• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

住宅の不同沈下原因を調査していると、スウェーデン式サウンディング試験の段階で、不同沈下が予見されていることが多くあります。

そのようなケースでは、スウェーデン式サウンディング試験結果のみを見て、地形との整合を確認していないとか、合理的な考察に基づき工法選択がされていないなど、少々稚拙な判断がなされていることが多いと感じます。

このような問題が発生する根底には、建築士が地盤の評価を最終的にチェックしていないことがあります。

残念ながら、地盤調査会社や地盤保証会社の地盤判定技術は、企業によってばらつきがありますし、大量の案件を処理する上で、一つ一つを詳細に確認できているかと言えば、必ずしも、そうではないでしょう。

AI技術の発展によって、このような問題は次第に解決していくとは思います。

しかし、地盤の評価は、地盤保証会社が建築士として答えを出さない限り、建物を設計する建築士の仕事です。

今回は、スウェーデン式サウンディング試験結果を読み解く場合に、判断に悩む4つのケースについて、具体的にどのような評価をしていくべきなのかについて、考えていきたいと思います。

  1. はじめに
  2. 調査可能な深度が、浅いまたは敷地内でばらつく
  3. 中間の良好層を支持層とする場合
  4. 調査区間内に支持層がない場合
  5. スウェーデン式サウンディング試験の限界

1.はじめに

図-1に、スウェーデン式サウンディング試験結果から地盤対策を検討する際に悩むポイントを整理してみました。

図-1 スウェーデン式サウンディング試験結果を判読する上で悩むポイント
  • 調査可能な深度が、浅いまたは敷地内でばらつく
  • 全体として軟弱な地層が連続しているが、中間に比較的良好な地層(層厚1~2m)が存在する
  • 調査区間(深度約10m)に建物を支えることができる地層がない

今回のブログでは、これら3つのケースと、スウェーデン式サウンディング試験の適用限界についてを加えた計4つのケースについて考えていきます。

2.調査可能な深度が、浅いまたは敷地内でばらつく

このケースで、最初に考えなければならないことは、調査不可となる地層(スクリューポイントがそれ以上貫入できなくなる地層)が、本当に良好な支持層なのかということです。

スウェーデン式サウンディング試験の結果を評価する場合、事前の資料調査の活用が必要です。

事前の資料調査で、比較的浅い深度から良好な地層が出現することが分かっている場所であれば、試験結果を素直に受け入れればよいことになります。

問題は、そのような事実が事前調査で得られていない場合です。

 例えば、台地の端部に位置する敷地が試験対象の場合、事前の資料調査から、台地端部の腹付け盛土であると考えられたとします。

調査結果は、盛土層厚が、旧地形である台地端部の斜面の上方から、下方にかけて、次第に増加する内容になっていると考えられます。(図-2参照)

図-2 台地端部の腹付け盛土での地盤調査結果についての推測例

このような地形に対して、調査可能な深度が、ほぼ一定であったり、敷地内で不規則にばらついたりする場合は、建設廃材の混入によって、スクリューポイントが貫入できないことが考えられます。

通常、台地の端部に腹付け盛土を行う場合、擁壁が現れるので、見落とすことは少ないのですが、比較的広い範囲で盛土がなされている場合で、対象となる試験地が擁壁側ではなく内陸側だった場合、敷地内には擁壁がないので、台地上の硬い地層が現れていると勘違いすることがあります。

このような事例では、事前に地歴・地形をしっかり確認しておくことで、調査結果から適切な判断を下すことが可能です。

もし、試験結果から、建設廃材の混入等が疑われる場合は、敷地内で試掘を行ってください。

試掘の結果、建設廃材が確認される場合は、廃材の撤去を行い良質土と置換するか、薬液注入によって間隙を充填し、固化させる等の対応を検討することをお勧めします。

なお、近年の常時微動計測技術の発展によって、地中のせん断波速度が高い精度で計測できるようになっています。

建設廃材等の混入が危惧され、スウェーデン式サウンディング試験による地盤調査が困難と考えられる場合は、常時微動計測を行い、盛土層の厚さを把握したうえで、追加調査の検討を行う方が合理的な対応ができるでしょう。

