先日、「内水氾濫」に関する動画を公開しました。内水氾濫は、人が作った災害です。
2020年8月12日、埼玉県で豪雨による冠水・浸水被害が多発したのですが、SNSやTVで流された視聴者の投稿動画にあった「マンホールから水が噴き上がる様子」が印象的だったので、翌週の月曜日、この被害についてブログに掲載しました。
今回は、ブログでも取り上げた埼玉県川口市東川口付近での冠水について、もう少し細かく見ておくことにします。
このブログの内容の一部は、以下の動画でも解説しています。是非ご覧ください。
2020年8月12日 埼玉県川口市の東川口駅周辺で内水氾濫が発生しました。
当日の雨の記録を調べてみると川口市に隣接するさいたま市と越谷市の記録が確認できました。
図1に、当日の10分ごとの降水量の記録を示します。
降雨が観察されたの13時から15時までの2時間程度ですが、雨の強さが凄いことに気づきます。
図-1は10分間ごとの降水量なので、この値を6倍すると、1時間当たりの降水量(降雨強度)に換算できます。
1時間当たりの降水量が30~50mmでは「バケツをひっくり返したような雨」、50~80mmでは「滝のような雨」、80mmを超えると「息苦しいような圧迫感がある雨」と言われます。
図-1から、さいたま市、越谷市では、14時から14時10分に降雨水量の最大値が記録されています。
さいたま市では10分間に19mmなので、1時間あたり114mmの雨、越谷市では10分間で21.5mmなので、1時間当たり129mmの雨が降っていたことになります。
先ほどの「息苦しいような圧迫感がある雨」を軽く超える雨が降っていたことが分かります。
特に、越谷市の記録では、1時間当たり30mmを超える雨が、50分間連続して降っていたことが分かります。
しかも、そのうち30分間は、1時間当たり90mmを超える雨でした。
こんな強い雨に、下水道は、耐えられるのでしょうか?
川口市の下水道の規格は確認できませんでしたが、東京都では、豪雨対策基本方針の中で、対策する雨の強さと対策の程度を示しています。
この指針では、東京都は1時間当たり50mmの降雨強度に対して床上浸水の発生を防止するように整備を進めていることが分かります。
それ以前は、1時間当たり30~40mmの降雨強度で整備されていたようです。
このことから、一般的には1時間当たり 30mm/hを超えるような雨が降ると、下水道が溢れる可能性があると考えられます。
このことから、2020年8月12日の14時頃の雨では、下水道が「対応できなくなって当たり前」と言うことになります。
東京都豪雨対策基本方針https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/kiban/gouu_houshin/index.html
浸水が発生した東川口駅周辺での浸水記録を、川口市のウェブサイトから確認することが可能です。
東川口駅の東側の地域は、いずれも道路冠水は日常的に発生し、豪雨の際には、床下・床上浸水が発生することもある地域であることが分かります。
埼玉県川口市ウェッブサイト 「内水害(内水氾濫)に注意しましょう」https://www.city.kawaguchi.lg.jp/soshiki/01040/010/7/1/3000.html
図-2に、東川口駅を中心とした土地条件図を示します。
図で、橙色の部分は台地、水色の部分は低地です。
図から、東川口駅は、台地(大宮台地)の東側外縁部に位置していて、冠水を繰り返す東川口駅より東側の地域は、もとは氾濫平野であったことが分かります。
台地面から東側の低地面までの高低差は10mを超えています。
このことから、雨水の流入経路を考えると、以下の二経路が考えられます。
川口市では、平成30年から雨水の流出抑制を積極的に進めているようですが、流出抑制施設から溢れた雨水は、下水道に流す仕組みになっています。
また、雨水流出抑制の取り組みを始める以前の対応状況は不明ですが、雨水浸透施設が各戸に設置されているわけではないと思われるので、大部分の屋根雨水は下水道に流下していると考えられます。
下水道の構成にもよりますが、豪雨時には、台地上部でも下水施設が限界に達していると考えられるので、下水道に流せない雨水は側溝や道路面を伝って下流に流れていくことが予測できます。
結果、下流部では下水道で処理できない雨水が集まり、冠水や浸水被害を発生させているのです。
川口市のように、台地と低地がある地域では、台地部では雨水浸透施設の普及と運用を、低地では貯留施設の普及と運用を徹底することで、下水道への負荷を下げることができます。
これは、非常にラッキーなことです。
私が住む東京都墨田区は低地しかありませんので、浸透による雨水流出抑制ができないので、貯留施設をとにかく増やすしかありません。
ここで、雨水貯留施設や浸透施設の効果について簡単に考えたいと思います。
屋根面積が50m2の住宅があったとします。
降雨強度が1時間当たり50mm(0.05m)なら、この屋根に降る雨の量は、50
m2 ×0.05m=2.5m3(2,500ℓ)となります。
浸透施設の雨水の処理量は、1時間当たり1m3 の施設が、敷地内に2か所あれば、下水道に流下する雨水は、0.5m3 (20%)まで削減することができます。
一方、貯留タンクの貯留量は、200ℓのものが一般的です。
仮に豪雨の継続時間が10分だったと仮定すれば、屋根雨水の総量は、2.5 m3 ÷6=0.416 m3 (416ℓ)なので、貯留タンク一つで50%の雨水流出抑制が可能になります。
このように、雨水浸透施設や雨水貯留施設は、小さなものではありますが、下水道への負担を確実に抑制できる優れたツールなのです。
なお、浸透施設については、導入できる地域に制約があるので、できるだけ効率のよい施設が必要だと考えられます。
既存の浸透施設は、一般的な丸枡の側面と底面に穴があけられていて、樋から流れてきた雨水を地表面付近に浸透させます。
浸透に適した地域でも、地表面付近は転圧や盛土されているので、このタイプの浸透施設では、十分な浸透量を確保できないことが考えられます。
私は、この点に着目して、図-3に示すような縦型雨水浸透施設を開発しました。
このタイプであれば、浸透能力が高い地層に直接雨水を浸透させることが可能ですし、施設内水位が上昇すると、水圧の効果で浸透性能が上がるというメリットが得られます。
浸透に適した地域であれば、既設の雨水集水桝底にも設置可能です。興味のある方はお気軽にお問合せ下さい。
近年、雨水流出抑制の考えが普及し、多くの自治体で、雨水貯留や浸透施設の導入費用を補助する動きが出ています。
リホームを検討されている方々は、この機会に、雨水貯留施設や浸透施設の導入を検討頂ければ、下水道の負荷が軽減され、冠水の頻度を下げることができると思います。
内水氾濫が起こるような低地では、河川水位が上昇した場合にもいろいろな問題が発生します。
雨水は最終的に河川に放流されますが、豪雨時に河川水位が上昇すると、これ以上の水位上昇を避けるため、雨水を放流する管路の出口(水門)がふさがれます。
水門が閉じられるので、雨水が行き場を失い、大規模な浸水被害に発展する場合があります。
このような問題は、主に都市部で顕在化しています。
率直に言って、この問題は、大地の雨水貯留機能を無視して大規模開発を許容してきた、我々の先輩たちの失策です。
大規模開発によって大きな富を得た人々がいる一方で、内水氾濫を防止するために巨額の税金を使って地中に巨大な貯留槽を作ったり、下水道の処理容量を増やしたりと、税金は出ていく一方です。
私は、このような愚かなサイクルを断ち切るためには、私たち一人ひとりが災害による被害を発生させないために、「自分にでできること」を考え、行動する必要があると考えています。
神村真