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「地盤調査をしたら地盤補強が必要と判定されてしまった」という声を耳にすることがあります。

地盤補強は、大きな費用が必要な工事なので、できるだけ避けたいものですが、軟弱地盤上に家を建てる場合、建物を長期間安全に支えるためには不可欠な工事です。

今回は、地盤補強の機能や色々な地盤補強方法とその選び方について考えてみました。

  1. 地盤補強の機能
  2. 地盤補強方法の選択と軟弱層の厚さ
  3. 地盤補強方法選択時に注意すべきこと
  4. まとめ

この記事の内容の一部は、動画でも解説していますので、そちらもご覧ください。

1.地盤補強の機能

地盤補強の機能は以下の二点です。

  • 支持力の増大
  • 沈下の抑制

日本建築学会では、地盤の長期許容支持力度を次式で算出することを推奨しています。

σe qa=30Wsw+0.64Nsw                             (1)

ここで、 σe :基礎底面接地圧、qa:長期許容支持力度、WswNsw:基礎底面から下方に2mの範囲のSWS試験結果の平均値です。

べた基礎を採用した場合の木造2階建て住宅の基礎底面接地圧を15kN/m2程度と仮定すれば、Wswが0.5kNであれば、長期許容支持力は接地圧よりも大きくなり、建物を支えることができると予測できます(ただし、基礎形式によって必要な最低長期許容支持力度が決まっているので注意が必要ですが…)。

平成13年国交省告示1113号に示された沈下の検討要件に基づけば、基礎底面から下方に2mの範囲では、Wswが1kN以下の場合、建物荷重による地盤沈下が建物に悪影響を及ぼさないことを確認する必要がありますが、SWS試験結果のみから沈下量を予測することは困難です(以下の記事参照)。

このため、基礎底面から下方に2mの範囲のWswが0.5kNの場合、何らかの地盤補強を行うことになります。

このことから、多くの地盤補強は、「沈下の抑制」を主目的として採用されていると考えられます。

なお、最近では、これらの建物を「支える」という機能面だけではなく、別の価値が求められる場合があります。

それは、建物解体時に「杭状補強体を比較的廉価で撤去できること」、あるいは、「撤去する必要がないこと」です。

杭状地盤補強の場合、地中に何らかの杭状補強体を築造します。

将来、建物を解体して土地を転売する場合、杭状補強体は「地中障害物」になるので、「撤去を求められる」か「撤去費用分を売却価格から割り引く」ことが求められます。

このことから、地盤補強には、機能面だけではなく「土地の価値」に関係して以下の性能が求められています。

  • 撤去が容易
  • 撤去が不要

2.地盤補強方法の選択と軟弱層の厚さ

地盤補強には様々な方法がありますが、その選定については、主に、対策が必要な軟弱層の層厚が関係しています。

図-1に、地盤補強方法の種類と対策深度の関係を整理しました。

各工法について以下に概説します。

図-1 地盤補強方法の種類と対策深度の関係

(1)無対策

基礎底面から下方に2mの範囲でのSWS試験結果の平均値から求まる長期許容支持力度が、基礎形式に応じた値を示していて、平成13年国交省告示1113号に示された建物荷重による沈下の影響検討の要件に当てはまらない場合、「地盤補強を行う必要はない」と判断できます。

  • 基礎底面から下方に2mの範囲にWswが1kN以下の地層がある
  • 基礎底面から下方に2~5mの範囲にWswが0.5kN以下の地層がある

ただし、基礎底面下で切土と盛土が混在する場合は、それらの支持力特性の違いに注意する必要があります。

切土と盛土で長期許容支持力が大きく異なる場合は、上記の条件を満足する場合でも不同沈下の可能性があるので注意してください。

(2)表層改良工法

この工法は、基礎底面から下方に2m程度までの範囲で告示1113号に当てはまる層がある場合や長期許容支持力度が基礎接地圧を下回る場合に採用されます。

改良深度が基礎底面から下方に2mを超えると、柱状改良工法等の杭状地盤補強工法で対応した方が、経済的になる場合が多いです。

改良層の下に軟弱層がある場合は、建物荷重による沈下が生じる可能性があります。

(3)柱状改良工法・鋼管工法

これらの工法では、原則として、建物荷重を、杭状補強体を介して、建物荷重による沈下の可能性がある地層のさらに下の地層に伝達させることで、支持力を確保し、沈下を抑制します。

柱状改良工法は、補強体の先端深度が基礎底面から2~6m程度までの時に経済性を発揮します。

補強体の長さが長くなるほど、全補強体長が長くなるので、工期が長くなり、経済性が低下します。

柱状改良工法では、1日に施工可能な補強体長さは、施工機オペレーターの経験や施工機械、土質によって変化しますが、おおよそ100~120mです。

この長さを超えると、施工日数が2日以上になるので、場合によっては鋼管工法の方が経済的になる可能性が出てきます。

柱状改良工法では、補強体の長さを自由に変化させることができるので、改良対象層の厚さが敷地内で大きく変化する場合でも、柔軟に対応することができます。

鋼管工法は、一般に、柱状改良工法よりも材料費が高いため、敬遠されがちですが、材料強度が大きいので、強固な補強体先端地盤が確保できる場合、効率よく支持力を確保できます。

