• 地盤の専門家神村真による宅地防災の情報発信サイト

令和2年8月28日から、不動産の取引時に行われる重要事項説明の中で、洪水リスクに関する説明が付記されました。

国土交通省:宅地建物取引業法 法令改正・解釈について
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000268.html

このことによる影響については過去のブログにも記載していますので、お時間のある方は参照してください。

不動産取引の際には、以前から津波や土砂災害に関する危険区域についての説明が必要で、今回「洪水の危険性があることを周知するという」項目が付記されたことは歓迎すべきことです。

しかし、液状化に関する情報については、ここまで制度の整備ができていないように思います。

液状化現象は、東日本大震災で未曽有の被害を出しましたが、その後の法整備では、住宅性能表示制度の中で「液状化に関する情報提供」という項目が付記されたにすぎません。

液状化する地域に家を建ててはいけないという規制もできませんでしたし、住宅を建てるなら液状化しない土地にしなければならないという法律もありません。

このことから、私は、国が「液状化については、国民が自ら判断してリスクを取りなさい」と言っていると判断しています。

そこで今回は、液状化について考えてみました。

  1. 液状化とは?
  2. 液状化危険度の判定方法
  3. 色々な液状化対策工法
  4. 液状化危険度の高い地域に家を建てるなら

1.液状化とは?

 液状化現象は、地震時に地盤が水のようになる現象です。

ご覧になられたことのない人は「地盤が水のようになるなんて」と思われるかもしれませんが、この現象は、大きな地震が起こるたびに報告されています。

図-1に水中の土粒子の模式図を示します。

図-1 水中の土粒子に作用する力

水中の土粒子は、「自重」による下向きの圧力$σ_v$と水圧$u$に起因する上向きの力「浮力」を受けます。

このため水中では「土粒子から土粒子に伝わる力が小さくなり」ます。

地盤に地震力が作用すると、地盤は「せん断」されます。

この時、水中地盤では、粒子間の水圧$u$が高まります。(図-2)

図-2 地震時の地盤の動きと粒子間の体積変化のイメージ

地震動によって間隙中の水圧uは増加するので、有効応力$σ_v’$が低下します。

水圧uが土の自重による圧力$σ_v$と等しくなると、有効応力はゼロになります。

有効応力がゼロになるとは、土粒子間に作用する力がゼロになることですから、この瞬間、土が水のようになるのです。

粘性土は、土粒子間に粘着力が作用しているので、有効応力が低下しても土粒子が「ばらばら」になることはありませんが、砂質土は、粘着力が非常に小さいので、有効応力が低下すると、土粒子が「ばらばら」になってしまいます。

このため、液状化現象は、砂質土地盤で発生するのです。

2.液状化危険度の判定方法

 液状化危険度の判定方法は、様々な方法がありますが、その基本は、液状化させようとする力「地震力」に対して地盤が持っている液状化に対する抵抗力「液状化強度」がどの程度かを確認することです。

液状化させようとする力「地震力」

「地震力」は、地盤にどのような水平加速度や繰返し回数が作用するかで定義されます。

水平加速度が大きいほど、繰返し回数が多いほど、地震力は大きくなります。

これらの値を設定し、住宅の設計をしますが、地震の際に被害が大きな地域を調べてみると、想定よりも大きな加速度や振幅であったと考えられる場合が、しばしばみられます。

これは、地形や地層が影響していると言われています。

厳密な液状化危険度の判定を行うためには、その場所で、どのような加速度や振幅が発生するかを予測するための調査と解析が必要になります。

地盤が持っている液状化に対する抵抗力「液状化強度」

「液状化強度」は、土質地盤の強さで定義されます。

地盤の強さは、スウェーデン式サウンディング試験や標準貫入試験で確認することができます。

土質は、コーン貫入試験やSDS試験で推定することができます。

これらの技術では、計測される貫入抵抗等から「砂らしい」か「粘土らしい」かを判断します。

なお、標準貫入試験(一般的なボーリング調査で行われる試験)は、1mごとに層厚45cm分の土試料を採取するので、土質の確認には適した調査方法だと言えますが、1mのうち半分以上の土質を確認できない点に、一抹の不安が残ります。