ところで、このような建設廃材が混入している地盤は、住宅建設においては欠陥のあるものになります。

この土地の売買が不動産事業者間での取引ではない場合、売主の「落ち度」(地盤の欠陥を確認することなく販売したこと)が認められる可能性があります。

この場合、買主は、契約の解除や建設廃材の撤去等に要する費用の負担などについて、売主と交渉することができます。

このような問題を抱えている方は、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

3.中間の良好層を支持層とする場合

大河川の近くでは、軟弱層の堆積厚さが20mを超える場合があります。

このような地層でも、地域によっては、地表面から数mの箇所に、層厚が1~2m程度の比較的良好な地層が現れる場合があります。

私は、このような地層を「中間層」と呼んでいます。

「中間層」は、地域によっては、改良体等を介して建物荷重を受ける「支持層」としての役割を果たしていることがあります。

「中間層」を「支持層」として利用する場合の問題点は、以下の3点です。

それぞれについての注意点を見ていきましょう。

  • 中間層の層厚
  • 中間層の面的な連続性
  • 新規盛土の計画の有無
中間層の層厚

 中間層で改良体や鋼管の先端を支持する場合に注意したいのは、その層厚です。

先端部からの荷重の伝達範囲は、改良体等の直径Dの2倍程度までと考えることができます。

このため、中間層の層厚は、2×Dだけ確保しておけば、建物荷重が中間層の下層に伝達することはありません。

しかし、改良体等の先端支持力を計算する場合、改良体等の先端部から下方に1×D、上方に1×Dの範囲の地盤強度を用います。(※この範囲は工法によって変化するので、注意が必要です)

このため、改良体先端部を中間層に1×Dだけ「根入れ」した方が、先端支持力を大きく取ることができます。

もしも、中間層の地盤強度をフルに活用する必要があるのなら、中間層の層厚は、「荷重の伝達範囲の2×D」と「支持力計算用の改良体先端から上方に1×D」の合計3D以上を確保しておく必要があります。(図-3参照)

図-3 中間層に求められる層厚
中間層の連続性

 中間層を改良体等の支持層とする場合には、中間層が、敷地内に均等に分布していることも必要です。敷地内で行ったスウェーデン式サウンディング試験の全測点で、中間層の存在を認識できない場合は、中間層での支持については検討を取りやめるか、追加調査を行い、中間層の連続性について十分に確認することが望ましいでしょう。

新規盛土の計画の有無

 中間層を支持層とするような宅地は、水田利用されていた土地に盛土を行った新規の分譲宅地であることが多々あります。

複数戸にまたがる新規盛土は、一戸建て住宅よりも深くまで荷重が伝達します。

また、建物荷重を中間層に伝達させることで、その他の地層への荷重伝達を回避することが可能です。

しかし、盛土荷重は、そのような荷重の「移し替え」ができません。

このため、新規盛土の施工に際して、圧密沈下の検討が十分になされていない分譲地では、新規盛土による圧密沈下が発生し、建物荷重とは無関係に住宅が不同沈下する場合があります。

このような分譲地では、定期的に地表面レベルを計測し、圧密沈下が終了していることを確認するか、造成完了から半年以上放置した後に住宅建設を始めることをお勧めします。

4.調査区間内に支持層がない場合

 地表面から調査を行った深度(一般には深度10m)まで、建物を支えることができる地層が全く現れない場合は、以下の手順で堆積している地層の特徴を把握することを試みましょう。

①近隣ボーリングデータによる支持層出現深度の把握
②土質の把握
③粘性土層中の正規圧密層の把握

①近隣ボーリングデータによる支持層出現深度の把握

しっかりした調査会社であれば、スウェーデン式サウンディング試験の前に、近隣ボーリングデータを確認しているはずです。

支持層が15m付近に存在するのであれば、スウェーデン式サウンディング試験で支持層の出現深度を確認し、鋼管を用いた地盤補強を採用することが可能になります。

②土質の把握

近隣ボーリングデータがない場合は、資料調査による地形の確認とともに、調査時のロッドに付着した土を観察することで、大まかな地層構成を把握します。

この時、地下水位の確認も忘れないようにしましょう。

③粘性土層中の正規圧密層の把握

正規圧密粘土は、建物荷重の作用によって大きな沈下が発生します。

このため、正規圧密層の存在の有無とその位置を知ることは重要なことです。

正規圧密と過圧密を分ける指標となる圧密降伏応力は、一軸圧縮強さと比例関係になることが報告されています。

比例定数は研究者によって様々ですが、1.2~1.7程度の値が報告されています。

この関係を用いれば、スウェーデン式サウンディング試験結果から圧密降伏応力の深度分布を求めることが可能です。

また、土質の把握結果と地下水位の確認結果から、土の鉛直方向の土圧(有効上載圧)の深度分布を求めることができます。

両者を比較し、圧密降伏応力が有効上載圧以下となる区間があれば、この区間が正規圧密層です。(図-4参照)。

 正規圧密層以外の区間で、建物の重さを伝達させても問題のない地層があれば、その地層を改良体等の先端地層として、地盤補強の仕様を検討していきます。

図-4 正規圧密と過圧密を予測する方法の概要

【参考】志村晃一,安達俊夫,田村昌仁,古澤悟,小林精二,黒柳信之:戸建て住宅の基礎を対象とした沈下の検討方法に関する研究(その1 圧密沈下の予測方法と沈下障害事例),第39回地盤工学会研究発表会,pp.1365-1366,2004.

