• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

柱状改良工法は、住宅分野では非常に多用される地盤補強工法の一つです。しかし、この工法の便利な面にばかりが注目されていて、不都合な面からは目をそらす傾向があるように思います。

ここでは、「柱状改良体の品質とは、こんなもの」、「それを実現するために必要なことは、これ」というお話をさせて頂きます。普段何気なく行っている工事ですが、案外いい加減で、本来は、こうあるべきということも書きました。

「そんなこと工事費用が高くなってできない」という声が聞こえてきそうですが、本当にその考え方でよいのですか?建物に求めている品質と、地盤の品質。一致してますか?

  1. 品質とは何か
  2. 品質確保の方法
  3. 課題とその解決策
  4. まとめ

1.品質とは何か

柱状改良工事に関わらず、工事で作るものの品質は、設計で定められています。柱状改良工事の場合、以下の項目を設計で定めます。結構色々決めていますね。一つ一つ見ていきましょう。

  • 先端部の到達地層
  • 直径・長さと本数・配置
  • 設計基準強度(強度のばらつき)と配合量

(1)先端部の到達地層

柱状改良体の支持力は、以下の二つの成分があります。
・改良体先端地盤での支持力である先端支持力
・改良体周面と地盤間で発揮される摩擦力(周面抵抗力)

先端支持力を支持力の主成分とする場合は、改良体の先端が、所定の地層に到達したことを確認する必要があります。

(2)直径・長さと本数・配置

同じ地盤で、改良体の長さも同じであれば、改良体の直径が大きいほど支持力は大きくなります。また、周面抵抗力が支持力の主成分となる場合は、改良体の長さは、重要な管理項目になります。

設計では、1本当たりの支持力を算出し、建物の重量に耐えることができる本数を確認した後、基礎の安全性が確保できるように配置計画を立てます。これによって基礎下に施工する改良体の本数が決まります。この本数や配置も、とても重要な項目です。

(3)設計基準強度と配合量

改良体の強度は、正規分布することを前提に、配合強度(室内強度)から次式で計算されます。

Fc=(1-mVd)・αflqqul                        (1)

ここで、 Fcは設計基準強度、mは不良率に関する係数(m=1.3を使用します)、Vdは設計で定めた改良体強度の変動係数(ばらつき)αflは現場強度と室内強度の比、qqul は配合試験結果(室内強度)です。 現場強度は、図⁻1に示すように室内強度よりも小さく、設計基準強度を実現するために必要な配合量を決定するためには、αflVdが明らかになっている必要があります。αfl は、参考値が示されていますが、Vdは掘削撹拌翼の形状や施工方法毎に、実験的に検証するしかありません。

図⁻1 室内強度と設計基準強度の関係

改良体の支持力検討の結果、改良体1本当たりに作用する力から必要な設計基準強度が決まるますが、この設計基準強度を満足する配合量(土に対する水と固化材の量)を決定するために、配合試験を行います。配合試験では、様々な配合の供試体を準備して、それぞれの強度(一軸圧縮値強さ)を確認します。各配合での強度 qqul を式(1)に代入して、設計で設定した基準強度を満足する配合を探します。

2.品質確保の方法

1.で示した三つの項目を現場ではどのように確保するのでしょうか?一つ一つ確認していきましょう。

(1)先端部の到達地層

最近の地盤改良機には、「施工管理装置」という施工中に様々なデータを記録する装置が搭載されていると思います。記録するデータの中に「回転トルク」と「圧入力」と「深度」があると思いますが、この三つのデータを利用します。

改良工事を行う現場では、事前にSWS試験を行っているので、SWS試験の実施位置近傍の改良体の築造時の施工データを記録します。所定深度到達時の「回転トルク」や「圧入力」の数値を確認します。同じことを4か所程度で実施します。

所定深度での「回転トルク」と「圧入力」の中でも、最も小さい値を「管理基準値」として、その他の杭の施工を行います。設計で定めて深度到達時に、管理基準を満足していることを確認します。

もしも、所定深度でも管理基準値に到達しない場合が、管理基準を満足できる深度まで施工を行います。

SWS試験結果から、目標とする先端地層が敷地内で変化する場合は、このような先端地層への到達確認を行わないと、先端支持力を確保できない改良体を作り出すことになり、不同沈下の原因になります。

