• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

以前お話したように、地盤リスクを見つけるためには三つの目線が有効です。

今回は、この三つの目線を使う練習をしてみましょう。

【例題】山のすそ野で、下のような地形がありました。あなたが、一番下のひな壇に建てる家の設計委託を請けた場合、どんな地盤リスクを想定しますか?

例題 ここにはどんなリスクがあるだろう?
  1. 鳥の目でみる
  2. 虫の目で見る
  3. 魚の目で見る
  4. まとめ

1.鳥の目でみる

どんな地形に属するのか?

まずは、どんな地形に属するかを確認します。これは、軟弱地盤が堆積している可能性が高いのか?低いのか?を知る上でとても重要なプロセスです。

地形を知るためのツールは、色々ありますが、以下のようなものが便利です。いずれも、国土地理院の地理院地図というサービスで利用できます。最初の二つは、情報がない地域もありますので、その場合は地形図が使えます(地形を直接示していないので、地図を読み解く力が必要です)。地質図は、縮尺が小さいので、対象地の地形を知ることはできませんが、どんな地質で、古いものなのか、新しいものなのかを知ることができます。

  • 土地条件図
  • 地形分類図
  • 地質図
  • 地形図

 【便利なサイト】国土地理院 地理院地図

 地形と地盤の関係については、以下の記事をご確認ください。

例題に示したように、この土地は、山地のすそ野に位置します。地形の確認結果から、仮に、この土地が「台地・段丘」と「低地」の境界部に属していたとしましょう。台地・段丘は、比較的古い地形なので、地盤が良好であることが多いものです。しかし、「なぜ、雛壇状になっているのでしょう?」

この場合、ひな壇は、図‐1のような断面を持っているかもしれません。

図‐1 この土地は山裾に形成された段丘かも・・・

つまり、古く安定した地盤が堆積していそうな地形だけど、人の手が加わっている可能性があるということです。

盛土と切土では、地盤の強度が異なりますので、この敷地に不用意に家を建てると不同沈下するかもしれません。

どのように利用されてきたのか?

地盤リスクを考える上では、どのような過程を経て、「今」に至ったのかを知ることがとても重要です。

例えば、宅地開発が1960年代以降に進んだ地域なら、それ以前の状態を調べれば、一体、いつ人の手が加わったのかを知ることができます。

国土地理院の地理院地図では、1945年から数年のうちに米国軍が行った全国の空中写真を見ることができます。

例えば、例題のような地形が1940年代にも確認できて、それが水田や耕作地であることが確認できれば、今の地形は、1940年代以前に農業利用を目的に改変されたと判断できます。国土地理院の地理院地図では、年代ごとの空中写真を見ることが可能なので、現在の地形にいつころ改変されたのかを確認することができます。

改変されてから、数十年も経過した地盤は安定していると考えることができるので、SWS試験が敷地内の各点で類似した傾向を示すなら、不同沈下の可能性は低いと考えられると予想できます。

今はどのように使われているのか

空中写真では直近の状況を確認することは困難ですので、現地で様子を確認するのが一番です。しかし、遠方の場合、現地に出向くことは容易ではありません。

Googleのストリートビューや空中写真は、遠方の状況をとりあえず確認するのには便利なツールです。

もしも、既にSWS試験実施済みなら、調査報告書の写真も参考になります。

例えば、既存建物がある場合は、既存建物の解体によって地盤が乱されます。杭が施工されているような場合は、既存杭が撤去されるのであれば、その影響も考慮しておく必要があります。

2.虫の目で見る

地層構成

支持力や沈下を、予測するためには地層構成を確認することが重要です。

地盤調査は後述する支持力や沈下量の予測が主目的と考えられがちですが、これからの値を予測するためにも、地層構成を把握することはとても重要なことです。

このことは以下のブログ記事でも紹介していますので、そちらを参照してください。

なお、対象地では、図‐1に示したように盛土と地山が混在していると考えられるので、敷地内での地層構成の変化に注意する必要がありますね。敷地内の複数点で容易に試験を行うことができるSWS試験は、このような敷地内での地層構成の変化を確認することができる便利な調査方法です。しかし、この調査方法では土質の確認ができないので、正確な地層構成を把握することができません。

支持力と沈下の予測

支持力や沈下量を予測するためにはSWS試験や標準貫入試験のように、地盤の強さをなんらかの方法で確認する必要があります。また、沈下量を予測するためには、対象地がこれまでどんな荷重を受けてきたのかを知る必要があります。

例題では、盛土がされているようなので、盛土下に軟弱な粘性土地盤があれば、盛土自重による圧密沈下が起こります。幸い、対象地は、古い地形に属しているようなので、盛土下の粘性土地盤は隆起や侵食による影響で、安定した地盤になっている可能性もあります。

沈下量の予測では、このような影響を考慮して「予測方法を選択する」必要があることに注意してください。詳細は、以下の以下のブログを参照してください。

地震時の予測

現在では、まだまだ一般的ではありませんが、地震の影響を地盤調査で確認することが出来ます。

揺れやすさの評価指標の一つである表層地盤増幅率は、対象地が地震の揺れが大きくなる地域なのか否かを知ることができる便利な指標です。

この指標は微動探査を実施することで確認できます。この調査を行うことで、地盤の固有周期も知ることが可能です。

これらの情報を活用すれば、耐震等級の選択や制振ダンパーの利用についても判断しやすくなると思います。

写真-1 極小アレイを用いた微動探査の様子

3.魚の目で見る

どのように利用されるか

例題では、対象地の左右に斜面が存在します。

敷地境界が斜面の下側の場合、左側の斜面にL型擁壁を設ければ、利用可能な敷地が広がります。

しかし、L型擁壁を作る時、図-2に示すように、擁壁の幅よりも広い範囲を掘削するので、擁壁の底板幅よりも広い範囲で土が埋戻されます。埋戻し地盤は、盛土と同様に、元の地盤よりは弱くなります。このため、埋戻し地盤上に建物が配置される時、不同沈下のリスクが高まります。

図‐2 L型擁壁建設時の掘削面の模式図

斜面の安全性

右側の斜面が、仮に、敷地境界を越えて存在しているとします。この時、対象地の所有者は、この斜面に手を下せません。

もしも、この斜面が崩壊するようなことがあれば、住宅に被害をもたらすことも考えられます。このため、管理できない斜面の近くには家を近づけないことが得策でしょう。どうしても家を斜面に近づける必要があるのなら、斜面が崩壊しても家に影響が及ばないように対策を行う必要があります。

斜面の対策については、以下のブログ記事が参考になると思います。

谷埋め盛土

山地の造成地には、谷を埋め立てた大規模な盛土造成地が存在します。この話は本来、「鳥の目」のところで行うべきですが、リスクが顕在化するのが地震時だけなので、「魚の目」で取り上げることにします。

谷を埋め立てた造成盛土を、「谷埋め盛土」と呼びます。この地形、大地震時に滑動する可能性があります。

滑動を防止するためには大規模な対策工事が必要になるので、個人の力ではどうしようもありません。

ですから、このような地形に位置する土地に家を建てる場合は、最悪の場合を程度想定してセーフティーネットを構築しておく必要があります。このため、保険制度や個人資産の中で住宅建設に投資する金額をどうするか等についてもよく吟味しておく必要があります。

4.まとめ

さて、一つの宅地で考えなければならないことが、たくさんありましたね。

現在の地盤調査業務の環境では、ここまでのことをやると間違いなく赤字になります。

  • SWS試験さえしておけば、地盤補償会社が適当な対応方法を教えてくれる。
  • 地盤の評価なんぞは数万円でも高いくらいだ。

約15年間、住宅地盤の業界にいますが、このような声を耳にします。

そこには、「孫の代」まで使える家を建てようという意思は、微塵もありません。消費者の方でも、孫の代まで使える家を建てようとは、恐らく思われていません。悲しい現実です。

しかし、災害は、明日来るかもしません。

私は、設計者は、安全で安心な住宅を建てるために、「どのような地盤情報を得なければならないのか?」を考える役割があると考えています。これは、ビジネスで利益を上げることの前に考えるべきことだと思います。

神村真



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA