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住宅を建てるための地盤調査の目的は、地盤リスクの程度を知り、これに対処する方法を決めるための材料(事実)を集めることです。このため、調査結果を利用して不同沈下量を予測することも行われます。

ところが、SWS試験は圧密沈下量の予測には不向きなのです。

今回は、このようなSWS試験が不得手とすることや、追加調査をするのであれば知っておいていただきたいことを示しました。

  1. SWS試験の限界
  2. 追加調査の活用
  3. 土質試験結果の利用
  4. まとめ

この記事の一部は、以下の動画でも解説しています。併せてお楽しみください。

1.SWS試験の限界

住宅の地盤調査では、スクリューウエイト貫入試験(SWS試験)のみが唯一の地盤調査のように扱われていますが、本来は、そういうものではありません。図⁻1は、日本建築学会が示す地盤調査の流れ示す図ですが、支持力の検討や土試料の採取が行えず、沈下リスクを計測できない場合は、別の調査方法で地盤調査を行う流れを示しています。

図⁻1 SWS試験では情報が不足する場合の追加調査例

【参考文献】日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針, p.30, 2008.

一般には「追加調査の実施にはお金がかかるので、地盤補強をして不確定のリスクに対処する」という対応がとられていますが、不同沈下の原因調査を行うと、SWS試験結果から、沈下リスクを見出すことができずに、中途半端な地盤補強を行っているケースによく出会います。

また、なんとかSWS試験結果から沈下量を定量的に評価しようとする試みが行われており、確認申請機関でも受け入れられていますが、この予測方法には大きな問題があります。

日本建築学会は、次式を利用すれば、SWS試験結果からでも圧密沈下量を推定できることを示しています。

日本建築学会は、式(1)を示し、この式は「圧密未了から正規圧密状態おけるもので、過圧密状態では過大な値となることに注意する必要がある」としています。一方、日本建築学会は、式中に現れるmv の推定式をいくつか紹介しています。式(2)はその一つです。

S=mvΔσ・H           式(1)

mv=1/80・c=1/80・(45Wsw+0.75Nsw)/2     式(2)

ここで、mv :体積圧縮係数、Δσ:基礎接地圧による地中内応力増分、H:検討する圧密対象層の層厚、α:地域によって変わる係数、 WswNsw :SWS試験結果

【参考文献】日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針, p.51とp.82, 2008.

これらの式は、SWS試験を利用して沈下量を算出することができる、「とっても便利な式」なのですが、日本建築学会の示し方では、「勘違いしている人」がいるのではないかと思います。

日本建築学会がこの式(2)を紹介する際に添えた参考文献を、以下に示しますが、この論文の中で著者の竹中先生は、「先行荷重までのe-logp曲線の示す沈下は、粘土の弾性的な沈下によるものであって、ヤング係数との間に一定の関係がある」として、式(2)を示しておられます。この一文は、式(2)が過圧密粘土を対象に考案されたものであることを示しています。

【参考文献】竹中準之助:粘土のサンプリングとその信頼度,土質材料の力学の試験法における問題点、日本材料試験協会・土木学会・土質工学会関西支部、pp.1~22, 1962.

つまり、式(1)と式(2)を使って求める沈下量は、「過圧密領域の粘性土」での沈下量なのです。だから、式(1)、(2)を使って求めた沈下量は、「正規圧密地盤の沈下量を過小評価する」可能性があるのです。

このように、SWS試験結果で推定できる沈下量には、適用限界があります。そもそも、SWS試験では土質がよく分からないので、「この地層が圧密沈下する」とか「この地層で液状化が起きそうだ」ということさえ特定できません。それでも、実務上はSWS試験結果と式(1)、(2)を用いて沈下量を予測するのですが、正規圧密粘土の場合、沈下量を過小評価してしまう可能性がある点には注意が必要です。

ですから、地盤の沈下リスクを適切に評価し、適切な対策方法を選択するためには、地盤調査としてSWS試験のみを想定するのではなく、追加調査を行うことも前提としておく必要があると、私は考えています。

特に、図⁻2に示すように、自沈層( Wswが 1kN以下の地層)の下に小さい Nswが連続する傾向が見られて、かつ、新規盛土(築年数の浅い盛土)がある場合は、盛土自重による圧密沈下が継続している可能性があります。このようなSWS試験結果が確認された場合は、少なくてもボーリング調査を行い、自沈層から小さい Nswが連続する層の土質確認を行うことをお勧めします。

