• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

地盤調査やその結果の評価は、科学技術に基づくものです。スクリューウエイト貫入試験(SWS試験)は、簡易な試験ではありますが、科学技術の視点から地盤の強さを評価する方法として開発されたものです。地盤補強工事の仕様も同じく、科学技術に基づいて決められたものです。また、その仕様は、地盤補強工事が一定レベル以上の品質であることを前提としています。この品質を確保するための方法もまた、科学技術に基づいて定められたものです。

このように、住宅を支える地盤は、科学技術によって評価され、必要があれば、科学技術に基づいて補強されます。

リスクに対する思想が同じであれば、科学技術に基づいているので、調査結果に含まれない新事実が現れない限り、答えが覆ることはありません。

ところが、Aという地盤補償会社が、地盤改良が必要だと判断した調査結果を、Bという調査会社が覆すことがしばしばあります。判断が覆った根拠を丁寧に示した判定書も稀に目にしますが、明確な根拠が示されていないものの方を多く目にします。その判定書を受け取った人が、判断に困って、私に相談されているのだと思います。

この現象は、何なんでしょうか?地盤調査から地盤補強工事の品質まで、一連の中で起こる、現象について考えていきます。

  1. 地盤改良の要否判定
  2. 地盤補強工事の仕様
  3. 地盤補強工事の品質
  4. まとめ

1.地盤改良の要否判定

「地盤補償会社(A社)は、地盤改良工事が必要という判定が出たけれど、別の地盤補償会社(B社)に調査結果を見せたら地盤改良が不要になった」

こんな話をSNS上で多く見かけます。

なぜ、同じ調査データと既存の資料調査結果を見ているのに、出す答えが変わるのでしょう?

考えられる理由は二つあります。

  • A社の知らない事実をB社が知っていた
  • リスクについての考え方が異なる

それぞれについて見ていきましょう

A社の知らない事実をB社が知っていた

こういうことは稀に起こります。

関東地方であれば、台地上に位置する土地で、SWS試験結果のWswが1kN未満の数値が計測される場合です。平成13年国交省告示第1113号に則れば、沈下の影響検討が必要です。しかし、関東地方の台地の多くは「ローム層」といって、住宅程度の重さの建築物であれば十分安全に支持できる地層です。A社がこの点を加味していなければ、判定結果はひっくり返るでしょう。

また、擁壁についての考え方の違いも、判定結果に大きな影響を与えると思います。

リスクについての考え方が違う

保険金の大きな生命保険に加入しようと思うと、指定医師のもとで健康診断を受けなければならない場合が多いと思いますが、●●共済等では、受け取ることが出来る保険金額は低いものの、自己申告だけで保険に入れることがあります。

これは商品の価格、想定する販売件数、保険金を支払う確率、利益を確保するために必要な販売件数等によって、保険会社が引き受けるリスクが大きく変化するためです。つまり、保険商品が準拠する科学分野は、「確率」や「統計」になります。

地盤補償は「生産物賠償責任保険」を利用した商品です。

最近の地盤補償の仕組みはよく知りませんが、私が地盤補償に関与していたころの地盤補償は、地盤補償会社と損害保険会社間で「1年間での保険金支払額は5億円まで」というような数量制限を設けて締結された契約がもとになっていました。

つまり、地盤補償会社は、保険金の支払い金額の上限を超えない程度の地盤判定を行い、できる限り多くの地盤補償商品を販売することで、利益を出しています。

このことから、地盤補償が準拠する科学分野も、「確率」と「統計」が主であって、「土質力学」や「地盤工学」という科学分野をあまり必要としていないのです。この傾向は、補償商品の販売件数が多いほど、強いのではないかと、私は推測しています。

この考えに基づくと販売件数の多い地盤補償会社は、どんな調査結果を渡しても、「地盤改良は不要です」と答えるかもしれません。

「確率」や「統計」に則って地盤調査結果を見ている人たちの判定書には、以下のような、意味のよく分からない呪文のような言葉が並んでいるのではないでしょうか?「考察致します」と括られていますが、文章の中に調査結果を科学技術に基づいて考察した形跡は認められません。このような結果を見たら、喜ぶ前に怒りましょう。

「調査の結果、自沈で推移する軟らかい層が確認されますが、全体的に建物荷重を支え得る良好な測定値が得られており、戸建て住宅の地盤として著しい不同沈下の懸念は少ない地盤であると推察されます。よって、直接基礎による対応が可能な地盤と考察します。」

とある地盤補償会社の第三者意見に関する書類から抜粋

2.地盤補強工事の仕様

今度は、地盤補強工事の見積に関することです。

「A社の見積書では、改良体の長さが10mなのに、B社の見積書では6mだ。工事費用もB社が断然安い。B社に依頼しよう」

地盤改良会社にいた頃から、こういう話をよく耳にします。

あなたの仕事が、「経済学」に基づくなら、工事費用の安い・高いで判断すればよいのですが、その金額に含まれるリスクも考慮すべきです。リスクの大小を評価するためには、経済学だけでは知識が不足します。

地盤補強工事の仕様は、「経済学」ではなく、「土質力学」や「地盤工学」に基づいて決められています。同じ設計条件で地盤補強工事の仕様に大きな差が生じるということは、A社とB社では、調査結果の見方が大きく異なることを意味します。

例えば、図1のような場合に、改良体の長さに大きな差が出ます。

左の図はSWS試験結果です。深度5m付近から回転層(Nswが0を超える値となる層)が連続しているので、この低Nsw層を改良体の先端として、周面抵抗力で建物を支える改良体仕様とすることがあります。右側の図は、ボーリング調査結果に基づく土質柱状図です。深度4m付近からN値ゼロが連続する、とても軟らかい地盤であることが分かります。

A社は、調査結果のリスクを考慮してNswが確実に増加する地層を支持層と設定していますが、B社は本当は非常に軟弱な地層を先端層として改良体周面の摩擦力で建物を支持しようと考えているのでしょう。

こういう場合、B社案は、不同沈下の発生する可能性が極めて高いと言えます。

B社は、軟弱な地層では、SWS試験が地盤強度を過大評価することを知らなかったのか、あえてリスクを取りに行ったのかは分かりませんが、この事例からは、地盤補強工事の選択では、「経済学」の知識だけでは足りないことが分かります。

同地盤でのスウェーデン式サウンディング試験結果と標準貫入試験結果の違い
図1 低Nsw層には要注意

3.地盤補強工事の品質

同じく地盤補強工事の見積書に関することです。

「A社とB社の見積書では、柱状改良工事の全長は、どちらも150mだったけど、工期は、A社は1.5日、B社は1日。工事費用はB社の方が安いから、B社に依頼しよう」

これも、よく聞く話です。ここでも、「経済学」だけで、業者選定をしてはいけません。ここでも、リスク分析が必要になります。

こういう見積書が出てきたら、A社とB社の施工管理基準を確認しましょう。特に、柱状改良工事の場合、工事後に、「所定の強度が得られなかった」という問題が出ます。また、強度はクリアしていても、出来上がった改良体の品質には大きな差がある場合があります。

写真1写真2は、同じ敷地内で作った二つの改良体を掘り出して、輪切りにしたものです。柱状改良体は、その「作り方」を少し変えるだけで、こんなにも大きな差が現れます。当然、左の写真の改良体は、設計上想定している強度は再現できていません。

写真1 撹拌状態の悪い改良体の断面
写真2 撹拌状態の良い改良体

柱状改良工事の場合、施工工程、施工速度と撹拌回数等の管理基準、品質管理の方法によって、出来上がる改良体の品質が大きく変わります。このため、真面目な会社は、自社基準を定めて、施工者に順守するように指導しています。特に、撹拌回数と固化材スラリーの吐出タイミングは、改良体の品質に大きな影響を与えます(細かい話は過去の記事を参考にしてください)。この点にこだわりのある会社は、柱状改良工事の1日施工長さは、せいぜい100~120mとしていると思います。1日施工長が長い改良会社は、施工管理基準があまいで、写真1のような改良体を大量生産している可能性があります。

柱状改良工事の場合、施工業者の良し悪しで品質に雲泥の差が生まれます。業者を選ぶ場合は、設計の内容、施工管理基準など、彼らの思想を詳しく調べるとともに、現場に出向いて、一つ一つの現場で、どのような仕事をしようとしているかを見てください。働く人の様子、使用している設備の状態等を見れば、詳しいことは分からなくても会社の思想を知ることは容易だと思います。

このように、現場で作るもののは、目標とする「品質」を理解して、それを実現するための「技術」を駆使することで、その出来に大きな差が現れます。このことも、金額(「経済学」)だけで選択をしてはいけない理由です。

4.まとめ

わたしが専門とする地盤に関する事がらは、目で見ることが出来ないものです。だからこそ、科学技術に基づいて、物ごとを評価することが重要になります。

ですから、あなたが家を造る時、忙しいところ大変だとは思いますが、各業者の声を聴いてもらえないでしょうか?

その仕事が、どれだけの技術と経験で裏打ちされているのか。そのことを感じて頂けないでしょうか?そして、そのことを価値として感じて頂けるなら、それに見合った対価を支払って頂けないでしょうか?

地盤が難しいと言わず、地盤を知るために、少しだけお時間を割いて頂ければ、こんなに嬉しいことはありません。

神村真



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