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「液状化現象」と言えば、砂地盤での地震被害の代名詞のようなものですが、粘性土でも液状化と同じメカニズムで沈下障害が出ることがあるってご存じですか?

  1. 液状化現象は砂地盤だけの問題か?
  2. 大地震の後に沈下する粘土地盤
  3. 対処方法はあるのか?
  4. まとめ

1.液状化現象は砂地盤だけの問題か?

土の液状化現象は、地震の揺れによって土粒子間に囲まれた水(間隙水)が圧縮されることで発生する「過剰間隙水圧」が、土粒子間のつながる力を上回ることで発生します。図-1は、その過程を簡単に示したものです。

図-1 液状化現象のメカニズム

「液状化現象」は、新潟地震(1964年)から広く認識されるようになったと思うのですが、古文書にも記載が多くみられるようです。本当に土が水のように動くし、泥が地中からふき上がってきます。液状化は、土粒子間の結びつきが弱い砂地盤で発生することが多いので、砂地盤特有のことと捉えられがちですが、弱い粘性土地盤でも、過剰間隙水圧の増加の影響は別の形で現れます。

「過剰間隙水圧の増加」は、粘性土で圧密沈下が発生する時に起こる現象でもあります。このため、強度の小さい、弱い粘性土地盤は、地震によって激しく揺さぶられることで、圧密沈下する可能性があります。

私が、東日本大震災や熊本地震の後に、不同沈下が顕在化した案件を調べていると、「地震後に粘性土地盤が圧密沈下したのでは?」という案件が何件かありました。

特に、水田跡地を盛土したような場所では、粘性土が正規圧密状態(圧密沈下しやすい状態)にあります。このような地盤が地震動によって揺さぶられれば、地盤内に過剰間隙水圧が発生することで、新たな圧密沈下が発生することは容易に想像できます。

2.大地震の後に沈下する粘土地盤

地盤が地震によって揺さぶられれば、土質の区別に関係なく、過剰間隙水圧が上昇するので、「何らかの問題」が生じます。

図-2は、2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震後に千葉県浦安市で計測された地表面沈下量の経時変化を示した図です。沈下計測の基準となる地表面レベルの計測日は、地震直後の2011年4月です。地表面沈下量は、地震発生から2年後の2013年4月には、2~6㎝に達していることが分かります。

沈下量が大きい箇所は、埋立第一期(Reclaimed land PhaseⅠ)と第二期 (Reclaimed land Phase Ⅱ)の境界部付近から埋立第二期の地域です。この地域では、沖積粘性土層(Ac層)が他の地域よりも厚いことが分かります。

図-2 地震後の地表面沈下の変遷

【参考文献】濁川 直寛 浅香 美治:千葉県浦安市における 2011 年東北地方太平洋沖地震に伴う地盤沈下の
長期観測,清水建設研究報告,第 93 号,pp.112-119,平成 28 年 1 月.

このことは、軟らかい沖積粘性土層が厚く堆積している地域で盛土(埋立て)をした地域では、同様の変状が生じる可能性があるということです。

私は、東日本大震災や熊本地震の後に、沈下障害が顕在化した案件を数件調査していますが、その中に、水田跡地の盛土造成地や調整池を埋め立てた盛土造成地がありました。これらの場所では、地震前までは沈下障害はなく、液状化を生じるような地層も認められませんでした。このような事例では、地震動による過剰間隙水圧の上昇が影響していると、私は考えています。

砂地盤での液状化現象と違い、このような大地震後の粘性土地盤の長期沈下は、その原因がぼんやりしているので、地震との関係を直接結び付けることが難しいことが多く、あまり問題視されていません。

しかし、厚い軟弱な粘性土上に位置する盛土造成地は、全国の至る所にあります。

3.対処方法はあるのか?

前出の濁川ら(平成28年)の論文には、プレロード工法やサンドドレーン工法による地盤改良が行われた地域では、沈下量が相対的に小さかったことが報告されています。

プレロード工法は、必要な盛土高さよりも、高く盛土を積み上げ、一定時間放置をしたのち、盛土高さを必要高さまで切さげる工法です。事前に、十分に圧密沈下を促進させることで地盤強度を補強する工法です。

サンドドレーン工法は、盛土する地盤に水はけのよい砂の杭を沢山打設し、盛土した際に、地中からよく水が抜けるようにする工法です。盛土というオモシによって、土から水が絞り出されるのですが、この水の絞り出しをよくすることで、圧密沈下を促進させ、地盤を強くする工法です。

いずれの工法を、盛土下の粘性土地盤で、盛土荷重に応じた圧密沈下が十分に行われることを促進する工法です。圧密は、「沈下」という障害を伴うので厄介者扱いされがちですが、体積圧縮による地盤強度増加を伴うという良い面もあるのです。

軟弱な粘性土地盤が厚く沈下する場所を宅地として開発したい人には、十分に時間をかけて、上記のような対策を行われることをお勧めします。

もし、あなたが、このような盛土造成地に建てる家を設計するなら、盛土による地盤沈下が生じることを想定して沈下対策を考えておけば安心です。詳しいことは、下の記事で説明しているので、参照してください。

4.まとめ

液状化現象は、地震時に住宅に大きな被害をもたらすことで有名になりましたが、ほぼ同じメカニズムで、粘性土地盤にも障害が発生します。

このことは、広く知られてはいませんし、社会問題化もしていないのですが、私は、大変注意が必要な問題だと考えています。

東日本大震災後に不同沈下が顕在化した物件の中には、このような粘性土地盤の問題が隠れているもののもあるかもしません。

あなたの担当する案件で、そのような事例があれば、是非ご紹介頂けますようお願い申し上げます。

神村真



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