• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

全ての人にとって「家造りに最適な土地」は、存在しません。

全ての土地には何らかのリスクが存在して、そのリスクを受容できるか否かは、消費者の「経済力」や「環境変化に対する耐性」等によって変わるからです。

だからこそ、土地を仕入れる前や家のプランを考える前に、「土地に固有のリスク」を知っておく必要があるんです。

このリスクを見つける方法は、そんなに難しいものではありません。よくビジネス雑誌に書かれている「経営に必要な三つの目」を持っていれば大丈夫です。使い方を少し変えるだけです。建築士である設計者であれば、少しのトレーニングで身につくと思います。

今回は、土地のリスクを見つけるための「三つの目」についてお話します。

  1. 「鳥の目」で土地の災害リスクをチェック
  2. 「虫の目」で地盤リスクをチェック
  3. 「魚の目」でリスクをより具体的に評価
  4. まとめ

1.「鳥の目」で土地の災害リスクをチェック

私は、土地に存在するリスクを評価するために「地形が大事だ」と、いつも申し上げています。それは、地形が自然現象によって作られ、その自然現象は、人にとっては「災害」であることが多いためです。

川は、山から海まで流れていく過程で、「浸食」、「運搬」、「堆積」という働きを常に行っています。この働きが急激に活発化するのが「洪水」であり、「土石流」です。洪水は、様々な低地の地形を作り出します。例えば、洪水は、自然堤防や後背湿地、氾濫平野を作りますし、土石流は、扇状地を作ります。また、浸食作用によって、低地と台地との境界部には「崖地」が生まれます。

この事実を見て見ぬふりをして土地開発を行った結果、日本の至る所に洪水に対して非常に弱い宅地が存在しています。

この事実は、ハザードマップを見るまでもなく、その町の古い空中写真を見るだけ分かります。

国土地理院の地理院地図には、「年代別の写真>時系列表示」という機能があって、あなたの街の空中写真を古いものから新しいものまで簡単に見ることができます。

この機能を使えば、時を遡ってあなたの街を空から見ることができます。そうすると、今は見えない「川」や「谷」の姿が見えてきます。

それでも分かりにくい場合は、地理院地図の「土地の成り立ち・土地利用>土地条件図」か「 土地の成り立ち・土地利用> 地形分類」というところを見れば、地表面に見える地形が何かを教えてくれます。土地条件図は、現在の地形を表記していますが、地形分類では、過去の地形を明確に示してくれているので、そこが河川洪水の形跡か、そうではないのかを知ることができます。

ところで、「低地」は「山地」や「台地・段丘」よりも軟らかい地盤が厚く堆積しているので、地震時に揺れが大きくなります。つまり、洪水の形跡をたどれば、地震に対するリスクも推測することができます。

【参考】国土地理院 地理院地図 https://maps.gsi.go.jp/

【参考となるブログ記事】

このように、「鳥の目」で対象となる土地の周辺を見れば、災害(特に水害)リスクが見えてきます。

2.「虫の目」で地盤リスクをチェック

次は、「虫の目」。

「建物を支持する能力」を評価するためには、「虫の目」は必要不可欠です。

「鳥の目」では、地形を確認しましたが、地形によって堆積する土の種類が変化します。

谷底平野や氾濫平野はかつては水田利用されていた場所ですので、「粘性土」が堆積しています。後背湿地や後背低地には、特に軟弱な粘性土が堆積することが多いです。また、自然堤防や砂州・砂丘は砂質土です。台地・段丘は、地域によって土質が変わりますが、住宅を建てるために適した土質が現れる場合が多いです。

粘性土は、家を支持する力が小さく、建物荷重によって大きな沈下が発生する可能性があります。一方、砂質土は、家を支持する力が強い場合が多いのですが、地下水位以深の砂質土は、地震時に液状化する可能性があります。

このように、「鳥の目」で集めた情報を、「虫の目」で評価すると、その土地が、「家造り」にどのような影響を及ぼすかが、かなり見えてきます。

さらに、「虫の目」では、土地の境界部にも目を向けます。

高低差のある土地や水田跡地を宅地開発した土地には、「擁壁」が存在します。この擁壁がどのようなものかを知ることも、「家造り」には欠かせません。

特に、あなたが、耐震等級3のように、「通常よりも高い耐震性の家」を造ろうと考えている場合、「擁壁がどのような条件で設計されたのか」を知っておく必要があります。

もしも、擁壁の設計で想定している地震の規模が、家造りで考えようとしている地震規模よりも小さければ、せっかく「耐震性の高い家」を作ってもあまり意味がないかもしれません。こういう場合は、擁壁が壊れても家に影響がないようにしておくなど、少しの工夫が必要になります。

3.「魚の目」でリスクをより具体的に評価

最後に「魚の目」。

魚は常に変化する流れの中を泳いでいるので、ビジネスの世界では「時流を読む力」として捉えられています。また、魚の視界は非常に広いことでも知られいますので、鳥・虫に加えて、「より広い視野を持つこと」としても紹介されています。

土地が持つリスクについても、この視点を当てはめることが可能です。

災害によるリスクは、「いつ」、「どの程度の頻度」で起こるかが分かりません。例えば、100年に1度の豪雨にも耐えられる巨大な堤防に隣接する土地について考えてみましょう。

「100年に1度の豪雨に耐えられる堤防」と聞くと、すごく安心します。しかし、「100年に1度の豪雨を超える豪雨」は、今年の台風シーズンに来るかもしれません。つまり、「その場所」では、常に「想定外の災害」に遭遇する危険性があるのです。

また、リスクの種類によっては、人によって深刻度が大きく変わるものがあります。

例えば、避難所での生活を想像してみましょう。避難所での暮らしは、独り身のアウトドア派の男性にとっては大きな問題ではないと思いますが、独り身のインドア派の女性や小さな子供を持つ若い夫婦やペットを飼っている人にとっては大問題でしょう。

このように、リスクを評価するためには、「時の流れ」や対象となる人や家族の「リスクを受容する容量」等、より「広い視野」が必要になります。

4.まとめ

土地のリスクを見つけるための三つの目(視点)。あなたは、三つともそろっていましたか?

顧客との契約初期では、「鳥の目」と「虫の目」が不足していたことでトラブルになることが多いです。例えば、工務店と契約した後に、地盤補強に想定以上のコストが必要なことが分かって、大幅な仕様変更を求めざるを得なくなったとか。。。

また、残念なことに、「魚の目」を持って、消費者を適切に導くことができている設計者は、まだそう多くないように思います。これは、設計者が一生懸命説明しても、消費者が納得してくれないとか、経済的な制約によるものが大きいためでしょう。

しかし、三つの目を持った設計者は、専門家として消費者を導いていく責任があると思いますので、引き続き、地道に安全で安心な住まいづくりに取り組んでいただければと思います。

神村真



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