• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

私は、住宅建設では、ボーリング調査とSWS試験を組み合わせて行うべきだと考えています。しかし、現実には、そのような場合は、ほぼありません。それならせめて、全てのSWS試験が100%活用されることを期待したいと思います。

SWS試験結果を毎回丹念に読み込んでいると、「SWS試験結果だけでは判断できない」と感じることが多く出てきます。「ちゃんと地盤調査すれば改良は無しでもよかったかも」。そんな案件も出てきますし、その逆に、「SWS試験結果から見ればGL-5mまでの杭状地盤補強でOKになるけど、これは危険だ」という案件も出てきます。

このような、「SWS試験結果を読み解くマイスター」になるにはどうすればよいのでしょうか?

今回は、「SWS試験結果を読み解くマイスター」になるための第一歩。SWS試験の読み方の基本についてお話します。

  1. 法律が決めていること
  2. 調査結果に影響を与えること
  3. 答え合わせ
  4. まとめ

1.法律が決めていること

住宅の建設に関する主な法律は「建築基準法」ですが、その中には、地盤調査の方法や結果の評価についても、あれこれ取り決めがなされています。

調査方法

建築に関わる地盤調査は、建築基準法施行令第93条に基づいて、「国土交通大臣が定める方法」によって行われます。その方法の中に「静的貫入試験」というのがあるのですが、これが、住宅分野で広く利用されている「スクリューウエイト貫入試験(以前は、スウェーデン式サウンディング試験と呼ばれていました。ここでは「SWS試験」と表記します)」に相当します。

沈下が生じないことを確認する要件

地盤は、建物の重さを支える存在ですが、どんな地盤でも、力を加えれば少しは縮みます。これを「沈下」と呼びます。建築基準法では、この沈下が、建物に悪影響を及ぼさないことを「確かめなければならない」としています。また、確認する条件として、図‐1に示す地盤条件を与えています。

このような地盤が出てきたら、発生する沈下量を予測して、建物に影響を与えないことを「確かめなければならない」のです。

図‐1 沈下量の影響検討が必要な条件

支持力の計算方法

建物を建てるためには、「地盤がどの程度の重さに耐えられるのか?」を知る必要があります。「支持力」は、「地盤がどの程度の重さに耐えられるのか」を表すものです。この支持力の計算方法も、同じく令第93条の規定に基づいて、以下のように定められています。

   qa=30+0.6Nsw            (1)

ここで、qa:長期許容支持力度(kN/m2)、Nsw:基礎底面から下方に2mの範囲でのSWS試験結果(換算半回転数)の平均値です。

この式で、着目すべきことは、SWS試験で得られる結果は、WswとNswの二つの情報があるのに、Wswを支持力計算式に組み込んでいないことです。

図-1に示すように、基礎底面から下方に2mの範囲にWswが1kN以下の地層があると、沈下の影響を検討する必要があります。このため、建築基準法では、Wswが1kN以下の場合の支持力を評価していません。

一方、日本建築学会は、長期許容支持力として以下の式を提案しています。

   qa=30Wsw+0.64Nsw         (2)

ここで、Wsw:基礎底面から下方に2mの範囲でのSWS試験結果(静的貫入最小荷重(kN))の平均値です。その他の定数は式(1)と同じです。

式(2)は、Wswを考慮して支持力を算出できる便利な式ですが、Wswが0.5kNを超える地盤で適用することが勧められています(参考文献)。

【参考文献】国土交通省国土技術政策総合研究所,国立研究開発法人建築研究所監修:2020年版建築物の構造関係技術基準解説書,pp.566-571, 2020.

2.調査結果に影響を与えること

SWS試験は、土質が確認ができませんが、試験時にできた孔に専用サンプラーを押し込んで土を採取することは可能です。ただし、採取精度には問題があることが指摘されています。また、土質によっては、試験中に孔壁が自立せず、試験結果を過大評価することも知られています(図‐2)。このように、SWS試験結果を評価する場合は、試験結果以外のことにも気を配る必要が生じます。

図‐2 SWS試験の誤差原因の一つ「周面抵抗力」

SWS試験での土の採取に関する課題は、以下の動画やブログで詳しくお話していますので、参考にしてください。

地形

SWS試験ではひと手間かけないと土を採ることができないし、土を採れたとしても適切に採取できるかどうかは対象とする地層の「土質」や「地下水位」に左右されます。このためでしょうか、「SWS試験」と「土試料の採取」は、現時点では一組の調査方法として認識されていません。

こんな時に役立つのは、試験地が属する「地形」を知っておくことです。

氾濫平野や後背湿地では、軟弱な地層が堆積しているので、地盤は軟弱な「ハズ」です。こんな時、低いNswが連続する試験結果となった場合、図‐2に示すような周面抵抗力の影響を強く受けていることが考えられます。

こんな風に、SWS試験結果を読む場合は、地形を下敷きに地層構成を考える必要があります。

新規盛土

新規盛土がある場合、SWS試験結果に関わらず長期的な沈下が生じることを想定しておくことをお勧めします。例えば、プレロード工法によって圧密促進が行われ、沈下が終了していることが明らかな場合は別ですが。

【参考】プレロード工法は、事前に作用することが分かっている荷重よりも大きな荷重を地表面に作用させ、圧密沈下を促進させ、沈下終了確認後に、作用荷重を撤去する工法です。

擁壁

地上高さ2m以下の擁壁は、構造の妥当性について誰の審査も受けません。このため、擁壁が沈下することで建物が傾くことがあります。また、逆に、地上高さが2mを超える擁壁の場合、しっかりと地盤補強が行われています。このため、擁壁近傍に住宅を建設する時、図⁻3のような地盤補強を計画すると、不同沈下することがあります。

擁壁底版に柱状改良体先端を設置したことで発生した不同沈下の模式図
図⁻3 地盤補強したのに不同沈下する事例

また、擁壁背面は、必ず埋戻し地盤が存在します。基礎下に埋戻し地盤と地山が混在する場合は、たとえSWS試験結果から良好な支持力が得られていても、測点ごとの支持力のばらつきによって住宅が不同沈下することがあります。このことも注意が必要です。

擁壁背面の埋戻し地盤は、「平均Nswが40以上かつ自沈層を含まない」ことを施工管理条件とすることが求められる場合もあるようです(参考文献)。

【参考文献】日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針,pp.282-286, 2008.

3.答え合わせ

私は、SWS試験は、資料調査を中心として事前調査とSWS試験実施時に行う現地踏査があってこそ成り立つ試験だと考えています。これはすべての地盤調査に当てはまることで、SWS試験だけに当てはまることではありません。以下では、地盤リスクの評価に必要な三つの視点について書いているので、参考にしてください。

事前調査結果から想定される地層構成とSWS試験結果に齟齬がある場合、あるいは、SWS試験結果と現地踏査結果に齟齬がある場合、SWS試験結果には何らかの誤差が含まれている可能性が高いです。

つまり、SWS試験は、事前調査や現地踏査結果から推測される地盤の状態の「答え合わせ」をしているようなものです。

図‐2で取り上げたように、ロッド周面に抵抗力が作用してしまう地盤では、SWS試験結果は地盤の状態を正確に評価していません。しかし、事前調査や現地踏査を緻密に行っていれば、試験結果の異常さに気づくことができます。不同沈下事故は、この「答合わせ」ができていない現場で起きていると言っても過言ではありません

SWS試験は、このような地盤調査方法なので、SWS試験結果単体では、決して地盤を評価してはいけません。調査結果だけを見て、毎回地盤評価をしていると、比較的近い将来不同沈下が起こると考えていて間違いないでしょう。

4.まとめ

SWS試験は極めて簡易な地盤調査方法です。その結果のみを信頼することは、「無謀な賭け」です。やはりSWS試験結果以外の情報(例えば、以下の三つ等)と試験結果の「整合性」に着目し、常に試験結果が適切に計測されていることを確認する必要があります。

①地形をしっかり見る
➁周りの建物や擁壁・地盤を観察する
③近隣ボーリングデータを見る

医療でも似たようなことが行われています。

私は、数か月前から睡眠時無呼吸症候群の治療を行っていますが、医者は、患者の状態を探るために、血液検査や様々な検査を行い、さらに、レントゲンにCTスキャン、エコー等の調査も行います。

医療では、こういう様々な調査結果から体の状態を確認しています。何十年も使い続ける住宅のために、一つの調査だけで答えを出そうとする考えは、そろそろ改める時期ではないでしょうか?

神村真



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