• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

耐震等級3で設計するかしないかは、地盤の良し悪しとは無関係であることを以前書きました。

その記事を書きながら、そもそも建築基準法で想定している地震時の水平加速度レベルは、「どのように決まっているのか」が気になったので、このことを調べてみました。

あれこれ調べてみましたが、やはり大地震に家が大破することを避けるためには、現行の仕組みの中では耐震等級3を選んでおくことは必要なようです。

また、耐震設計を行うのであれば、微動探査を行っておいた方がよさそうであることも分かったので、そちらも合わせて書いておきます。

  1. 建築基準法では、どの程度の地震を想定しているのか?
  2. 考えておくべき地震動
  3. 地盤が悪い場合に注意すること
  4. まとめ

1.建築基準法では、どの程度の地震を想定しているのか?

 何度も使う図で恐縮ですが、今回も国土交通省が紹介している耐震基準の考え方に関する図から始めたいと思います。

【参照】国土交通省HP:住宅・建築物の耐震化について
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000043.html

図-1 耐震基準の概念

この図からも明らかですが、建築基準法では、中規模地震までは損傷を許容していません。

一方、これを超える地震については、倒壊や崩壊が起こらない(実際には、もう住めない)程度の損傷を許容しています。

この図では、中規模地震は震度5強程度と書いてあります。

気象協会のHPで公開されている情報によれば、2009年以降、震度6弱以上の地震は、13件(本震の余震と考えられるものは除外しました)記録されています。

日本気象協会:過去の地震情報
https://earthquake.tenki.jp/bousai/earthquake/entries/

このように、住宅の設計で耐えることができる震度5強を超える地震は、かなり頻繁に発生していることが分かります。

これから建てられる住宅は、震度5強を超える地震に遭遇すると仮定して設計する必要があるようです。

2.考えておくべき地震力

 1.で示したように、建築基準法では、最近頻繁に発生する震度6弱以上の地震に対しては、ある程度の損傷の発生を許容しています。

気を付けたいのは、損傷を受けて構造が劣化すると耐震性能は極端に低下するということです。

劣化すると住宅の固有周期が大きくなり、地震度と共振しやすくなるので、倒壊の可能性が高まります。

この点については、過去の記事を参照ください。

これを避けるためには、地震後の構造各部の点検が重要なのですが、住宅の構造上主要な部分は容易に点検することができません。

このため、設計段階で、想定する地震力を高くし、大きな地震力を受けても損傷しない構造としておくことが必要になります。

それでは、「どの程度の地震力」を考えておけばよいのでしょうか?

このことを考える上で、これまで発生した大規模な地震で、建物に作用した水平加速度を計測した事例は役に立ちます。

兵庫県南部地震(1995)では、中央区や長田区の建物内で計測された加速度が「300~350gal」、東北地方太平洋沖地震(2011)では、仙台第二合同庁舎の地下2階で水平2成分それぞれ「163および259gal」(地下2階で!)、東北大学人間環境系建物1階で「約330gal」という加速度が計測されています。

【参考文献】国土交通省国土技術政策総合研究所・建築研究所監修:
2020年版建築物の構造関係技術基準解説書,pp.72-73, 2020.

地震力は、建物の自重に水平加速度を掛けることで、算出することができます。

建築基準法では、標準せん断力係数$C_{0}$が、地震時の水平加速度に等価なものだと考えられます。

この係数は、地盤がひどく悪くなければ、0.2を用いることになっています。

この「0.2」という係数は、「水平加速度/重力加速度」だと思われます。

重力加速度は、9.81 m/sec2 なので、係数が「0.2」ということは、水平加速度が1.96 m/sec2 (約200gal(「gal」は加速度の単位で、100gal=1 m/sec2 です))となります。

このことから、建築基準法では、水平加速度として200galを想定していると考えられます。

標準せん断力係数には、様々な係数が乗じられますが、一般的な木造戸建て住宅では、各係数が1を下回ることは、地震地域係数が1を下回る地域のみだと考えられます。

従って、それ以外の地域では、多くの場合、地震時の水平加速度は200galを考えて良さそうです。

先ほど、紹介した地震時に建物で計測された水平加速度は、200galどころか300galを超えています。

建物の設計では、安全に対する様々な余裕を見ています。

このため、水平加速度200galで設計しておけば、より大きな地震の耐えることができます。

しかし、それにも限界があります。

熊本地震(2016)では、建築基準法で定めた標準的な地震力で設計された住宅の40%で何らかの被害が発生し、そのうち19棟(調査棟数301棟)が大破・倒壊しました。

