軟弱地盤上に住宅を建設する場合、柱状改良工法が採用されることが多いと思います。
この工法は、改良体の直径や長さを簡単に調整できる便利な工法です。
鋼管に比べて材料費が安いため、工事費が安くなる場合が多く、住宅分野で広く普及しています。
しかし、品質管理については課題が多く、築造された改良体品質には、様々な不安要素が含まれています。
今回は、柱状改良体の品質(特に強度)に着目し、目標とする品質(設計基準強度)の設定方法、施工管理や品質管理の方法について考えたいと思います。
工場で生産された製品でも、強度は製品ごとに「ばらつき」があり、一定値にはなりません。
セメント系固化材を水に溶いたもの(固化材スラリーと呼びます)を地中に充填し攪拌混合することで柱状改良体を作る「柱状改良工法」では、強度の「ばらつき」は工場製品の比ではありません。
このため、出来上がった改良体の強度を、「設計上、どの程度期待するか」を決めたものが、設計基準強度です。
設計基準強度は、次式で表されます。
$F_{c} =\left( 1-m\cdot V_{quf}\right) \cdot q_{uf} $ 式1
$=\left( 1-m\cdot V_{d}\right) \cdot q_{ul}\cdot \alpha _{fl}$ 式2
ここで、各定数は以下の通りです。
$F_{c}$:設計基準強度
$m$:許容可能なばらつきの範囲を決める係数($m=1.3$とすることが一般的)
$V _{quf}$:築造した改良体の一軸圧縮強さの変動係数(ばらつき)($=\sigma _{quf}/q_{uf}$)
$\sigma _{quf}$:築造した改良体の平均一軸圧縮強さの標準偏差
$q _{uf}$:築造した改良体の平均一軸圧縮強さ
$V _{d}$:設計上設定した築造した改良体の一軸圧縮強さの変動係数(ばらつき)
$q _{ul}$:室内配合試験で得られた平均一軸圧縮強さ
$\alpha _{fl}$:現場室内強度比($\alpha _{fl}<1$)
この式は、現場で築造した柱状改良体の強度が正規分布する前提で、全検体のうち10%は、設計基準強度$F_{c}$を下回る可能性があることを表しています。(図-1参照)
なお、式1は、築造した改良体から抜き取ったコアを用いた一軸圧縮試験結果に基づく設計基準強度の算出式です。
式2は、室内配合試験結果から設計基準強度を算出するための式です。
ちなみに、設計用の一軸圧縮強さの変動係数$V_{d}$は、0.2~0.45程度です。
建設技術審査証明や建築技術性能証明等の第三者機関による性能評価を受けている工法の$V_{d}$は、0.2~0.35です。
式2から明らかですが、設計基準強度は、室内配合試験結果よりも小さくなります。
日本建築センターによれば、粘性土の現場室内強度比は0.59です。
設計上の変動係数を0.3とすれば、設計基準強度は室内配合強度の35%となります。
一般建築物の地盤改良の打ち合わせに出向くと、しばしば、設計基準強度として1,000kN/m2を超える値を目にしますが、これだけの設計基準強度を達成するためには、室内配合強度として約2,900kN/m2もの強度を確保する必要があります。
このような高強度の改良体を築造するためには、高いレベルでの施工管理が必要になってきます。
所定の設計基準強度が確保された柱状改良体を築造するためには、所定の設備(主に掘削攪拌装置)と手順で改良体を作る必要があります。
第三者機関での技術審査に合格した柱状改良工法は、使用する掘削攪拌装置(設備)を用いて、どのような手順で施工するかを施工マニュアルで規定する必要があります。
第三者機関は、施工マニュアルで規定された設備と施工手順によって作られた改良体の強度のばらつき(変動係数)や、改良体強度と配合試験結果の関連性などを審査します。
私は、いくつかの柱状改良工法について、第三者機関の技術審査に責任者又は主担当者として関わってきましたが、どの工法でも、開発初期段階から所定の品質を確保できる工法はありませんでした。
また、ある程度再現性が確保できるようになった後でも、土質によっては想定外の低品質となる場合もあり、その都度、施工工程や管理基準の追加を行うようにしていました。
写真1に、ある柱状改良工法の開発中に撮影した、築造後の改良体の断面状況を示します。
左の写真は、掘削攪拌翼の形状や施工手順が定まる以前に、ごく一般的な施工手順で築造した改良体断面です。
右の写真は、掘削攪拌翼の形状や施工手順が定まり、所定の品質を確保できるようになった後の改良体断面です。
いずれも、同じ敷地で、ほぼ同じ深度での改良体断面です。
開発初期段階(左の写真)では色むらが多く、改良体内部が不均質な状態であることが分かります。
一方、開発後期(右の写真)は断面の色が均一で、よく攪拌できていることが分かります。
盛土地での施工だったので、同一敷地内で土質にムラがあったことも考えられますが、両者では、一軸圧縮強さやその変動係数にも大きな差異が見られました。
写真1 施工後の改良体断面の一例
写真1から、一般に適切だと言われている施工設備と施工手順で改良体を築造したからといって、設計で想定している品質の改良体が常に出来上がるわけではないことが分かっていただけると思います。
第三者機関による柱状改良工法の審査では、様々な条件下で所定の品質の改良体を築造できることを確認します。
このことから、第三者機関で審査された柱状改良工法は、再現性の高い施工設備と施工手順の組み合わせが確立した工法ということができます。
戸建て住宅の現場では、第三者機関での性能評価を受けていない掘削攪拌装置や施工手順によって柱状改良体が築造されている場合が多いと思います。
果たして全ての現場で、適切な品質の改良体が築造されているのでしょうか?