通常、使用する鋼管の長さは最大6mで、改良対象層の層厚がこれを超える場合は、複数の鋼管を溶接などで継ぎ足して使います。

鋼管工法は柱状改良工法よりも施工性が高いので、改良対象層厚が8~10m程度を超える場合に利用されることが多い工法です。

ただし、鋼管の最大長さは鋼管直径の130倍とするので、改良対象層が厚いほど、鋼管の直径が大きくなり、材料費が増加します。

(4)シート工法・複合地盤工法

シート工法は、砕石地業内に不織布製のシートを敷き込むことで、砕石層のせん断強度を補強したり、シート張力を利用して沈下量を低減することができる工法です。

この工法では、地表面付近の地盤強度が補強されるものの、建物荷重は深部に伝達されるので、建物荷重が伝達する範囲内に沈下しやすい地層がある場合、不同沈下が発生する可能性があります。

複合地盤工法は、地盤と杭状補強体のそれぞれの支持力によって建物を支える工法で、支持力補強と沈下抑制の両機能を持ったものです。

この工法は、軟弱層が厚い場合に利用される場合が多いのですが、建物荷重を地盤に伝達させるので、建物荷重が伝達する範囲に沈下しやすい地層がある場合は、発生する沈下量の留意して仕様を決定する必要があります。

3.地盤補強方法選択時に注意すべきこと

2.では、対策が必要な軟弱地盤の層厚に基づいて適用可能な方法を分類しましたが、これだけでは地盤補強方法の選定はできません。

それぞれの工法には、向き不向きがあるので、この特性を正しく理解しておく必要があります。

(1)杭状補強体を用いる方法

柱状改良工法や鋼管工法のことです(複合地盤工法でも杭状補強体を使用する場合には同様の注意が必要です)。

杭状補強体を用いる工法では、敷地内の全ての補強体が、設計で計画された支持力を発揮する必要があります。

敷地内で先端支持力を期待する地層(先端地盤)の出現深度が変化する場合、この地層の出現深度に合わせて補強体の長さを変化させなければなりません。

特に、対策しなければならない軟弱層の層厚が変化しているのに、補強体の施工長さが一定の場合、一部の補強体の先端は、計画先端地盤に到達していませんので、地盤補強をしても不同沈下することになります。

(2)セメント系固化材を利用する工法

表層改良工法や柱状改良工法では、セメント系固化材と土を固化処理しますが、土や施工方法によっては、設計で要求される強度を確保できない場合があります。

セメントは強アルカリ性ですが、土の中には酸性を呈するものもあります。

このような土質の場合、セメントが中和されるので、セメントの硬化反応が弱くなってしまいます。

このような酸性土壌は、未分解の植物が堆積してできた土である「腐植土」や「高有機質土」が相当します。

また、火山灰質土も、その含有成分(アロフェン等)に起因してセメント系固化材の硬化を阻害することが知られています。

柱状改良工法では、土とセメント系固化材をよく攪拌しなければ、設計で定義した品質の改良体を作ることができませんが、粘性が強い土では掘削攪拌翼に土が貼りつき攪拌性能が低下したり、ごく軟弱な土では固化材スラリーを地中に充填することが困難になったりと、土質によって様々な問題が発生します。

このため、設計で定義した品質を確保するためには、現場ごとに施工方法を調整する必要があるので、事前に、対象地にどのような土が堆積しているかを詳しく把握しておく必要があります。

また、セメント系固化材を用いた表層改良工法では、加水することはあまりないと思いますが、セメントが硬化反応を継続するためには水は不可欠です。

このため、水分が少ない地盤の場合、施工中や施工後に加水し、セメントの硬化に必要な水分を補うことが必要になります。

(3)その他

鋼管工法で、2本以上の鋼管を接続する場合、溶接継手や機械式継手が用いられます。

継手は、鋼管強度を低下させるため、どのような継手を使用するかを事前に検討しておく必要があります。

溶接継手は、雨天や寒冷時に、養生なしに実施することで大幅に品質が劣化するので注意が必要です。

4.まとめ

私は2006年から不同沈下事故の原因調査に関わっていますが、それらの多くは地盤補強したにも関わらず不同沈下したものでした。

近年、私が調査した不同沈下事例の中には、SWS試験結果が地盤の特性を適切に計測できていないと考えられるデータを用いて地盤補強の設計を行っているものや軟弱地盤の層厚変化を無視して杭状地盤補強を行っているものがありました。

このことは、技術者が、調査結果のエラーも含めてSWS試験結果を適切に評価できていないことを示していると考えられます。

SWS試験結果の評価は地盤保証会社に一任されている場合が多いと思いますが、1日に大量の情報を扱うので、このような間違いが起こるのかもしれません。

住宅の設計者である建築士は、地盤保証会社や地盤改良会社が提案する地盤補強方法を鵜呑みにすることなく、必ず自分で評価し、有効な地盤補強方法が行われるように監理されることをお勧めします。

神村真



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