• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

前回までは、資料調査としての「地形」の重要性について考えてきました。今回は、地盤調査、特にスクリューウエイト貫入試験(以下、SWS試験と略します)について考えていきたいと思います。

  1. 色々な地盤調査
  2. SWS試験結果の読み方
  3. 注意が必要なSWS試験結果の一例
  4. まとめ

色々な地盤調査

地盤調査の目的は、建築基準法で決められた建物を支える能力が地盤にあることを確認するためです。

具体的には、以下の二点を確認します(平成13年国交省告示1113号第2)。

  • 建物を長期間に渡って支えるために必要な最低限の強度である長期許容支持力度を有していること
  • 建物自重によって発生する沈下によって、建物に有害な影響がないこと

建築基準法では、地盤の許容支持力度の確認方法として、以下の七つの方法を挙げています(平成13年国交省告示1113号第1)。

  • ボーリング調査
  • 標準貫入試験
  • 静的貫入試験
  • ベーン試験
  • 土質試験
  • 物理探査
  • 平板載荷試験

このうち、住宅建設で広く利用されているSWS試験は「静的貫入試験」に当たります。

七つの調査方法の内、住宅分野で広く利用されている六つについて、それぞれの特徴等を整理してみました(表-1参照)。

表-1 地盤調査の種類と概要

それぞれ、良い面もあれば、悪い面もあり、「完璧な調査方法はない」のが実状と言えます。

特に、住宅のための地盤調査では、標準貫入試験(以下、SPTと略します)を絶対視し、SWS試験(静的貫入試験)が軽視される場合がありますが、この点には注意が必要です。

確かに、SPTは、SWS試験と比較して、土質を直接確認できるという点では優れた調査方法です。

しかし、調査地に監理者が常駐しているか否かによって、調査結果が変化することが知られていて、調査結果の信頼性確保のためには様々な課題があることが分かっています。

【参考記事】

なお、最近、私が強い関心を持っているのは、物理探査に分類できる「微動探査」です。

この技術は、地盤の「せん断波速度」の深度分布を確認することができる技術です。

せん断波速度は、地盤のせん断剛性と直接関係する地盤定数です。

この地盤定数は、地震時の地盤の揺れやすさや地表面での水平加速度の予測に活用可能です。

また、「せん断波速度の深度分布」=「地盤の硬さの深度分布」でもあるので、支持力の推定などにも応用できることが期待されています。

住宅分野では、まだ、一般化されていませんが、いくつかの機関が研究に取り組んでいるので、近い将来、SWS試験に並ぶ調査技術として成長することが期待されます。

2.SWS試験結果の読み方

1.で示したように、SWS試験は、様々な調査技術の中の一つに過ぎません。

しかし、この調査技術は、試験方法が簡単で、比較的短い時間(敷地内5測点で2~3時間程度)で複数個所の調査が行えるという優れた点があります。

住宅にとって不同沈下は、許容できない現象ですが、不同沈下の発生原因の一つに、軟弱な地層の層厚が敷地内で変化することが挙げられます。

前述のSPTは調査費用が高額で、調査時間も長く(1日1測点(調査深度10m程度))、敷地内の複数個所で調査を行うことは困難ですが、SWS試験では、調査費用が比較的廉価で、調査時間がSPTよりはるかに短く、敷地内の4から5測点での地盤の強さの深度分布を確認することが可能です。

このため、住宅分野ではSWS試験が広く利用されています。

さて、SWS試験では、一体何を計測しているのでしょう?

SWS試験は、ロッドの先端に取り付けたスクリューポイントと呼ばれるモノの貫入抵抗を計測しています。

図-1にスクリューポイント周辺での抵抗力の模式図を示します。

図-1 スクリューポイント周辺での貫入抵抗力

SWS試験は、次に示す二つの段階で構成されています。

  • 第一段階:ロッド頭部に荷重を作用させ、スクリューポイントが25cm貫入する時の荷重Wswを計測する段階
  • 第二段階:荷重だけではスクリューポイントを25cm貫入できない場合に、スクリューポイントを回転させて25cmまで貫入させる段階(1m当たりの半回転数を Nswと呼びます)

第一段階では、スクリューポイントが地盤を押しのけようとする時の抵抗力Nと上向きの周面抵抗力Rf1が作用します。

第二段階では、第1段階で作用していたNRf1 に加えて、スクリューポイントの円周方向に働く周面抵抗力Rf2が作用します。

つまり、抵抗力N以外は、いずれもスクリューポイント周面の抵抗力で、これは、地盤のせん断強度に関係する力です。

建築基準法(平成13年国土交通省告示1113号)では、「基礎底面から下方に2mの区間でのWsw が1kN以下の場合」と「基礎底面から下方に2~5mの区間でのWsw が0.5kN以下の場合」に、建物自重で発生する沈下が、建物に悪影響を及ぼさないことを確認することを求めています。

図-2に、SWS試験の一例を示します。

図-2 SWS試験の一例

SWS試験を読む場合、図-2に示すように、Wswが1kNに赤線を引き、赤線よりも左側にデータがくる層を「自沈層」として色分けすると便利です。

図-2の場合、基礎底面深度が仮に地表面だったとすれば、GL-1.5m~-4.25mの区間で「自沈層」が確認されているので、沈下の影響検討を行う必要があることが分かります。

なお、建築基準法上は、基礎底面から下方に5mまでの区間だけをチェックすればよいのですが、実際に建物荷重が伝達する深度は、より深くなる場合があります。

建物荷重は、べた基礎の場合、基礎底面から下方に、基礎短辺長の2倍程度の深さまで、布基礎の場合、短辺長の6倍程度まで伝達します。

このため、基礎底面から下方に5m以深でも、建物荷重が伝わる深度に、「自沈層」がある場合は、沈下の可能性について検討する必要があります。

しかし、SWS試験結果のみで沈下量を予測することは難しいので、このような沈下の可能性がある地層が確認された場合、何らかの地盤補強を行うことになります。

【参考記事】

なお、SWS試験結果には、調査者が土質を記入している場合がありますが、この土質は参考程度としてください。

SWS試験では、試験後にロッドに付着した土や計測中に観測された音から、土質を推定しますが、この情報はあくまで推定ですので、この記録の妥当性を検証するためには、地形情報との整合性について検討する必要があります。

3.注意が必要なSWS試験結果の一例

不同沈下事故の調査に入ると、特徴的なSWS試験結果に出会うことがあります。

図-3に、その一例を示します。

図-3 不同沈下事例でしばしば見かける特徴的なSWS試験結果

このデータを一見すると、GL-3m付近からWsw が1kN以下の地層(自沈層)は確認できないので、GL-3m付近までの地盤補強で大丈夫と判断しがちです。

実際、GL-4m付近までの地盤補強を行っていたのですが、不同沈下が発生しました。

事故原因調査のために実施したボーリング調査の結果、GL-3m~-7m区間に「腐植土」が堆積していることが明らかになりました。

このようなSWS試験結果は、「谷底平野」という地形に分類される地域の盛土造成地でよくみられる特徴的なものです。

SWS試験結果では、GL-3m以深から50に満たないNsw が確認されています。

このような結果が得られる理由としては、孔壁崩壊によるロッドの周面抵抗力の作用等が考えられます。この件については、以下の記事でも触れているので参考にして下さい。

【参考記事】

4.まとめ

SWS試験に注目しながら、その仕組み、試験結果の読み方、注意が必要な試験結果について触れてきました。

残念ながら、SWS試験の判読技術は体系化されていません。

地盤保証会社で調査結果の判読をしているような経験豊富な技術者なら大丈夫かもしれませんが、大量の調査データを判読していく中では見落とされるものも出てきます。

住宅の設計監理者である建築士が、「最後の砦」として、SWS試験結果に関心を寄せて頂ければ、不同沈下事故はさらに減少すると思いますので、どうかよろしくお願い申し上げます。

神村真



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