• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

 近年の豪雨や台風は、非常に大きな被害をもたらしていますが、これらは、海水面の温度上昇が影響しているようです。

私の記憶では40年ほど前から地球温暖化についての話題は上がっていましたが、今世紀に入ってからは、その影響が夏場の気温や豪雨などの気候にも表れるようになってきていると思います。

このような環境のもと、都市計画の段階で、災害リスクの高い地域での居住をより強く制限しようとする動きが現れ始めました。

今回は、災害リスクに関する政府の動きを見ながら、土地を探す場合に、災害リスクをどのよう捉えるべきかについて考えたいと思います。

  1. 災害の可能性がある場所が必ずしも公表されていない
  2. 社会インフラの老朽化とコンパクトシティ構想
  3. まとめ

1.災害の可能性がある場所が必ずしも公表されていない

「気候変動を踏まえた水災害対策検討小委員会」では、近年の気候変動を考慮した水災害対策の考え方を変えていくことを検討し、2020年7月に答申を提出しています。

その中で、実施すべき施策として以下の3つの点が強調されています。

  • 氾濫を防ぐ
  • 被害対象の減少(水害リスクの低い地域への誘導、浸水地域の限定)
  • 被害の軽減(早期復旧復興)

また、土砂災害についても同様です。

「気候変動を踏まえた水災害対策検討小委員会」では、未だに指定が不十分な「土砂災害警戒区域」の抽出を急ぎ、危険な場所を明確することを急ぐべきであることを答申の中で示しています(2020年3月)。

【参考資料】
国土交通省HP:気候変動を踏まえた水災害対策検討小委員会
・【概要】気候変動を踏まえた水災害対策のあり方について 答申
・【本文】気候変動を踏まえた水災害対策のあり方について 答申

【参考資料】
国土交通省HP:土砂災害防止対策小委員会
・近年の土砂災害における課題等を踏まえた土砂災害対策のあり方について(答申)

気候変動については20年以上前から議論に上がっていましたが、近年の台風や豪雨での災害の激甚化は、政府に重い腰を上げさせたようです。

中でも、災害リスクの高い地域からの移動については、これまでに、対応が求められてはいましたが、「土地の所有者の権利を侵害するのでは?」という観点から、自治体の動きが消極的だったように思います。

しかし、上記の流れから、積極的な対応を始める自治体が出始めています。

例えば北九州市では、当初、居住誘導地域であった地域でも、後に土砂災害警戒区域などに指定された地域に対して、居住誘導地域から除外することを積極的に進めています。

【参考資料】
北九州市HP:北九州市立地適正化計画 居住誘導区域の変更について

このように、政府は、自治体と協働で、災害リスクの高い地域を可能な限り洗い出し、そしてそれらの地域に人が住まない環境を整えようと具体的な行動を起こし始めています。

2.社会インフラの老朽化とコンパクトシティ構想

災害の他にも、我が国の社会インフラは老朽化を続けています。

NHKでも取り上げられていますが、橋の大部分が1960年代から1980年代に造られたもので、その維持管理と更新が大きな問題になっています。

図-1に、橋の建設からの経過年数のヒストグラムを示します。

【出典】
国土交通省HP:社会インフラのモニタリング技術活用推進検討委員会
第1回(平成25年10月18日(金))
○資料2 社会インフラの維持管理の現状と課題

図中には、記録の確認ができない橋がグラフに示したもの以外に約30万橋あると記載されています。

膨大な数の橋が、今現在老朽化しているということがよく分かります。

橋に限らず高速道路や一般道路も同様です。

私たちの周りの社会インフラは、ほぼ同時に老朽化しています。

これらのインフラが整備された時期は、人口が増加傾向にあり都市が拡大していた時期ですが、現在は、人口が減少傾向にある時代です。

人口減少に伴い、今後必要性が低下する社会インフラが大量に発生することが考えられます。

前述の北九州市の事例は、都市再生特別措置法に基づく立地適正化計画制度の運用事例の一つでもあります。

立地適正化計画制度は、国が勧める政策で、いわゆるコンパクトシティ構想です。

人口増加の時代に無計画に拡張してしまった居住域を、人口減少の時代に適用できるように再構成しようとするものです。

立地適正化計画のもとでは、災害リスクの低い地域の利便性や住環境を高めることで、災害リスクの高い地域から低い地域に人が移動するように促したり、コンパクトシティ同士のつながりに特化した公共交通機関の運用をすることで、人の動きを制御し、活用する社会インフラを限定することが進められます。

このため、居住誘導地域以外の地域では、今ある社会インフラや公共サービスが今後も継続的に存在すると考えることはできないでしょう。

【参考資料】
国土交通省HP:コンパクト・プラス・ネットワーク

3.まとめ

以上のような動向から、今は「居住誘導地域」であっても、災害リスクの高い地域は、「居住誘導地域」から除外されていくと考えられます。(前述の北九州市の事例がまさにこのパターンです)

この流れは、10年~20年くらいかけて進むと思いますが、より早く進行することも考えらえます。

居住誘導地域でなくなれば、居住誘導地域に比べて受けられる公共サービスの内容に差が出るなど、利便性が低下するでしょう。

災害リスクが特に高い地域では、集団移転が求められることも考えられます。

このため、住宅建設用の土地を探す場合、これまで以上に災害リスクに着目しておく必要があります。

どうしても災害リスクの高い地域に戸建て住宅をしなければならない場合は、前回ブログで示したように、リスクを回避できる構造を採用することを忘れないようにしてください。


神村真



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