あなたが建築士としてお客様から住まいの土地探しの件で相談されたら、以下の三つの点に注意するように伝えて頂けないでしょうか?
多くの方が、安易に住まう場所を決めておられます。
あなたがの経験と知識で、災害に遭う人を一人でも減らしていきませんか?
「家を建てよう」と心に決めると、多くの人は、土地を探さなければなりません。親御さんが土地を所有されていて、その土地に家を建てるというケースもあると思いますが、それは恵まれた例ですね。
私も土地を探した経験がありますが、30代前半の未熟な私の脳では、災害をリアルに考えることが出来ませんでした。それでも、少しでも高い土地を求めて、うろうろしていたことを覚えています。
しかし、その後、災害現場に立ち会う機会を多く持ったことで、「自然現象からは逃れられない」ということを強く感じるようになり、土地探しの重要性を認識するに至りました。50歳を超え、先行きが大分見えてきて感じるのは、晩年に災害に遭遇し、家を失った場合の恐怖。それまでの資金計画が破綻しかねません。
特に水害は、日本に四季がある以上、毎年、遭遇する機会がやってきます。
地震はいつ発生するのか分かりませんが、水害は、雨の多い時期に集中的に発生します。
日本では、水害に遭遇する可能性のある土地でも家を建てることが出来ます。それを解消しようとする努力はわずかに見られますが、浸水地域に人が誘導されているという実態もあるようです(参考資料参照)。
【参考資料】
NHK webサイト 2022.06.03 浸水リスク地域で増える住宅 一体何が…
https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/select-news/20220603_02.html
あなたのお客様が、浸水地域に土地を購入されようとしているなら、いつになるか分からないけれども、確実にそこは水没することをお伝えし、そのための対策を考えることを提案してください。
「警報が出れば避難すればよい」と考えている人がいますが、そんな甘い話ではありません。水害によって浸水を経験した家族の多くは、その土地に住み続けることを放棄しています。
ちなみに、浸水地域での浸水被害対策方法としては、浸水深が3m未満なら、1階をピロティ―にすることで対応可能かと思います。しかし、浸水深が、3mを超えると、土地のかさ上げも必要になると思われます。この場合、盛土の重さによる地盤沈下が発生するので、盛土後に半年から1年以上、放置期間を設ける必要が出てきます。盛土高さによっては、隣地への影響低減対策なども必要になるでしょう。なお、ピロティー部の構造は、RC構造が鋼構造として、水没による劣化の影響を最小限にする必要もあるでしょう。
ここまでの対策工事費用がいくらになるのか分かりませんが、土地の坪単価が数万円上がる程度では済まないのではないでしょうか?
大雨の時に浸水する地域では、住宅の重さを支えることが出来ない地盤が現れることが多いです。
浸水する地域は、川に近い場所、海に近い場所、過去には陸ではなかった場所(埋立地)のいずれかです。
内陸部の場合、大昔から水が集まり・とどまりやすい場所で、過去には水田として利用されていた場所が多いでしょう。沿岸部であれば、埋め立てられたり、干拓された場所です。
いずれも地盤は弱く、家を支える力がない場合が多いです。
こういう場所では、SWS試験を行う前に以下の事項について確認・予測し、適切な地盤補強方法を決めることをお勧めします。
調査費用に20~50万円くらい必要になりますが、確実な地盤補強方法を決めることが可能になります。
軟弱な地層が厚ければ、鋼管や鉄筋コンクリート杭等を利用することになるので、地盤改良費用が高額になることが予想されます。
覚えておいて頂きたいことは、上記のような詳しい地盤調査をしたところで、地盤補強工事が劇的に安くなることは稀です。詳細な地盤調査をしておくと、地盤補強設計の自由度が上がるので、していない場合よりも選択肢は増えますが、工事費用が劇的に抑えられることはありません。
地盤補強工事費用を低減する方法は、基礎設計と地盤補強の設計を連動させることしかありません(詳しいことは、下の過去の記事を参照してください)。
浸水する場所では地盤補強工事費用はかさむし、詳細な地盤調査は必要になるし、構造計算もしてもらわないといけない。多分、浸水地域ではない地域よりも、100万円以上、余分な費用が必要になります。これらの費用は、地盤への対策費用で、家を造るための費用ではありません。
あなたのお客様が、浸水地域に土地を求めようとされているなら、こういう費用も必要になることを事前に伝えておかれることを強く・強くお勧めします。
高台の造成宅地にいけば、浸水の心配はないので、「もう安心」と言いたいところですが、ここにも、土地購入後にお金を使わなければならなくなるものがあります。
一つは、「擁壁」と「斜面」です。
高台の造成地は、もとは斜面ですから、図1のように、盛土と切土を組み合わせて、住宅建設のための平坦な土地を作ります。擁壁は、擁壁の上側の土地に属することが多いと思いますので、土地を購入するとその時点で擁壁の所有者になります。
この擁壁が、適切に設計されているものであれば良いのですが、地上高さ2m以下の擁壁は、設計審査もありませんので、場合によっては、地震時に擁壁が倒壊することになります。もし、あなたのお客様が、こういう土地を購入しようとしておられたら、擁壁の設計検討書をもらってくるように伝えてください。あなたが、その検討書を評価できないようなら、私に相談ください。確認します。
もう一つのポイントは、高台の造成地の中には、谷を埋め立てて、高台に仕立てている場所があり、こういう場所では、大地震時に盛土が滑りだす危険性があるということです。
こういう問題を回避するためには、造成計画図などの切土と盛土の区別がつく資料や地形区分図、過去の空中写真を確認しておくことが有効です。この点も、あなたのお客様にアドバイスしてください。「地形とか分からない」という場合は、過去の記事に、地形の確認方法等を書いているので、参考にしてください。それでも分からないなら、私に聞いてください(有料ですが・・・)。
以上、大雑把で恐縮ですが、あなたのお客さんが土地を探しておられて、浸水地域や高台の造成地での物件を模索されているなら、今回のお話をお伝えください。
こういう話を私がすると、「お前の言うことを聞いていたら、購入できる土地なんかない」とお叱りを受けたことがありますが、そういう話ではありません。
土地によっては、購入時の費用に含まれていない費用がありますよ。ということです。また、高台の切土地には、浸水地域では決して得られない安心があります。豪雨時でも避難警報を気にせず夜ぐっすり眠れます。
そういう違いがあることを、土地を購入する方々に知って頂きたいのです。そして、そういう方々は、建築士であるあなたの前におられます。ここでま、読み進めてくださったなら、是非、お客様にもお伝え頂けますよう、お願い申し上げます。
神村真