一方、耐震等級3で設計された住宅では、何らかの被害が生じたのは12.5%(2棟)で、大破・倒壊は0棟(調査棟数16棟)でした。

このことは、熊本地震のように非常に稀な地震では、建築基準法で定めた標準的な地震力で設計された住宅は、大破・倒壊する可能性があるし、大きな被害を受ける可能性が非常に高いことを示しています。

一方、建築基準法よりも地震力を1.5倍としている耐震等級3の場合、非常に稀な地震であっても、大きな被害を受ける可能性は低いことが分かります。

近年、震度5強を超える、非常に稀な地震が、10年間で13件も発生していることを示しました

建築基準法で定められた設計基準のみで設計した住宅は、違法でも品質不足の住宅でもありません。

しかし、長い期間住む上では、地震に対して不安要素を持っていると言えます。

このことから、私は、資産として子供たちに家を残すことを考えている人は、耐震等級3(通常の1.5倍の地震力)で設計されることをお勧めします。

3.地盤が悪い場合に注意すること

軟弱な地盤の場合に、地震力を割り増す制度があります。

建築基準法では、地盤を三つに区分しています。

地盤がよい順に、第一種、第二種、第三種地盤と定義されています。

地盤が第三種地盤に分類されると、標準せん断力係数を、通常の0.2から0.3に割りますので、地震力は、第三種地盤を除く地盤よりも1.5倍に増加します。

つまり、地盤が軟弱だと、地盤がよい場合よりも、大きな水平力を考慮する必要があるのです。

これは、軟弱地盤が厚い場合、地震動が地表面に到達するまでに増幅されて、揺れが大きくなるためです。

さて、第三種地盤とは、どんな地盤なのでしょうか?

建設省告示第1793号で、以下のように定義されています。

「腐食土・泥土その他これらに類するもので大部分が構成されている沖積層(盛土がある場合においてはこれを含む。)で、その深さがおおむね30m以上のもの、沼沢・泥海等を埋め立てた地盤の深さがおおむね3m以上であり、かつ、これらで埋め立てられてからおおむね30年経過していないものまたは、地盤周期等についての調査若しくは研究の結果に基づき、これらと同程度の地盤周期を有すると認められるもの。」

昭和55年建設省告示第1793号

住宅建設のための地盤調査では、スクリューウエイトサウンディング試験(スウェーデン式サウンディング試験のこと。2020年10月から名称変更されています。以下、SWS試験と略します)を行うことが一般的です。

SWS試験では、土質確認ができませんし、30mの層厚確認もできません。

つまり、SWS試験では、埋め立て地など、明らかに第三種地盤であることが分かる地域以外で第三種地盤を特定することができません。

結果として、多くの場合、地震力を割り増すことはないと考えられます。

現行の地盤調査法では、折角の制度も活用される機会は少ないということです。

しかし、軟弱層が厚く堆積している谷地形では、その深部に比較的硬い地層が隠れており、軟弱層内で、地震波が反射して地表面で大きな揺れになることが考えられます。

このため、SWS試験結果のみからは、第三種地盤として特定されない場合でも、地形から判断して考慮が必要と考えられる場合は、地震力の割り増しを検討した方が安全だと考えられます。

なお、微動探査では、GL-30mくらいまでのせん断波速度構造を確認することが可能です。

このため、耐震設計を行いたいのなら、地盤調査方法として微動探査を採用することが妥当でしょう。

4.まとめ

建築基準法で想定している地震力について、調べてみました。

結果として、200gal程度の加速度に対して建物が安全であるように設計することを定めているようです。

ところが、大地震時にはこの地震力を超えることがしばしばあり、状況によっては、住宅が大破・倒壊することもあるようです。

このことから、基準法で考慮している地震力よりも大きな地震力を考えておく(耐震等級2~3で設計する)ことが必要と考えることができます。


神村真



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA