• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

「住宅の基礎設計のためには地盤調査が必要だ」という認識が固まったのはいつ頃のことがご存じでしょうか?

あなたが、この業界に入って10年未満の方なら、「地盤調査をしないで家を建てていたことなんてあるの?」という認識かもしれませんね。でも、住宅建設のために地盤調査をすることが常識になったのは、2009年に瑕疵担保履行法の運用が始まってからのことなんです。

案外最近のお話でだと思われませんか?

2009年以降、地盤調査を行うことは一般化していきましたが、その内容には課題が多いと、私は考えています。

そこで、今回は、地盤調査の適切な手順について考えていきたいと思います。

  1. 基本は「三つの目」と5つのステップ
  2. 鳥の目とその他の目との情報交換
  3. SWS試験は鳥の目の情報を補うもの
  4. まとめ

1.基本は「三つの目」と5つのステップ

あなたは、地盤改良業者が地盤調査を行うことで、「マッチポンプ」な地盤補強工事を発生させていると感じられることはありますか?

私自身、地盤改良会社に10年ほど席を置いていたので、そういう一面は否定できないことは理解しています。しかし、彼の立場を考えると、むしろ「家を傾けるわけにはいかない」という思いの方が強いと思います。

住宅産業の頂点は、あなたが在籍する工務店です。地盤改良会社にすれば、発注者、お得意様です。不同沈下が発生すると、発注者の監理者は、「どうなっているんだ?」と地盤改良業者を問い詰めます。私から言わせれば「お門違いも甚だしい」のですが、高い確率でそうなります。私も何度か謝罪に行きました。

地盤改良業者にとって、お得意様からの売り上げが大きい場合は、事故の後始末を全部引き受けることさえあります。

だから、地盤改良業者は、「家を傾けたくない」のです。

一方、住宅の営業担当者や発注者(消費者)の心の中には、「地盤改良工事に大きな費用を掛けたくない」という思いがある場合があります。

どちらの「心の声」が「安心」「安全」につながるかは明らかですよね?

ただ、根拠が不明確な地盤改良工事の提案はダメですよね。

発注者や住宅の営業担当者の心を納得させるためには、必要な情報を集めて、それらを関連付けて、「地盤リスクを見せる」必要があります。なぜなら、地盤改良工事は、支持力不足や沈下の危険性に対処するためだけのものではないからです。

地盤リスクを評価するために、三つの視点が大切であることは、以前お話しました。

三つの視点とは、「鳥の目」、「虫の目」、「魚の目」です。

「鳥の目」で地形から分かる地盤リスクをあぶりだし、「虫の目」でスクリューウェイト貫入試験(以下、SWS試験と記します)結果やその他の地盤リスクをあぶりだし、「魚の目」で過去から未来までを見通して、地盤リスクの見逃しをチェックする。こういう視点が必要だというお話でした。

この視点の活用方法をもう少し具体的にお話をすると、以下の様な5つのステップが考えられます。

ステップ1 その土地が経験してきたことを知る
     「鳥の目」で地形から読み取れるリスクを抽出し、検討すべきことを把握します。
     また、「魚の目」も同時に使って、過去に起こったことから、未来に何が起こるかを考えます。

ステップ2 敷地内に土地を不安定にする要素がないか探る
     「虫の目」で敷地内にある斜面や擁壁を確認し、住宅に及ぼす影響を確認する

ステップ3 サウンディング等の調査機器で地盤の「強さ」とその「ばらつき」を確認する
     「虫の目」でSWS試験結果を確認し、地盤の強さ(支持力)、そのばらつき
     (即時沈下による住宅の傾斜の可能性)の影響を確認する

ステップ4 地盤の軟らかさの確認
     「虫の目」でSWS試験結果をよく見て、圧密沈下の可能性を確認する

ステップ5 液状化被害についても確認しておく
     「虫の目」でSWS試験結果やその他の地盤調査結果から、未確認の災害リスクを見つけ出す

このステップを運用する上で大事なことは、各ステップで何らかの答えが得られたら、必ずステップ1に戻って、得られた「答え」が、これまでの土地の経験と一致していることを確認することです。この振り返りを怠ると、「欲しい答えを探す」調査になってしまいます。

 

2.鳥の目とその他の目との情報交換

図1に、先ほどの5ステップの関係図を示します。

図1 地盤調査の各ステップの関係

不同沈下事故の資料調査を通して感じることは、各ステップを独立したものとして扱っていることです。特に、SWS試験結果を独立した一つの情報として扱っている場合が多いと感じます。

単体で存在し得る情報は、世の中に存在しません。全ての情報は、他の情報とつながっているのです。

ステップ1は、様々な情報の関連性を把握し、土地の抱えるリスクを抽出する非常に重要な工程です。

その後の4つのステップは、ステップ1で抽出したリスクを、具体的に調査しているにすぎません。

各ステップを関連付けて評価しないと、ステップ1で地盤リスクを一つ見過ごすと、そのリスクが敷地内に取り残されることになります。不同沈下事故は、各ステップを独立した作業として扱うことか、ステップのどれかを行わない(あるいは、正しく取り扱わない)ことで生まれているのです。

各ステップで見つけた情報を、ステップ1で抽出した事柄と照らし合わせる作業を行うことで、各ステップでのリスク評価精度は上がりますし、ステップ1で見過ごしていたリスクを見出すこともできるようになります。

懸命なあなたはもうお分かりだと思いますが、上記のことから、この五つのステップは、片道切符ではありません。

ステップ1からステップ5まで進むと、再びステップ1に戻り、漏れや抜けがないか、抽出したリスクは未来にはどのような影響を及ぼすことになるか?ということを考えます。そして、さらに見出されたリスクがあれば、最初のステップ2~5で抽出された情報を再度見直してリスク評価を行います。必要があれば、より精度の高い情報を得るための追加調査を実施します。

そして、住宅に深刻な影響を及ぼす影響を網羅できた時点で調査終了となります。

3.SWS試験は鳥の目の情報を補うもの

現在の地盤調査結果の扱われ方を見ていると、SWS試験を行うステップ3が地盤調査の核だと考えている人が多いように感じます。

この記事をここまで読んでくださったあなたには分かりますよね?

SWS試験結果は、地盤リスクを確認するための十分条件の一つにすぎませんね。

私が地盤の仕事を始めた頃、会社幹部の方は、「地盤調査結果は”真値(正解)”ではない。ただの”事実”だ」と言われていました。

事実には「誤差」が含まれます。また、全ての地盤調査方法や、その結果から地盤の特性値を推定する式には、「適用範囲」が存在します。

SWS試験結果は、JISに基づく試験方法から得られた地盤の特性を示しているだけです。その値が「真値」であることも分かりませんし、そこに「誤差」がどの程度含まれているかさえ分かりません。

あなたは、そんな試験結果だけを見て、地盤の良し悪しを判断しますか?

このように、一つの地盤調査結果は、ただ眺めているだけでは、何の答えも出せません。いくつかの異なる「物差し」を使って、データの「正しさ」を確認しなければなりません。

その点で、SWS試験結果は、取扱いに充分な注意を要する試験方法です。過去の記事にも頻繁に記載していますが、SWS試験は、沈下の可能性が高い地盤の強さを過大評価することがあります。この時には、独特のデータを示しますし、別の物差しで試験結果を見ることで、試験結果の異常に気付くことが出来ます。

しかし、このような「事実」を知らない人は、得られた結果を「真値」と思い込み、誤った判断をすることがあり、結果として不同沈下が発生しています。

こういうことを考えると、私は、今の地盤調査費用は求める成果に対して安すぎると考えています。地盤調査を営業ツールととられて無料で提供することがあるようですが、このようなものはサービスでもなんでもありません。あなたが基礎設計をするなら、どのような情報が必要でしょうか?

4.まとめ

ここに書いた地盤調査の手順は、当たり前に行われていることだと思います。

でも、当たり前のことをキチンとやることって難しいですよね。そして、当たり前のことが出来なかった時に事故が起こるんです。

事故を防ぐためには、関係者が、調査結果に関心を持って「見る」ことです。設計者であるあなたが、地盤調査会社や地盤補償会社が出してきた結果を、よく見て評価すること。このことで、多くの事故は防げます。

「地盤」は、家が建つと誰の目にもとまりません。しかし、そこに確実にあって、家をずっと支えています。そういう目立たないけれども、重要な存在を慈しんでいただければ、今以上に地盤調査結果を見る機会が増えると思います。「縁の下の力持ち」を忘れないで頂きたい。

神村真



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