住宅の地盤調査に関する記事の多くは、常に作用する住宅の自重に対する支持力や発生沈下量の予測に関するものが多いと思います。一方で、地震時の住宅の安定性を考えるために必要な地盤調査や、外力である地震力を決定するために必要な情報に関する記事は少ないように思います。
ここでは、地震時の建物の安定性を考えるために必要な情報やその調査方法について考察していきます。
図-1に、地震時に基礎底面に働く力の模式図を示します。
鉛直下向きの力は住宅の自重。水平方向の力は地震力です。自重は、基礎天面に等しく作用すると仮定します。地震力は、基礎底面から上方に作用点があるはずなので、基礎を転倒させる力(モーメント)になります。また、地震力は基礎を横滑りさせる力にもなります。
地盤の支持力から見ると、基礎を転倒させようとする力は、基礎底面に作用する接地圧を増加させる働きがある点が問題になります。
この時の最大接地圧が、短期許容支持力度よりも小さいことを確認するのですが、構造計算結果によって建物の自重を確認しないと、地震力による基礎接地圧の増加量を把握することができません。
また、耐震等級1を超える耐震性能を検討する場合、地震力が大きくなるので、接地圧の増分は、通常の構造よりも大きくなることに注意する必要があります。
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さらに注意したいのは、宅地そのもの安定性です。
谷埋め盛土は地震時に滑動する可能性が高いことが知られています。このような地形では、例え支持力が十分にあると判断されても、地盤そのものが動いてしまうので、敷地一か所で対処できることはありません。このため、このような地域に新たに住宅を建設することは避けることをお勧めします。
擁壁についても、地上高さが2mを超えるものは構造計算で地震力を考慮した検討がされていますので問題は起こりにくいと考えられますが、地上高さが2m以下の擁壁については地震力を考慮した検討がされているか不明です。擁壁についての情報がない場合は、擁壁の形状や設計外力を確認して地震時の安定性検討を行うか、擁壁の耐力を考慮せずに基礎地盤の安定性を検討することをお勧めします。
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以上のように、地震時の地盤の安定性については、基礎底面接地圧を計算するだけでは不十分で、資料調査によって「住宅が立地する地域の地盤の成り立ち」や「擁壁の耐震性能」についても情報収集しておく必要があります。
自分の敷地や擁壁が崩壊・倒壊して、誰かを傷つけたり、誰かの住宅を壊した場合、その責任は、土地の所有者となることがあるので、十分に注意してください。
図-1に示したように、地震時には住宅に水平方向の力が作用します。
自重は、住宅の質量に重力加速度を掛けることで求められますが、地震力は、住宅の質量に地震動の加速度(水平加速度)を掛けることで求めることができます。この加速度には、地表面での水平方向の加速度が用いられます。
この地表面水平加速度は、建築基準法レベルの耐震性能に対しては、200galと設定されます。
関連ブログ記事等でも紹介したように、建築基準法レベルの耐震性能(地表面水平加速度200gal)の住宅は、熊本地震で倒壊しましたが、耐震等級3(地表面水平加速度300gal程度)の住宅は倒壊しませんでした。このことを考えると、地表面水平加速度は300gal程度としておく必要があると考えられます。
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なお、地表面での揺れ方は、軟弱な地盤の堆積によって大きく変化します。特に「第三種地盤」という地盤が堆積している場合、基準法上、地表面水平加速度を1.5倍にしなければなりません。
しかし、第三種地盤は、以下のように定義されていて、土質の確認ができないSWS試験では見過ごされる可能性がありますし、SWS試験での調査可能な深度はせいぜい10mです。
また、私の少ない経験からは、第三種地盤による地表面水平加速度の割り増しについて、住宅分野での適用を聴いたことがありません(構造計算している工務店が少ないためですが…)。
「腐食土・泥土その他これらに類するもので大部分が構成されている沖積層(盛土がある場合においてはこれを含む。)で、その深さがおおむね30m以上のもの、沼沢・泥海等を埋め立てた地盤の深さがおおむね3m以上であり、かつ、これらで埋め立てられてからおおむね30年経過していないもの。または、地盤周期等についての調査若しくは研究の結果に基づき、これらと同程度の地盤周期を有すると認められるもの。」
昭和55年建設省告示第1793号
