新築住宅は、1万棟に5棟程度の割合で不同沈下(傾いて)います。その原因は明らかではありませんが、地盤が住宅を支える力を持っていなかったことが主原因だと考えられます。
地盤調査を行っているのに、こういう事故が発生するのは、主に地盤調査結果の「判読」に問題があるからです。
十分な情報を収集できない地盤調査方法であるスクリューウエイト貫入試験(以下ではSWS試験と略して呼びます)を用いる上に、調査結果を読み解く能力が不足していれば、当然事故は起こります。
今回は、SWS試験の結果を読み解くために、地形情報がなぜ重要かについて考えます。
「住宅が、沈下(地面にめり込んでしまうこと)したり、不同沈下したりすることがある」と言っても、信じてもらえないことがあります。
以前のブログ記事でも取り上げましたが、公開されている情報だけでも新設住宅の5/10,000~1/1,000の割合で不同沈下が発生していると考えられます。
この割合は、住宅火災の発生割合と同程度の値です。
表-1 2018年の出火率
総務省統計局:平成30年住宅・土地統計調査、住宅数概数集計、結果の概要、平成 31 年4月 26 日
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/gaisuu.html
総務省消防庁:平成30年(1~12月)における火災の状況(確定値)、令和元年9月6日
https://www.fdma.go.jp/pressrelease/statistics/
公表データは、引き渡し後の物件を対象としているので、引き渡し前の物件での事故となると、さらに多いことが考えられます。
この沈下や不同沈下は、建物を支える地盤の能力不足によって発生します。
しかしも、十分な経験を持った専門家が、不同沈下事故の現地調査に出向き、現地の状況確認と資料調査を行えば、多くの事故物件の沈下原因を、おおむね特定することができます。
つまり、不同沈下の発生原因の多くは、「地形から判断できる地盤が持つリスク」を考慮して、「地盤調査結果から推測された建物を支える能力」を適切に評価できなかったことにあるのです。
住宅建設のために採用される地盤調査方法は簡易なものが多く、「地盤の建物を支える力」を評価するために極めて重要な「土の種類」という情報が得ることができないものが多いことが、不同沈下事故の多さと関係していると思われます。
「土の種類」は、「地形」と密接な関係があるので、「地形」を見る目を持てば、「地盤の建物を支える能力」を予測することができるようになります。
「地盤の建物を支える能力」とは、「地盤が建物の重さを支える」ことですが、「支える」とは、どういう意味でしょう。
図-1に、地表面に平板を置いて、その上に載せるオモリを徐々に増やした場合の、オモリの重さと平板がどのように沈むかを示した模式図を示します。
地層が水平で、オモリが平板上に均等に並べられた場合、平板は水平を維持したまま沈下します。
一方、地層の層厚が平板下で変化する場合や、オモリの並べ方に偏りがある場合、平板は斜めになります。
建物は、その性能を発揮するためには、たとえ水平に沈下したとしても、ある沈下量を超えると、排水勾配が逆勾配になるとか、建物内部に地表面から雨水が浸入するなどの問題が発生します。
建物が傾斜すると、傾斜角によっては人体に悪影響を及ぼすこともありますし、雨漏りの原因になることも考えられます。
このようなことから、「支える」とは、建物の重みに対して、「異常な沈下」や「異常な傾斜」が生じない状態で、「長期間安定していること」と定義できます。
なお、許容可能な沈下や傾斜の最大値を、「許容沈下量」、「許容傾斜角」と呼びます。
図-1から、地盤の沈下量を考える場合、敷地内での「軟弱な地層の層厚の違い」や「建物の重さの偏り」についても注意しなければならないことが分かります。
一般に、強い地盤ほど沈下は小さい傾向を示しますので、住宅向けの地盤調査では、地盤の「強さ」に着目した試験方法が採用されることが一般的です。
