• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

あなたが、お客様から「なぜ地盤調査は必要なんですか?」と尋ねられたら、どう答えていますか?

私にそういう質問をしてくれる人はいないのですが、いつか聞かれたら、「長い間、あなたの家を支えてくれる地盤のことを良く知るためですよ」と答えようと思っています。

今回は、「地盤調査が必要な理由」について考えていきます。

  1. 住宅を支えているのは何?
  2. 基礎設計と地盤調査
  3. 地盤調査で調べるもの
  4. まとめ

1.住宅を支えているのは何?

図1に、建物と基礎と地盤の関係を整理した模式図を示します。ここでは、便宜上、住宅を建物と基礎に分離しています。この図から、地盤が、建物と基礎の重さを支えていることは明らかですね?

図1 建物と基礎そして地盤

ところが、地盤は、住宅を構成する主要部材には定義されていないんですよね。地盤は製品ではないからでしょう。

建築基準法の中で、地盤は、基礎を設計する上で考慮すべきものとして扱われています。

基礎は、地盤という「不確実な材料」の上に置かれるものですから、基礎設計では、想定した形状で、基礎が安定であることを、まず確認することになっています。

【ちょっと補足】
 あなたは、地盤が、鉄やコンクリートそらから木よりも、はるかに弱くて、変形しやすいものだってご存じですか?
 特に、「土で構成されている地盤」は手でも穴が掘れるほど弱いですよね?山の方に行くと、「岩で構成された地盤」もありますが、住宅地の大半は、手でも穴が掘れるような「土で構成された地盤」です。何にもしないで、建物の荷重を安全に支えられると思う方がおかしくないですか?

2.基礎設計と地盤調査

基礎は、建物から伝わる力を、地盤に確実に伝えるという役割があります。建物の重さを支え、長期に渡って、家が傾かないように支え続けることが必要です。

基礎設計の第1ステップでは、地盤が、建物から基礎に伝わる力と基礎自体の重さを「支持できるか?」を確認します。

ここで注意したいのは、「支持する」ということには、以下の三つの側面がある点です。

  • 建物を支える力を持っていること
  • 建物荷重によって大きな沈下が生じないこと
  • 敷地内で地盤の強さや沈下量にばらつきがないこと

地盤は、その他の材料に比べて、「非常に軟らかい」ので、「想定される荷重に耐えられること」だけではなく、その荷重によって「大きな沈下が生じないこと」に注意する必要があります。

また、地盤は不均質です。

同じ敷地内で、切土地盤と盛土地盤が混在していたら、軟弱な地層の層厚が変化していたりします。こういう土地では、地盤が建物を支えるだけの強さを持っていても、「場所によって建物荷重を支える力が違うこと」や「場所によって発生する沈下量が異なること」によって、不同沈下が発生します。

だから、基礎を設計するためには、地盤調査によって、敷地内で地盤の強さにばらつきがないこと、深度方向の地盤の強さの分布が大きく変わらないこと等を、詳しく調べる必要があるのです。

図2 不同沈下の原因になる事項

3.地盤調査で調べるもの

地盤調査方法や支持力(地盤が支えることが出来る住宅の重さ)の計算方法は、建築基準法施行令に関連して出された

平成13年国土交通省告示1113号に細かく書かれています。詳細は、下のブログに書いていますので、参考にしてください。

ここで、注意事項ですが、建築基準法施行令第93条には、親切にも地盤の種類による長期支持力度が示されています。この値は、予備設計の参考程度にしてください。基礎設計で重要なものは、支持力以上に、沈下ですので

次に、建物の重さで地盤がどれだけ沈下するかを予測する方法ですが、これは、建築基準法にも関連する文書にも書かれていません。平成13年国交省告示1113号には、建物自重による沈下が、建物に悪影響を及ぼさないことを確認するように書かれていますが、その方法や許容沈下量等は、示されていません。設計者の裁量なんですね。

ついでに言えば、許容沈下量についても法律上の記述はありません。

傾きについては、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の第70条の規定に基づき出された平成12年建設省告示第1653号の中で、「傾斜角が3/1,000~6/1,000なら、基礎設計に何らかの問題があるかもしれないけど、6/1,000以上になると、基礎設計に何らかの瑕疵がある可能性が高い」とされています

なお、許容沈下量については、日本建築学会が、「参考値」を示してくれています。国土交通省国土技術政策総合研究所と建築研究所が監修している建築物の構造関係技術基準解説書にもこの値は引用されています。しかし、これらの参考値は、建物の規模や利用される環境によって決めるべき数字です。

日本建築学会の定める参考値に基づけば、圧密沈下で10㎝の沈下が許容できることになります。しかし、実際に家が10㎝も沈下すると、下水の配管の勾配に影響がでることもあるでしょうし、敷地内の雨水が住宅の方に集まってきてしまうなどの不具合も発生するはずです。このため、許容値は、住宅ごとに設計者が決めていくべき数値だと私は考えています。

なお、沈下量の予測方法については、例えば以下のブログでも書いていますが、地盤調査を行って、地盤の特性を確認しないと予測することはできません。

このように、基礎設計にとって、地盤調査は必要不可欠なものなのです。

4.まとめ

ところで、あなたは、住宅建設で地盤調査を行うことが一般化したのはいつのころからかご存じでしょうか?

答えは、2009年の夏ころからです。

2009年の10月1日以降に引き渡される新築住宅から「住宅の販売者は建設者は、設計・施工に瑕疵があった場合の損害賠償のために必要なお金を確保しておくこと」が法律で定められました。損害賠償のためのお金を確保する手段に一つとして、「瑕疵保険制度」が制定されたのですが、この保険を掛ける条件として地盤調査が求められるようになりました。

この保険制度のおかげで地盤調査の実施が定着していきましたが、まだまだ、その本質の理解には至っていないように感じることが度々あります。

制度の定着やその本質の理解には、失敗事例の共有が不可欠ですが、現時点では、まだまだ事例の共有が一般化するところまでは至っていないようです。今後は、瑕疵保険法人から失敗事例の公開が進むことを期待したいですね。

神村 真



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