「微動探査」という調査技術がありますが、この調査技術では、地表面での自然な振動を計測することで、地盤の固有周期やせん断波速度という「地盤の硬さ」を表す定数の深度分布を推測できます。
この調査による計測結果を利用すれば、第三種地盤の特定とその層厚の特定が可能になります。
木造住宅の倒壊が多い地震では、地表面付近の地盤が比較的軟弱であったことが、理由の一つとして挙げられることがあります。この微動探査技術を活用すれば、揺れやすい敷地であることの確認が可能であるとともに、地表面加速度の増幅率を計算することも可能となります。これらの情報を活用することで、木造住宅の倒壊を防ぐことが可能になると考えられます。
一般財団法人地域微動探査協会では、微動探査技術を活用して、住宅の耐震性能の向上を図ろうとしています。私がこの協会の活動に関与するのは、上記のような調査を住宅分野で普及させることが、耐震性に優れた住宅を増やすことに寄与すると考えられるからです。
建築分野で利用されている液状化の危険度予測方法は、建設省(土木研究所)と東京大学の研究グループが考案した方法で、ある深さでの液状化に対する安全率FLとこれを利用した液状化の程度を表す指標PLを用いたものです。
FLは、細粒分含有率(土粒子の中に、粘土分等の細かい粒子が含まれる割合。含有率が低いほど液状化しやすい)や地盤の強さであるN値の深度分布などを利用して、比較的簡単に求めることができるようになっています。
図-2に、東日本大震災時に、現在の液状化判定方法で液状化の可能性を予測していた結果と実測を比較した一例を示します(この検討で使われたFL の計算方法は、建築分野での計算方法と若干異なります)。
この図から、戦後の埋立地内の液状化発生個所では、予測結果も FL≦1(液状化する可能性がある)で、予測方法の適用性の高さが確認できます。
しかし、江戸・明治時代の埋立地や自然地盤では、FL≦1(液状化する可能性がある)でも、液状化は発生していません。このことから、現行の液状化判定方法は、「地盤の古さ」の効果を適切に評価できていないことが分かります。
このように、現行の液状化に対する危険度の予測方法は、安全側の評価となるので、実務上は問題なく利用することができます。
【参考資料】国土交通省液状化対策技術検討会議:「液状化対策技術検討会議」検討成果,図2-2-2,p.12,平成23年8月31日
注意したいのは、設計上想定する地震力の大きさです。前述のように、耐震等級3の場合、想定する中規模地震での加速度は300galです。基準法レベルで200galしか見ないので液状化の危険度は小さいかもしれませんが、耐震等級3では、想定する地震力が大きいので、液状化の可能性が高まる可能性があります。
なお、液状化の危険度を予測するためには、細粒分含有率の確認が必要です。図-3は、従来の土試料採取方法で採取した土を用いた場合とSWS試験後の試験孔から専用サンプラーで採取した土を用いた場合での細粒分含有率を比較した結果です。この図から、SWS試験後の試験孔内から採取した土を用いて確認した細粒分含有率は、従来の方法で確認された細粒分含有率より、明らかに大きいことが分かります。
【参考資料】平成25年度 建築基準整備促進事業
小規模建築物に適用する 簡易な液状化判定手法の検討
このため、SWS試験の試験孔から土試料を採取して細粒分含有率を求める場合は、その取扱いに注意が必要です。この件は、以下の動画でも触れているので参考にして下さい。
【参考となる動画】21分付近からご確認ください
地震時の支持力の検討、考慮すべき水平加速度、液状化の危険度予測に注目して、必要な地盤調査方法あるいは、調査項目や新しい調査技術について考察してきました。
大事なことは、力学的に考えて必要な情報は、何らかの調査を行い手に入れる。また、その結果に基づき、上部構造物の要求性能を確保するために、地盤に必要な性能を考えるということです。
建物の構造設計で、1階と2階の間取りを無関係に決めることができないように、上部構造と地盤を切り離して考えることはできません。上部構造物の性能を最大限発揮するために、地盤に必要な性能があるはずです。これを知るためには、適切な地盤調査が必要です。
今の住宅産業を遠目に見ていると、構造計算をしないでも家ができてしまうことによって、本来見なければならないものを見ていない専門家(建築士)が多いように感じます。
特に構造設計を行わないと、地盤にも当然のように関心がなくなります。
モノを見ないことは楽ですが、結果として、その仕事が「不同沈下する住宅」や「地震で倒壊する住宅」、「20~30年で壊される住宅」を作っています。
地盤は建物を支える最も重要な「材料」です。よく見て頂きたいです。そのために、私にできることがあれば相談してください。
神村真