もっとも普及している地盤調査方法であるSWS試験は、地盤の強さの深度分布を簡単に計測できる試験方法の一つです。
※スクリューウエイト貫入試験は、スウェーデン式サウンディング試験の新しい名称です。2020年のJIS改定によって名称が変更されました。
注意したいのは、住宅の重みを支えることができるギリギリの強さしか持たない地盤です。
例えば、べた基礎に求められる地盤の強さ(長期許容支持力度)は20$\rm{kN/m^{2}} $以上と決められています。
長期許容支持力度$q_{a}$は式(1)で算出できるので、$q_{a}$=20$\rm{kN/m^{2}} $ となるSWS試験結果を確認すると$q_{a}$=20÷30=0.67kNです。
$q_{a}=30W_{sw}+0.64N_{sw}$ ・・・・ 式(1)
ここで、各定数は以下の通りです。
$q_{a} $:長期許容支持力度($\rm{kN/m^{2}}$)
$W_{sw}$ ,$N_{sw}$ :基礎底面から下方に2mの区間でのSWS試験結果の平均値
ところが、建築基準法では、基礎下地盤の$W_{sw}$が1kN以下の場合、建物自重による地盤の沈下によって建物に障害が発生しないことを確認することとされています(平成13年国土交通省告示第1113号)。
つまり、建物を支えるだけの「強さ」を持っている地盤でも、「沈下」についても考慮しなければならないのです。
このため、地盤調査では、「沈下しやすい地盤(SWS試験結果の場合、$W_{sw}$が1kN以下の地盤)」がどの程度の厚さで分布しているかを調べることが、とても重要になってきます。
SWS試験で$W_{sw}$が1kN以下となる地層の存在を探すことが、住宅のための地盤調査にとって大切であることを示しましたが、このような、「弱い地盤」の中でも、「粘性土」が特に問題になる地盤です。
粘性土は砂質土と比べて水はけが悪いので、建物の重みによって発生する沈下が、数年に渡って継続します。
SWS試験では土質が分からないので、この土質を見分ける力を養う必要があります。
このような「弱い粘性土」が分布している場所は、地形から推測することが可能です。
「弱い粘性土」は、地球の歴史の中では新しい地盤なので、新しい地形に堆積しています。
図-2に、地形の鳥観図を示します。
山地や台地は、大規模な地殻変動や火山の活動でできた地形で、比較的古い地形ですが、それ以外の低地は、山地や台地が出来上がったあとに、雨水や風、海水流が作った「新しい地形」です。
これらの新しい地形に、「弱い粘性土」は隠れています。
川の近くの地形である「氾濫平野(谷底平野と呼ぶ場合もあります)」、「後背湿地」、「旧河道」等には、「弱い粘性土」が堆積しています。
特に、谷底平野や後背湿地、旧河道では、「腐植土」という非常に大きな沈下が発生する可能性のある特殊な土が堆積することがあるので、注意を要する地形です。
三角州は砂質土が堆積していて、液状化の発生が危惧される地形です。
このように、地形によって堆積する土が異なります。
土が変わると、建物を支える能力も、発生する沈下量も変化します。
また、地震時の揺れやすさや液状化の危険度さえも変化します。
このため、SWS試験結果を読む場合、地形を正しく評価することが求められるのです。
現在、住宅建設のための地盤調査方法は、SWS試験が主流です。
しかし、この試験方法は、地形から堆積している土質を推測したうえで、SWS試験結果を判読することが大前提です。
残念ながら、学校ではそのようなテクニックを学ぶ場はないので、業界団体の講習会等を利用しながら、多くの関係者が独学で学ばれていると思います。
しかし、このようなテクニックは体系化されておらず、SWS試験結果の判読ミスによる不同沈下事故は後を絶ちません。
このため、地盤調査結果の判読は、調査会社や保証会社に一任するのではなく、できるだけ「多くの目」で確認をすることをお勧めします。
次回は、SWS試験結果の読み方について書きたいと思います。
神村真