なお、建築士は、管理装置で記録したデータに興味を示さない方が多いのですが、改良業者からデータを受け取って、工務店側でも必ず保管してください。

(2)直径・長さと本数・配置

に、直径については、掘削撹拌翼の寸法の確認、施工した改良体頭部の直径確認を行います。長さは、施工時に計測しています。なお、直径については、掘削撹拌翼と改良体頭部の検尺写真を必ず撮影し、記録に残すようにします。

本数と位置は、まずは施工前に確認し、施工後に改良体の中心と計画位置のずれが、許容値以内であることを確認します。

(3)設計基準強度と配合量

日本建築センターの指針では、住宅分野の場合、改良体から抜き取ったコアの強度が設計基準強度以上であれば、改良体強度は満足していると考えてよいことになっています。抜き取ったコアの一例を写真⁻1に示します。住宅分野では、後述するモールドコアによる強度確認も認められています。

柱状改良体から採取した全長コア
写真⁻1 改良体から抜き取った全長コア(直径8㎝程度、長さ1m程度)

しかし、一般建築物では、抜き取りコア強度の平均値が、次式を満足するとともに、抜き取りコア強度の最小値が設計基準強度以上であることが求められます。

 XNXL=Fc+kaVdqud                                       (2)      

ここで、XNは抜き取りコアの平均強度、XLは合格判定値、kaはコア抜き取り箇所数によって決まる係数(1.3以上の数値。抜き取り箇所数が9か所以上で1.3になる)、qudは設計上想定した現場強度(図⁻1参照)です。

このように、改良体から抜き取ったコアを用いた強度検査では、式(1)に示した基本的な考え方に基づいて、合理的に合格判定がなされます。

ちなみに、この検査方法を利用するためには、改良体強度の変動係数Vdが明らかでなければなりません。 変動係数Vdが明らかでない場合は、検査対象区間から25供試体以上のコアを抜き取り、改良体の強度分布が正規分布することを確認したうえで、合否判定を行う必要があります。

【参考文献】日本建築センター・ベターリビング:2018年版建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針,pp.338-358, 2018.

3.課題とその解決策

柱状改良工法の品質管理については、以下の課題があると、私は考えています。

  • 強度の確認方法としてモールドコアによる強度確認が行われている
  • 実効性のある施工管理基準が用いられていない
  • 固化材スラリーの濃度管理が不十分

(1)モールドコアによる強度確認

2.(3)で、柱状改良工法で作った改良体の品質検査の概念を示しました。ところが、住宅分野ではこのルールが適用されていません。住宅分野では、写真⁻1に示す「モールドコアの一軸圧縮強さが設計基準強度よりも大ききれば合格」というルールです。ここには、式(2)に示した、改良体の強度のばらつきや抜き取り箇所数の影響等は一切考慮されません。

写真⁻2 モールドに充填された改良土(モールドコア)

なぜ、建築物の規模によって品質検査に方法を変える必要があるのでしょうか?

先に示した参考文献には、以下の点が品質検査方法を変更する理由として挙げられています。

  • 戸建て住宅は一般建築物よりも建物荷重が小さく、支持力よりも沈下が課題となることが多いこと
  • 戸建て住宅での工事規模が小さいので、全長コアボーリングによる品質管理は時間的な制約や費用から実用的ではない

確かに、戸建て住宅分野では、配合試験を行わず、必要十分と考えられる固化材を添加するので、土質の見誤りや不適切な施工が行われなければ、改良体強度が不足するようなことは、まずありません。しかし、常に適切な条件で施工が行われているわけではありませんし、全長コアボーリングを行わないので、改良工事会社が、自らの施工や配合量の適切さを知る機会もありません。

また、モールドコア強度は、全長コア強度よりも大きくなる傾向にあります。これは、以下のような理由が考えられます。

  • 未固結の改良土を、地上でモールドに詰めた方が、地中で撹拌混合した改良体よりも密実に詰めることができること
  • モールドコア作成時に、改良土から不純物や礫を取り除くこと

さて、戸建て住宅での柱状改良の品質管理は、モールドコアによる方法で本当に良いのでしょうか?

(2)実効性のない施工管理基準

多くの方は知らない(知らないふりをしている?)と思いますが、実効性のある施工管理基準を使わない柱状改良工事は数多く行われています。これは、前述のようにモールドコアによる品質管理が行われていることと関係します。

住宅分野で活躍する柱状改良会社の多くは、第三者機関で技術審査を受けていない工法で工事を行っていると思います。企業によっては、自社の管理基準で所定の品質が確保できることを確認済みかもしれませんが、多くの企業では、自社基準により作られる改良体の品質がどのようなものかを理解していないと思います。

つまり、式(1)で設計基準強度を設定するけれども、その式の前提が満足されていないのです。

このような改良体をモールドコア強度のみで品質管理しているって、どうなんでしょうね?

私が自宅の建設で柱状改良工事を行うなら、第三者機関で技術審査を受けた工法を使用しますし、一般建築物と同様の品質管理を行って頂くことをお願いします。

なお、実効性のある施工管理基準の件については、以下の記事で詳述をしていますので、ご興味のある方か、こちらも一読頂ければ参考になると思います。

(3)固化材スラリーの濃度管理

柱状改良工法で最も重要なことは、「必要な固化材を必要な量だけ地中に充填できたか?」ということです。ところが、この点についての管理が疎かにされています。

たしかに、施工管理装置で、固化材スラリーの吐出量は計測されていて、どの区間に、どれだけの固化材スラリーが充填されたかを確認することは可能です。しかし、 管理装置では、固化材スラリーが所定の濃度であったことを記録できません。

固化材の配合量は、「土1立方メートル当たりの固化材重量」と「水に対する固化材の重量比(水固化材比w/c)」で定義されます。固化材の密度はメーカーが毎月報告しているので、固化材スラリーの密度は簡単に計算できます。

大規模な改良工事現場や管理の厳格な一般建築物の現場では、固化材スラリーの密度を1日に数回計測することが求められます。

写真⁻3は、固化材スラリーの密度計測の様子です。非常に古典的な竿秤(さおばかり)ですね。左側の器に固化材スラリーを満たして、中央部(支点の上部)にある水準器で竿が水平になるように、右側のメモリ部分に取り付けられた錘を動かし、そこに示された値を読めば、固化材スラリーの密度が計測できます!

写真⁻3 固化材スラリーの密度計測風景

水固化材w/cを大きくすると施工性が向上するので、現場サイドではw/cの変更を求めてくる場合があります。w/cを増加させると、1立方m当たりの固化材量が計画よりも少なくなります。また、改良体強度はw/cに反比例するので、w/cの増加によって目標強度の達成が困難になることも想定されます。

このようにw/cの変更は、築造する改良体の品質に大きな影響を及ぼします。このため、固化材スラリーの密度は、常に計画値を満足していることを確認する必要があるのです。

4.まとめ

さて、柱状改良工法の品質とその確保方法、あるいはそれらの課題。如何でしたでしょうか?私は、「すべての現場で全長コアを採取しよう」とは言いません。せめて、「品質確保が難しい現場については、しっかり管理しよう」という意識で、全長コアを採取されることをお勧めします。

このような活動を続けていくと、「どのような条件の時に計画通りの品質を再現できないのか?」とか、「どういう場合は、神経質にならなくてよいのか?」が分かってきます。そうすれば、「こういう場所では鋼管を使った方が安いし、安全だ」というような判断ができるようになります。

柱状改良工法の品質管理。工務店主体で進めてみませんか?

神村真



コメント一覧

返信2024年6月28日 6:14 AM

ひろみ24/

先生こんにちは。 木造住宅のベタ基礎基礎の下の柱状改良体は碁盤の目のように配置するべきか?または柱の下に柱状改良体を配置するべきでしょうか? また盛り土をするとベタ基礎の底盤と柱状改良体の間に盛り土があることになるのですが、柱状改良体とベタ基礎底盤は直接接しなくても良いのでしょうか? 今後自分の家を建てる時の参考にしたいので教えて下さい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA