• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

私は地盤改良会社に勤務していましたが、住宅のための地盤改良工事について、一般的な工務店様から、施工方法や品質管理の方法についての要求を頂いた記憶がありません。

多くの場合、地盤保証があれば、工事内容や品質管理方法はお任せ。

工事費用にのみ注目が集まっていたと記憶しています。

私は、職業柄、地盤改良工事に関するトラブルの相談をよく受けます。

トラブルの原因を調査してみると、施工に問題がある場合が多く、このとから、私は、地盤改良工事を「おまかせ」にすることに、大きな問題があると考えています。

今回は、地盤改良工事の様々な工法と施工管理の実態に触れながら、建築士が地盤改良工事にどのように関与していくべきかにていて考えてみました。

  1. 色々な地盤改良工法とその弱点
  2. 地盤改良工事における施工管理の実態
  3. 建築士による業者指導の必要性
  4. まとめ

1.色々な地盤改良工法とその弱点

(1)色々な地盤改良工事

住宅のための地盤改良工法として多く利用されているものは、表層部全面を地盤改良して地盤を補強する「平面地盤補強工法」と杭状の補強体を介して建物荷重を地盤に伝える「杭状地盤補強工法」の二種類です(図-1)。

さて、ここで、「地盤改良」と「地盤補強」という言葉が出てきました。

地盤改良とは、セメント系固化材等を土と攪拌混合して土の強度を高める行為です。

地盤補強とは、地盤改良された土やもっと硬い鉄等を用いて、建物の荷重を支えることができるように、地盤を補強する行為です。

一般には、これらの語句は特に区別されずに用いられているので、ここでは、地盤補強工事のことを、地盤改良工事と総称します。

図-1 地盤改良工法の区分

表層部分全面を地盤改良する工法は、「表層改良工法」という名前で知られています。

一方、杭状地盤補強工法は、以下の2種類の方法が、広く普及しています。

  • セメント系固化材を用いた深層混合処理工法(通称、柱状改良工法)
  • 鋼管工法(先端に取り付けられた支圧版の形状によって工法名称が異なります)

柱状改良工法は、セメント系固化材の水溶液(固化材スラリー)を地中で噴射し、土と固化材スラリーを攪拌混合することで、地中に柱状改良体を作る工法です。

鋼管を用いる工法は、鋼管(直径10~15cm程度の鉄のパイプ)を地中に回転させながら圧入する工法で、鋼管が建物荷重を地盤に伝えます。

近年は、鋼管先端に支圧版を取り付けて、確保できる支持力を大きくしたものが主流です。

(2)各工法の弱点

各工法の長所と短所を表-1に示します。

表層改良工法と柱状改良工法は、セメント系固化材を使用するので、セメント系固化材と土を均一に混合することが求められます。

表層改良工法では、目視で混合の程度を攪拌することが一般的です。

柱状改良工法の場合は、施工工程や攪拌回数が工法ごとに定められています(詳細は、下の記事をご確認ください)。

どちらも、改良体の強度が、所定強度に達したことを確認する必要があります。

このため、施工中にサンプルを採取し、これを少なくとも7日間養生し、その後、強度試験を行います。

つまり、施工から7日間は、施工の良否判定ができないので、地盤改良工事終了後も、直ちに次の工程である基礎工事を開始することができません。

一方、鋼管工法は、工場で製造された鋼管を用いるので、材料の品質についての管理が不要です。

しかし、二本以上の鋼管を接続する方法として「溶接」を選択する場合、溶接部の品質管理を行う必要が生じます。

以上のように、地盤改良工事は、さまざまな弱点を持っていますが、この弱点を克服するために、適切な施工を行う必要があります。

適切な施工が行われていることを確認し、問題があれば是正する行為を「施工管理」、施工後に所定の品質を満足していることを確認する行為を「品質管理」と言います。

表-1 地盤改良工法の長所と短所

2.地盤改良工事における施工管理の実態

一般建築物や土木構造物のための地盤改良工事の場合、地盤改良業者は、工事に先立ち施工計画書を作成し、地盤改良工事の手順、施工中の管理項目と管理方法、施工後の品質確認方法を明示します。

地盤改良業者は、この計画書に基づき、施工管理者を現場ごとに配置し、施工管理と品質管理を行い、施工後に、施工管理基準と品質管理基準についての合否判定結果を発注者に報告します。

施工中に不合格判定が出た場合は、直ちに修正施工等を行い、品質に問題が生じないように対処することになるので、基本的に施工後に品質に関する問題が生じることはありません。

 一方、住宅のための地盤改良工事では、事前に施工計画書を作ることは稀です。

これは、住宅のための地盤改良工事が、一般建築物などの工事と異なり、1日や2日で終了する工事なので、事前の施工計画の共有等が省略されることが多いためです。

また、住宅のための地盤改良工事では、施工管理者が常駐することは、まずありません。

このため、施工管理は、施工機のオペレーターに一任されます。

さらに、施工後に、工事記録を精査して、問題がないことを確認することも稀です。

つまり、住宅のための地盤改良工事では、品質に何らかの問題が発生しない限り、施工されたものに注目が集まることは、まずありません。

ところが、柱状改良工法を用いた地盤改良工事で、改良体の発現強度が計画値に満たなかったといった、品質の問題が生じた事案では、施工方法に問題がある場合が多々あります。

このような場合、施工内容に不備があることを指摘したとしても、事前に、施工管理基準を共有していないので、管理不十分であることや施工瑕疵であることを特定することが、とても困難となります。

このような管理不十分な環境が常態化しているのが、住宅のための地盤改良工事の実態です。

つまり、住宅のための地盤改良工事では、「施工管理も品質管理も実施されていない」も同然ということです。

施工管理者が常駐するマンションのような巨大な建築物の杭工事でさえ、不十分な施工管理によって、杭先端部が支持層に到達していなかったというようなトラブルが発生しています。

「施工管理も品質管理も実施されていない」ようでは、住宅の安全は本当に確保されているのでしょうか?

もちろん、地盤改良業者によっては、施工管理と品質管理を徹底している会社も存在します。

しかし、このような企業は「良い仕事をするけれども、費用が高い」というレッテルを貼られています。

本来、やるべきことをやっているだけなのに。

「やるべきことをやっている企業」と「やるべきことをやっていない企業」が混在している状況では、地盤改良工事費用の見積書を複数社から取り寄せても、あまり意味がありません。

この環境下で、建築士は何をなすべきでしょうか?

答えは簡単。

建築士が、地盤改良業者に施工管理と品質管理を徹底させることです。

そのためには、地盤改良工事での施工管理や品質管理に、どのような人や設備が、どれだけ必要かを明らかにし、工事の「標準歩掛」を定める必要があります(歩掛の概要については下の記事に一例を示していますので参照してください)。

また、「標準施工管理基準(品質管理基準を含む)」を設定することも重要です。

標準歩掛を設定することは、建築士が求める施工管理や品質管理を実現するために必要となる人材、設備、作業に要する時間を明らかにすることです。

また、標準施工管理基準は、建築士が求める品質を実現するために必要な施工内容を明らかにすることです。

この二つの「標準」を建築士が設定すれば、地盤改良会社のやるべきことが統一されます。

この状態が整って初めて、複数社への工事費の見積もり依頼に意味が出てきます。

3.建築士による業者指導の必要性

 2.で示したように、地盤改良工事の標準歩掛や標準施工管理基準が設定されていなければ、工事業者によって地盤改良工事の品質に差が出ます。

特に、現場で改良体を築造する「表層改良工法」や「柱状改良工法」では、業者による品質の格差は、非常に大きいと考えられます。

建築士は、建築物建設のプロジェクトリーダーで、設計に関する唯一の国家資格保持者なので、地盤改良工事についても責任を負います。

地盤改良工事の設計と施工管理を、別の建築士が実施していれば、建物の管理技術者である建築士が、その工事内容について責任を負うことはありません。

しかし、住宅の地盤改良工事の場合、そのような体制をとっている場合は稀ではないでしょうか?

新築する住宅の管理建築士が、地盤改良工事の設計施工を別の建築士に一任できない場合は、住宅の管理建築士が地盤改良工事についても管理監督を行わざるを得ません。

このためには、住宅の管理建築士が、2.で示した「標準歩掛」と「標準施工管理基準」を定め、地盤改良業者に、それらを徹底することを指導する必要があるのです。

4.まとめ

住宅を支えているのは地盤です。

住宅が、長期的に安全であるためには、地盤が長期的に安定した状態になければなりません。

地盤はそれほど重要なものであるにも関わらず、住宅建設においては、軽視されているように感じます。

それは、建築基準法や関連法規が、地盤に対する要求性能を明確に規定していないからです。

私は、このことが、不同沈下する住宅や液状化によって傾く住宅を作ってきたと考えています。

新築住宅での不同沈下の実態は、十分に把握されていませんが、毎年一定数の不同沈下が発生していることが分かっています(概要を下記ブログに記載しています)。

その原因の一つに、建築士の無関心があることを、ご理解頂きたいと思います。


神村真



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