盤に作用する圧力の関係をそれぞれ算出した結果を、図-3に示します。

図-3 杭状補強体先端地盤の換算N値と補強体の頭部に作用する荷重および基礎底面接地圧の関係の一例

図-3から、杭状補強体の先端地盤の換算値が5~12程度の場合、基礎底面接地圧は、地盤補強を行わない場合の60~80%に低下するものの、ゼロにはならないことが分かります。

このことから、べた基礎下に杭状補強体を配置する場合は、一定量の荷重を地盤が負担すると考えることができるので、杭状補強体への作用荷重を低減することが可能です。

ちなみに、年、地盤と杭状補強体の支持力を重ね合わせることで、建物荷重を支持する地盤補強工法が多く発表されていますが、これらの工法では、上記の概念を利用しています。

【参考資料】一般財団法人日本建築センター、一般財団法人ベターリビング:2018年度版 建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針―セメント系固化材を用いた深層・浅層混合処理工法―,pp.56-59, 2018.

3.ルール2 杭状補強体の配置

四号建築物(一般的な木造二階建ての住宅)では、構造計算を行わず、簡易な方法で構造の安全性を確認しているので、各柱に伝わる鉛直方向の荷重の大きさは分からない場合があります。

結果として、補強体は、技術的に明確な根拠もなく、約1.8~2.3m間隔で、柱下に配置されることになります。

しかし、実際に土台に作用する荷重(軸力)を確認すると、柱ごとに大きく異なることが分かります。

また、ある通りの基礎立上り部を、数本の補強体によって支持された「梁」と考えて、構造上安定な補強体間隔を検討すると、人通口のない基礎の立ち上がり分の曲げ剛性は意外に大きく、場所によってはかなり大きなスパンで補強体を配置可能であることに気づかされます(図-4参照)。

図-4 杭状補強体に支持された基礎に作用する力

このため、柱から土台に作用する荷重に応じて補強体を適切に配置すれば、根拠もなく補強体を配置する場合よりも、補強体本数が減少します。

地盤条件が悪く、構造上最適な配置とした場合に必要な補強体1本当たりの支持力を得られない場合は、先述の複合地盤としての地盤補強の考え方を導入することで対応が可能ですが、この場合は、スラブ底面に作用する接地圧の影響を検討しておく必要があります。

しかし、スラブ下に補強体を配置しなければ、補強体の挿入によって基礎底面接地圧は低下するので(図-3参照)、問題にはならないと思います。

なお、ルール1で、補強体のみで建物荷重を支えることを想定するのであれば、基礎形式としてべた基礎を採用する必要がありませんので、上記のスラブの問題は、そもそも発生しません。

このように考えていくと、構造計算によって柱から土台に伝わる軸力を求め、これに応じて補強体の配置を検討した方が、経済性や技術的な合理性を確保できそうです。

現在は、地盤改良業者に補強体の支持力計算から配置まで任せている場合が多いと思いますが、この方法では、経済的な補強体の配置はできません。

地盤改良業者には、補強体先端地盤の出現深度と支持力や材料仕様のみを検討してもらい、配置に関しては建築士が構造計算に基づいて実施することがより合理的です。

4.まとめ

住宅の品確法が公布されて既に20年が過ぎましたが、地盤補強の設計と基礎設計については、未だに「ちぐはぐ」で、合理的ではありません。

私は、不同沈下事故が未だに発生しているのは、「建築士が地盤に関わる設計に関与しないケースが多いこと」が原因の一つだと考えています。

そろそろ、「建築士がやること」と「地盤補強工事会社」がやることをしっかりと分離して、地盤から構造までを一貫した理論に基づいて検討するという、モノづくりのとって「ごく当たり前のこと」を始める時期ではないでしょうか?

神村真



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