SWS試験結果から地盤補強が必要と判断された場合、地盤補強工法の仕様をどのように決めるのでしょうか?
今回は、地盤補強工法のメカニズムや支持力成分の算出に必要な地盤定数について触れながら、地盤補強工法の検討に際して留意すべき事項について考えてみました。
地盤補強は、大きく分けると以下の二種類に分類されます。
図-1に、それぞれの概要を模式図で表しました。
杭状地盤補強は、杭状(棒状)の補強体を地中に埋設して、これに建物荷重の大部分を伝達させ、補強体の周面抵抗力と補強体先端地盤の抵抗力(先端支持力)で建物荷重を支える補強方法です。
補強体に建物荷重の大分を負担させることで、基礎底面から、建物荷重が広範囲に伝播することを抑え、発生沈下量を抑制することが可能です。
工法によっては、地盤の支持力も期待するものもあります。
平面地盤補強は、基礎底面の地盤を固化処理するなど、基礎底面全面に補強体を構築し、建物荷重を支持する補強方法です。
代表的な平面地盤補強工法には、基礎底面地盤をセメント系固化材で固化処理する表層改良工法があります。
また、細い鋼管を狭い間隔で打設して、地盤と鋼管で建物荷重を支持するような工法も存在します。
杭状地盤補強は、補強しなければならない軟弱な地層が比較的厚い場合、平面地盤補強は、補強しなければならない軟弱な地層が比較的薄い場合にそれぞれ採用されます。
なお、平面地盤補強工法とし表層改良工法を採用する場合は、改良厚さが2m以上になると、杭状地盤補強工法で対応する方が、工事費用が低くなる傾向にあります。
杭状地盤補強工法では、柱状改良工法と鋼管を用いる工法が一般的ですが、補強体の全長が100~120m程度を超えると、鋼管を用いる工法の工事費が柱状改良工法よりも小さくなる場合が出てきます(補強体先端の地盤条件次第ですが…)。
杭状地盤補強工法ながら地盤の支持力を考慮できる工法は、通常の杭状地盤補強工法よりも補強体本数や長さを抑えられる可能性があるので、工事費を低減できる可能性があります。
地盤補強仕様の検討では、建物荷重によって沈下する可能性が高い地層を見極め、この層に建物荷重を伝えないようにします。
沈下する可能性がある地層の目安については、以下の記事で触れていますので参考にしてください。
どの地層に荷重を伝えてはいけないかが分かれば、杭状地盤補強を採用するか、面状地盤補強を採用するかは、おおむね決まります。
続いて、補強仕様を仮決めし、補強地盤の支持力を確認します。
杭状地盤補強の場合、補強体の周面抵抗力と先端支持力によって、建物荷重を支持します(先端支持力と周面抵抗力のイメージは、後で出てくる図-2を参照ください)。
各支持力成分は、以下のように算出されます。
周面抵抗力Rfは、一般に次式で表されます。
ここで、各定数は以下の通りです。
Rf:周面抵抗力、τ(タウと読みます):周面抵抗力度、 Af:周面積
ここで、 Ns は砂質土の換算 N値、 cは粘性土の強度です。
ただし、補強体の施工方法によって、地盤定数の計算方法や上限値が定められています。
例えば、回転貫入杭の場合、せん断抵抗力度の算出式は以下のように定められています。
補強体を回転圧入する回転貫入杭では、補強体周辺の地盤が施工中に乱されるので、周面抵抗力度を割り引いています。
【参考文献】日本建築学会:建築基礎構造設計指針, 表6.3, p.196,2019
また、SWS試験結果を設計で用いる場合、Nswの上限値を150と見なした方がよいとされています。
【参考文献】日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針, ⑤Nswの限界値, p.36, 2008.
一方、先端支持力Rpは、次式で表されます。
ここで、各定数は以下の通りです。
Rp:先端支持力、Ap:補強体の有効断面積、α(アルファと読みます):先端支持力係数(柱状改良の場合α=75、小口径鋼管の場合α=200)、N:平均N値(補強体先端から上方に補強体直径d分、下方にdの範囲の平均値)
【参考文献】日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針,p.186, 2008.
住宅建設の場合、SWS試験を敷地内の4~5か所で実施するので、各測点で周面抵抗力Rfと先端支持力Rpを計算し、両者の合計が最小となる計測結果をその敷地での代表値とすることが一般的です。
一方、平面地盤補強(表層改良)の場合、固化処理した改良層の下の地盤が、改良層と建物荷重を支えることができることを確認します。
建物荷重によって地中に発生する応力の深度分布は、地盤物性に関係しないとされているので(本当は、ちょっと違いますが)、表層部を固化しようがしまいが、建物荷重が深部に伝達されます。
このため、固化処理した地表面付近の地盤よりも下に、沈下しやすい地盤がある場合は、固化処理した地盤も一緒に沈下することになるので、改良層の下の地盤の沈下特性を十分に把握しておく必要があります。
SWS試験結果を使った沈下量の予測方法については、過去に記事でも触れていますので参考にしてください。
このように、地盤補強の設計に必要な地盤定数は、全てSWS試験結果から求めることができますが、試験方法や地盤補強工法ごとの制約があることに注意してください。
また、地盤は敷地内で均質ではありません。
SWS試験結果から、敷地内での軟弱地層の層厚変化等を慎重に読み取るようにしましょう。
杭状地盤補強でも平面地盤補強でも、支持力だけ考えていては、仕様決定できません。
図-2に、補強体に作用する荷重と応力の模式図を示します。
図に示すように、補強体に荷重を作用させると内部に応力が発生するので、補強体は、この応力に耐える「強度」を持たなければなりません。
補強体として鋼管等の工場製品を使う場合は、必要な強度の商品を選ぶだけですが、セメント系固化材で地盤を固化処理するなど、現場で補強体を作る工法の場合、作り方や作った補強体の強度確認方法について理解しておく必要があります。
柱状改良工法や表層改良工法については、いくつかの機関から指針が出されていて、適切な施工管理基準(作り方)が示されていますが、その通りに施工したからと言って、適切な補強体ができるわけではありません。
以下の記事では、ある柱状改良工法の開発初期段階に作った改良体と開発完了段階に作った改良体での断面写真を公開しています。
この記事では、施工管理基準が明確になる前の開発初期段階に作った改良体断面は驚くほど不均質ですが、施工管理基準が固まった開発完了段階での改良体断面は、非常に均質であることが確認できます。
これは、柱状改良体の品質が「作り方」で変化することを示しています。
表層改良も同様です。
図-3は、表層改良工法で作った転圧回数が異なる改良体から、強度試験用の供試体を抜取り、その強度の分布を確認した結果です。
転圧回数が増加すると強度の平均値や強度のばらつきを示す変動係数が変化することが分かります。
このように、現場で作る補強体は、「作り方」でその強度やそのばらつきが変化します。
住宅の設計者は、地盤補強工事を行う業者に対して、想定している補強体の「強度とそのばらつき」やそれらを実現するための「施工管理基準」、さらに施工後の「品質検査方法」について、事前に確認しておく必要があります。
また、施工後には、品質検査結果のみを確認するのではなく、全ての補強体の施工時に、施工管理基準を満足していることを必ず確認してください。
地盤補強は、建物を安全に支持することを目的として実施されます。
建物を安全に支えるためには、①地盤の支持力、②改良体の強度が十分である必要があります。
地盤の支持力を確保するためには、地盤調査結果を読み解く力が必要です。
一方、改良体の強度については、施工管理が非常に重要です。
特に、現場で補強体を作る工法では、施工管理に加え、作った補強体の品質管理も重要になります。
私が知る範囲では、住宅の設計者は、作られた地盤補強体の品質に対して無頓着な場合が多いように感じます。
強度検査のみ合格していれば良いという風潮が蔓延しているようで、大変憂慮しています。
特に、柱状改良工法や表層改良工法で用いられるモールドコアによる品質検査方法(改良土を現地で型枠に詰めた供試体を用いて強度試験を行う品質検査方法)には問題が多く、厳正な施工管理とセットで評価するべきだと、私は考えています。
神村真