5.スウェーデン式サウンディング試験の限界

スウェーデン式サウンディング試験だけでは、一見判断が難しい試験結果も、十分な知識を持っていれば、安全を確保しながら、有効な対策方法を見出すことが可能です。

しかし、注意したいのは、スウェーデン式サウンディング試験の限界です。

以前、話題に挙げましたが、スウェーデン式サウンディング試験は、軟弱な地盤を対象として試験を行う時、地盤の強度を過大評価することがあります。

資料調査から、軟弱地層が厚く堆積していることが想定される地形なのに、調査結果から、軟弱地層の堆積厚さが比較的薄いと判断できる場合、試験結果が地盤強度を過大評価していることが考えられます。

このような試験結果に対して、(3)③で示した方法で、有効上載圧と圧密降伏応力の深度分布を比較すると、両者が平行する区間が現れます。

これは、ロッド周面に働く抵抗力(摩擦力のようなもの)が、貫入深度に比例して増加していることを表しています。

このことは、有効上載圧と圧密降伏応力の深度分布が平行になる区間では、スクリューポイントの接している地盤の抵抗力が変化していないことを意味します。

 このような試験結果が現れることを知らず、また、4.③のような処理を行わずに、試験結果を鵜呑みにして地盤補強工法の設計を行うと、改良体の先端部が実は非常に弱い地盤に位置するといったことが起こります。

私が関わった不同沈下案件の中で、地盤改良を行ったのに不同沈下が生じたケースでは、このようなスウェーデン式サウンディング試験の特性を見抜けなかったものが多くありました。

以上のように、スウェーデン式サウンディング試験は、とても簡易な試験ではありますが、地盤の変形強度特性を正しく理解していれば、様々な条件下でも合理的な判断が可能です。

しかし、建設廃材等で埋め立てられた地盤では、貫入力不足で十分な調査が行えない場合があったり、軟弱な地盤では、地盤強度を過大評価してしまう場合あったりと、試験方法の限界に関係して、試験結果の判読が困難になる場合があります。

ところで、前出の微動計測技術は、スウェーデン式サウンディング試験のように、器具を地中に押込む必要がないので、貫入力不足やロッド周面での抵抗力の発生の影響を一切受けません。

この技術は、地盤の硬さに関する指標であるせん断波速度の深度分布を把握することが可能です。

このため、微動計測技術とスウェーデン式サウンディング試験を併用すれば、スウェーデン式サウンディング試験が不得意とする部分を補うことができます。


スウェーデン式サウンディング試験は、建築基準法や住宅の品質確保の促進等に関する法律等の整備に関連して2000年以降、住宅業界で急速に普及した調査技術です。

しかし、その貫入力や軟弱地盤を対象とする調査時のロッド周面での抵抗力の付加は、改善できない課題です。

十分な経験を持った技術者が調査結果を判読するのであれば、これらの特性に対する評価について問題が生じることは少ないのですが、現在のように調査価格が下落してしまうと、優れた判読技術を持つ技術者を多く抱えて地盤評価を行うことも困難になりつつあるように思います。

現在のスウェーデン式サウンディング試験の低価格化と地盤保証の使われ方を見ていると、調査結果の詳細な評価は不要で保証商品のシェアを拡大することに視点があるように見えてなりません。

このような本末転倒な状況は、調査結果の評価内容に責任を負うべき建築士が、その任を果たしていないことの表れではないでしょうか?

住宅の設計項目の責任は、建築士に帰着します。

そのことをお忘れなく。

あくまでも地盤に関する責任を取りたくない建築士は、地盤保証会社の多くが建築士事務所登録しているので、各物件について建築士として判定書を書くように要求されるとよいでしょう。

建築士としての地盤判定書作成費用を求められるので、現行の地盤保証よりも高額な費用になると思いますが・・・

地盤の評価は、構造計算よりも考えることは少なく簡単です。

また、地盤工学の基礎は、弾性力学や弾塑性力学なので、実は建築学でも重宝されている構造力学との親和性も高い分野です。

地盤について学びたいと思われる方は、当方まで一報頂ければ、僭越ながら指導させて頂きます。


神村真



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