図⁻2 ちょっとおかしなSWS試験結果の一例

2.追加調査の活用

1.で示したように、SWS試験結果では、正規圧密状態にある粘性土の圧密沈下量を求めることができません。

地盤補強の要否や適切な地盤補強方法の決定には、地盤が持つリスクを適切に計測することが重要です。しかし、SWS試験だけではその役目を果たしていないので、毎年、新築住宅の1万棟に5棟程度で不同沈下が起こるのです。

「問題として顕在化するものは氷山の一角」だと考えれば、不同沈下についても、「現在問題になっていない」だけで、将来的に問題になる物件が多く存在しているかもしれません。

例えば、地震時には地震力が加わることで、短期的に基礎接地圧が増加します。支持状態が不安定な場合、地震力の作用によって不同沈下が生じることも考えられます。また、私が調査した不同沈下事例の中には、地震によって軟弱な粘性土地盤中に過剰な間隙水圧が生じたことで、地震後に長期沈下が始まったと考えられる案件もありました。

【参考記事】大きな地震の後に、粘性土地盤で発生する長期沈下現象を取り扱った記事

多くの地盤補償制度や瑕疵保険では、地震による不同沈下は免責です。このことから考えても、地盤についてのリスクは、常時だけではなく地震時についても考えておかなければならないことは明らかです。しかし、SWS試験だけでは、そのようなリスクを計測することは不可能です。

ですから、常時と地震時で、地盤リスクが変化するような場所(例えば、軟弱な地盤が厚く堆積している地域に、埋立てや盛土を行った造成地など)では、SWS試験のみならずボーリング調査や土質試験の実施についても計画する必要があるのです。

地盤調査を始めてから追加調査を計画することは、予算確保の観点から難しいでしょう。しかし、上述のような場所で住宅建設をする場合は、SWS試験以外の地盤調査が必要であることを予め決めておけば、予算確保も容易ではないにしろ、可能なのではないでしょうか?

地盤調査の目的は、地盤補償をつけることではありません。地盤調査の目的は、地盤のリスクを計測し、対策方法を決めるための情報を集めることです。対策方法の決定を地盤補償会社に一任している工務店も多いようですが、彼らに一任できる理由は何でしょうか?一任するなら、建築士事務所登録をしている補償会社で、成果品(報告書等)に管理建築士の名前を表示できる会社を選ばれることをお勧めします。「不同沈下時の金銭的補償を受けること」と「建築士の行うべき仕事を一任すること」を混同しないようにしましょう。

そのような対応をしてくれる地盤補償会社がなければ、建築士として「やるべきこと」は、沈下リスクを明確にするために「追加調査」を行うことではないでしょうか?

なお、追加調査を継続していると、ある地域での地盤情報がストックされていくので、次第に追加調査を行う必要がなくなっていくと考えられます。地域密着型の経営をしている工務店の場合、特に、その効果を得やすいでしょう。

3.土質試験結果利用時の注意点

不同沈下物件の原因調査結果の報告の際に、私が困るのは、「土質試験結果は絶対正しい」と考えている人が多いことです。

SWS試験もそうですが、人が行うことに「絶対」はありません。特に、土質試験用に採取する「乱れの少ない土試料」については、それを採取するボーリング調査員の技量に加え、採取した試料から供試体を切り出す試験者の技量も問われます。また、試験方法にも多くの問題がありますので、試験結果は、実際の地中の状態を再現していません。

私が、地盤の仕事を始めたころ、圧密試験に用いる「乱れの少ない試料」のことを、「不攪乱試料」と呼んでいましたが、「乱れのない試料(不攪乱試料)は採取できないだろう」ということで、「乱れの少ない試料」と呼ばれるようになりました。

実際、私が見る圧密試験結果で、乱れの影響が非常に少ないものは、ごく稀です。土試料を慎重に採取してくれて、採取試料を慎重に扱ってくれる業者のものは、乱れの影響が極めて少ないのですが、そのような業者は稀です。

このような業者の調査費用は、その他の調査業者に比べて高額なので、私が、この業者を使いたいと言っても認めてもらえないこと場合がほとんどです。しかし、採取した土試料がたどる道を知っても、金額だけで業者を選びますか?

図⁻3に、土試料に作用している応力が、試料採取後からどのように変化するかを示した模式図です。採取試料の取り扱いが、土質試験結果に及ぼす影響をご理解頂けるでしょうか?

図⁻3 供試体が受ける様々な乱れの影響因子

特に、圧密試験に用いる供試体は、直径6㎝、厚さ2㎝の円柱です。すごく小さいと思いませんか?。この供試体を作成する間にどれだけの乱れを与えていることでしょう。圧密試験は、同一地層で、複数の供試体で試験を行い、そのばらつきを知っておきたいところですが、実務では予算の関係で、そうもいきません。

このため、私は圧密試験結果を評価する際は、自然含水比と液性限界の関係、液性限界と圧縮指数との関係、圧密降伏応力と一軸圧縮強さの関係等、複数の土質試験結果との整合性を必ず確認し、供試体に乱れの影響がなかった場合の圧密特性を推定するようにしています。特に、含水比や液性限界という物理的性質には、土試料の乱れの影響は含まれないので、これらの値の大小関係を参考にすることが多いです。

「試験」と名の付くものの結果は、ついつい正確なものと考えてしまいがちですが、土質試験の結果にも誤差はつきものです。それらの結果を正しく評価するための方法を知り、計画段階で準備しておくことが不可欠です。

4.まとめ

この数年の間に私が調査に関わった不同沈下物件は、SWS試験結果だけでは地盤のリスクを評価できないことが事前に分かっている物件(軟弱な地盤が堆積していることが明らかなうえに、盛土された新しい造成地)ばかりでした。

これらの案件では、追加調査を行っていれば、不同沈下が起こらないように地盤対策を行うことができたでしょう。

詳細な地盤リスクを知ることで、対策費用が跳ね上がることがありますが、それは、対策をしなければ起こるであろう不同沈下とその補修費用を考えても高額でしょうか?

私は、そもそも、そのようなリスクの高い土地の地価がどのように設定されているのかについて常日頃疑問を感じています。

言い方は悪いですが、私たち専門家から見れば、地盤対策に多くの費用を要する「悪い土地」が宅地として販売されています。残念なことに、一般の消費者の多くは、土地の良し悪しを判断する術を持ちません。

可能であれば、建築士が土地の良し悪しを見る目を養って、あなたのもとに相談にやってきた消費者を良い方向に導いて頂きたいと思います。

神村真



コメント一覧

返信2021年10月16日 2:50 PM

常塚 博司25/

お世話になります。動画のコメントの返信でお気軽にコメントして下さいとのお言葉に甘え質問させて下さい。 ①地盤調査で改良なし(条件付き)判定のあと~1.5mすきときりを行い建築しました。すきときり後の再調査はしておりません。このような状態でも補償は出るのでしょうか? ②すきときり中から水がよく湧く土地で 雪雨もあってかいつも泥だらけでした。基礎屋さん、工務店さんもわかっていたはずですが、そのまま続行したことに瑕疵を問えるのでしょうか? ③不同沈下に備えて予め証拠写真や業者の言質をとっておいた方がよいでしょうか?また、どんなことを記録しておけば宜しいでしょうか? ④不同沈下の修正が出来たとして再発を防ぐような工事方法もあるのでしょうか?それは補償費用の範囲でやって貰える範疇のものでしょうか? ⑤固化した地盤の上に水が流れる層があるような土地に家を建ててしまったわけですが、リカバリーをする方法はありますでしょうか。乱筆乱文誠におそれいります。失礼とはぞんじますが、ご回答頂ければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

    返信2021年10月17日 7:54 AM

    神村真25/

    常塚様 コメントありがとうございます。 ①について:補償会社の規定によります。一般的には基礎工事で0.25~1m程度の      掘削を行うことはありますので、問題ないように思います。補償会社      にお問い合わせください。 ②について:湧水が住宅の安定性に大きな影響を及ぼす場合は、瑕疵として扱われる      可能性がありますが、現時点で住宅の安定性に問題がないようであれば、      「瑕疵」とすることは難しいかもしれません。       ただし、基礎が湧水で冷却されることで基礎内部に結露が発生するとか、      湧水が基礎内部に侵入してくる等の問題がある場合は、建物の安定性とは      別の事項に対する「瑕疵」が存在することになります。湧水が気になる場合は、      点検口から基礎の内部を確認することをお勧めします。 ③について 建物が傾いていないことを計測しておきましょう。       室内の壁や柱の傾きを「さげ振り」と分度器等を使って計測しましょう。      1か所だけではなく、複数個所で、東西、南北方向の傾斜を計測します。      計測した高さの記録をお忘れなく。計測結果は、計測日とともに記録してください。      鉛直から3/1,000(約0.2度) 以上傾いていると不同沈下の可能性が疑われます。 ④について 可能です。補償の可否については、地盤補償や瑕疵保険の内容によります。お引き渡しが      完了しているので、瑕疵保険でも対応可能なので、手厚い対応をしてもらえると思います。 ⑤について 湧水の程度や地形、湧水が住宅に与える影響が分かりませんので、現時点では、何に対策      すべきか分かりません。明確な不具合や心配なことがあるのであれば、それに対する対処      方法は検討可能です。 以上、お役に建てましたでしょうか? 神村  

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