写真1を見て頂ければ、未検証の施工設備や施工手順で施工を行うことが大きなリスクであることを理解していただけるのではないでしょうか?
表-1に、一般建築物と小規模建築物(住宅等の小型の建築物)での、品質管理方法の違いを示します。
小規模建築物での合格判定基準は、改良体から採取したコアの強度が、設計基準強度以上であることですが、一般建築物での合格判定値は、採取したコア強度の平均値が、設計基準強度よりも$\left(k_{a}\cdot V_{d}\cdot q_{ud}\right) $だけ大きな値であることが求められます。
このように、小規模建築物の合格判定基準は、一般建築物よりも緩いことが分かります。
また、一般建築物では、「深度方向にボーリングマシンでコアを採取すること」とされていますが、小規模建築物では、「改良体から採取した改良土をモールドに詰めたもの(モールドコア)による強度確認」が認められています。
表-1 一般建築物と小規模建築物での強度検査基準の違い
※100改良コラムに1か所以上とする。
【出典】日本建築センター、ベターリビング: 2018年度版 建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針 -セメント系固化材を用いた深層・浅層混合処理工法―,pp.338-358,2018.
住宅建設で柱状改良工法を採用する場合、事前の配合試験を行うことは極稀です。
SWS試験による地盤調査では土質も地層構成も不明です。
このため、経験的に固化材の配合量を設定しています。
このような状態で、さらに、品質管理も簡易化することが、果たして正しいのでしょうか?
柱状改良工法は、現場で杭状補強体を築造する工法なので、第三者機関で、その管理方法等が厳格に審査された工法を除いて、やはり丁寧な品質管理を行うことが必要なのではないでしょうか?
今回は、柱状改良工法の品質管理の難しさについて書きました。
柱状改良工法は、現場で改良体を築造する工法です。
土質によっては、高強度の改良体を作るどころか、均質な改良体を作ることさえ難しいこともあります。
また、配合試験を行わないことが慣行になっています。
このような状態でもなお、この工法が広く利用される理由は、工事費を安く抑えることを求められるためです。
企業Aが、品質管理の重要性を訴えても、それらをやらないことで低価格で工事を請け負う企業Bの存在が許されれば、品質よりも工事費が優先される市場が形成されてしまいます。
現状は、品質管理を十分に行わないことが許容されている市場です。
この現状を変えていくためには、柱状改良工事の発注者が、柱状改良工事での品質管理の重要性を認識し、改良業者にその徹底を求めることが必要になります。
もちろん、工事費用は増加します。
しかし、地盤改良会社各社が一定期間品質管理を徹底すれば、自社の施工管理基準と品質の関係が明確になってきます。
このような状態になれば、品質管理を簡素化することは十分に可能です。
一般建築物での地盤改良工事では、建築士が、築造した改良体の品質検査に強い関心を示す場合が多いのですが、住宅分野では、建築士のそのような姿勢を見ることは稀です。
建築士には、設計監理者として、「施工管理基準通りの施工がなされているか」、「計画通りの品質管理がなされているか」、「所定強度は発揮されているか」の3点については、各現場で確認を行って頂きたいと思います。
神村真