この点を解消した技術が、土壌調査で利用されている振動圧入掘削装置を改良した土採取技術です。

調査区間の全長に渡る土試料の採取が可能なので、液状化の危険度評価には役立つ技術ですが(参考文献)、広く普及していないのが残念なところです。

【参考文献】
神村真、中田幸男、田部井香月:小規模建築物を対象とした振動圧入掘削によるボーリング調査技術の開発,日本建築学会技術報告集,Vol.23,No.55,pp.857-862, 2017

土質を確認することは、液状化の危険度を評価する上で大変重要な項目になるので、やはり直接調べたい項目です。

現在のところ、住宅の建設において液状化の危険度について詳細な調査を行っている事例は稀です。

スウェーデン式サウンディング試験を実施した孔から土を採取して土質を確認する方法もありますが、実際の土質を見誤ることが有ることが報告されています。

お金のかかるお話ですが、液状化の発生が危惧されるような地形に位置する土地では、土質や地下水位の有無等、液状化の危険度評価に必要な項目について、しかり確認することを強くお勧めします。

3.色々な液状化対策工法

 これまで述べてきたように、液状化は、以下の3項目によって生じます。

  • 地震によって土中の水圧が増加すること
  • 水圧増加によって有効応力がゼロに近づくこと
  • 有効応力の低下によって地盤の強度が低下すること

 このため、液状化対策の方法は、これらの3つの項目を予防することを基本原理として、以下のような三種類の工法に分類することができます。

  • 地震によって地盤が変形しないように、強度や硬さ高める
  • 地下水位をなくすこと
  • 地下水が移動しやすくして、水圧が上昇することを防ぐ(透水性の向上)

表-1 液状化対策工法の分類

図-3 液状化対策工法の原理

これらの工法は、対象となる敷地で「液状化が起こらない」ことを目的として実施されます。

一方、建築物が液状化によって「不同沈下しない」ことを目的に、杭基礎や杭状地盤補強工法が用いられることもあります。

この対策では、建築物への被害は防止できますが、敷地での液状化の発生を防止することはできません。

このため、地震時に液状化が発生すると、基礎と地盤間に隙間が開いてしまう、敷地内に地割れや噴砂による多量の砂が堆積するなどの被害が生じます。

液状化危険度の高い地域では、本来地域単位で液状化対策を行うべきですが、現状では、そのような対応を行わなければならない法的な規制はありません。

このため、宅地については戸別に対応することが求められています。

地域で液状化対策がなされていなければ、地中に埋設した上下水道やガス管なども被害を受け、インフラ機能が停止します。

このように、戸別に液状化対策を行っても、地域で対策がなされていなければ、何らかの被害を受けることになります。

4.液状化危険度の高い地域に家を建てるなら

液状化は、地下水位以下の、「弱い」砂質土で発生しやすいのですが、どの程度弱ければ液状化しやすいのでしょうか?

現在、日本建築学会は、液状化が発生しやすい具体的な地盤の強さを明示しておらず、細粒分含有率等、土質試験結果に着目することを促しています。

ちなみに、スウェーデン式サウンディング試験結果の設計への適用上限は、Nsw=150とされていますが(日本建築学会)、Nswが150の砂質土地盤の換算N値は12です。

住宅を支持する地盤として申し分のない強度の地層です。

このような強さを持つ地盤でも、土質を確認し、液状化の危険度判定を行うまでは、液状化発生の可能性を無視できないということです。

以前も書きましたが、リスクは人によって変わります。

液状化被害を受けても命を失うことは稀です。

お金と時間をかければ住宅を復旧できるのであれば問題ないと判断される人もいます。

そのような方は(リスクを受容可能な方)は、液状化危険度の高い地域に住むことに対して大きな問題はありません。

しかし、復旧に要する費用や時間を確保することができない方は、液状化危険度の高い地域に居住することを避けるべきでしょう。(液状化被害発生時の復旧費用の想定については、過去のブログを参照してください)

もっともよくないのは、家を建てる地域のリスクを把握できていないことです。

個人の資産は、個人が守るもので、誰かに守ってもらうものではありません。

しかし、災害によって自分が住宅を失い、大きな損失を被る可能性があることを深く考えている人は少ないようです。

これは、国を挙げて住宅の購入を進める政策がとられているので、やむを得ないことかもしれません。

こんな状況だからこそ、住宅の設計や建設に深く関わる建築士は、消費者に寄り添って、災害リスクについて適切なアドバイスをして頂いたり、災害に強い住宅づくりを勧めて頂きたいと思います。


神村真



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