3月のテーマとして、「家を建てたいと思ったら考えておくべきこと」として地盤のリスク評価に関するお話をしてきました。
今回は、その最終回です。
これまでは、宅地に関するリスク評価に関わるお話でしたが、今回は、住宅建設の第一歩となる「地盤補強工事」について考えたいと思います。
経験的なお話で恐縮ですが、住宅設計者の多くは、「地盤補強工事」に対する関心が低いように感じます。
地盤補強工事は、「建築」よりも「土木」よりの工種であることが、その遠因かもしれません。
とはいうものの、不同沈下事故の発生原因として、地盤補強工事の不備が挙げられることが少なからずあるので、設計者も、地盤補強工事について十分な知識を持っておく必要があります。
不同沈下や液状化による支持力低下の可能性がある場合、以下の二通りの対処が考えられます。前者が「地盤改良」、後者が「地盤補強」です。
「地盤改良」では、以下のような方法で、地盤の強度や透水性を改良することが行われます。いずれも、土の性質を変化させています。
一方、「地盤補強」では、「地盤よりも高い強度の材料」を地中に埋め、この材料を介して建物の重さを、安定した地盤に伝達させます。
「地盤よりも高い強度の材料」は、既成の鋼管の場合もあれば、「セメント系固化材で改良された地盤」や「地中に柱状に構築された砕石」等、「地盤改良」によって得られたものである場合もあります。
このように、「地盤改良」は、その行為そのものが「地盤補強」である場合と、「地盤補強」に用いる補強体を作ることが目的である場合があります。
例えば、地中にセメント系固化材で改良された改良柱体を築造する「柱状改良工法」は、「地盤改良」技術ですが、築造された柱状改良体は、「地盤補強」に利用されます。
以下では、「地盤補強」について考えていきたいと思います。
「地盤補強」という呼称のためか、地盤が建物を支えることができる能力「支持力」にのみ注目が集まりますが、建物荷重に対して発生する「沈下量」については、あまり注目されません。
これは、地盤の沈下量をSWS試験結果のみで正確に推測することが、かなり難しいことに起因しています。
建築基準法では、建物自重による地盤の沈下が建物自身に及ぼす影響を検討すべき目安として、以下の二つの基準を示しています。
SWS試験結果から、この基準に当てはまると判断された場合、沈下の可能性があるので「何らかの地盤補強を行う」ことになりますが、地盤補強をしていても不同沈下する場合は多々あります。
その理由は大きく分けると以下の三つに分類できます。
一つ目は、水田跡地などに盛土した造成地でよくみられる現象です。
盛土荷重は、建物荷重よりもはるかに深くまで伝わるので、建物荷重だけを考慮した地盤補強仕様では対応できません。
新規盛土地の探し方やこのような土地での沈下対策検討の留意点を、以下の記事で整理していますので参考にして下さい。
二つ目は、SWS試験の適用限界に関わる問題です。
とても軟らかい地層や腐植土層がある場合、SWS試験の試験結果は過大評価されることがあります。
このことは、特徴的なSWS試験結果と地形の関係を押さえていれば回避可能な現象です。以下の記事で解説していますので、参考にして下さい。
三つ目は、図-2に示すような敷地内での地層の分布を十分に把握できていない場合や、二つ目の原因のように、SWS試験結果が、地盤の強度の深度分布を適切に捉えられていない場合に起こります。
いずれの場合も、SWS試験の特性に関する知識不足、地盤の状況を適切に把握できていない等、調査結果を十分に理解できていないことがもとで発生する「設計ミス」だと言えます。
多くの住宅の設計者は、地盤補強の設計を外注していると思います。
特に、地盤改良業者の設計内容は、建築士による設計ではありませんので、設計内容についての責任は、住宅の設計者に帰属します。
住宅の設計者は、地盤補強の設計内容を十分に確認してください。
地盤補強工事では、施工管理がとにかく大切です。
施工管理は、地盤補強体の設計で規定した品質や性能を確保できる施工がなされていることを確認する行為です。
管理基準に適合しない施工がされた工事は、原則「やり直し」です。
地盤補強工法によって、施工管理項目は決まっています。
柱状改良工法固有の施工管理項目は以下の通りです。これらの項目が、基準通りに行われないと計画通りの品質を持った改良体を作ることができません。
問題は、各施工会社が持っている施工管理基準の妥当性です。
NPO住宅地盤品質協会は、「住宅地盤の調査・施工に関わる宜雄述基準書」に、施工管理項目やその基準値を示していますが、それを満足しているから、所定の品質を再現できることにはなりません。
建築技術性能証明や建設技術審査証明等の第三者機関によって技術審査がされた工法の場合、施工管理基準に従うことで所定の品質が再現可能であることを検証しています。
私は、五つ以上の柱状改良工法について、第三者機関での技術審査を経験していますが、再現性のある施工管理基準や掘削攪拌翼形状を定めるのは容易なことではありません。
地盤改良会社の内、自分たちの施工管理基準に基づく施工で、所定の品質を発揮できることを確認している業者は、そう多くはありません。
このため、地盤改良工事は、「自社で開発した柱状改良工法で第三者機関での技術審査を受けたことがある企業」や、「第三者機関での技術審査と同様の品質確認試験を行っている企業」に任せることをお勧めします。
なお、最近、目にすることが増えてきた、直径が500mm未満の改良体の品質には要注意です。
築造したい改良体の直径に対して、掘削攪拌翼の出幅が小さいと、十分な攪拌が出来ない場合があります。
直径500mm以上の改良体の場合、多少出来が悪くても断面積が大きいので何とかなる場合が多いのですが、直径が500mm未満になると、わずかな施工不良が改良体全体に大きな影響を及ぼすします。
次に、柱状改良体と鋼管に共通するの施工管理項目です。
両者にとって重要な項目の一つに「着底管理」があります。
これは、設計で計画した強度を持った地層に、改良体や鋼管の先端が到達したことを確認することです。
柱状改良体や鋼管が、先端支持力を主な支持力成分として設計された場合、改良体や鋼管の先端が所定の強度を持った地盤に到達しなければ、計画通りの補強体が作られたことになりません。
一方、周面抵抗力のみを支持力成分として設計した柱状改良体や鋼管の場合、設計通りの長さであることが重要になります。
住宅の地盤補強工事では、施工管理が、案外、乱暴に扱われていると感じています。
住宅の設計者は、地盤改良業者に対して、設計通りの施工ができたこと、そしてそれを証明する施工管理記録を提出させるとともに、自分自身、地盤補強の設計内容と施工管理内容が整合していることを確認するようにしてください。
住宅のための地盤補強工事の仕様や金額は、地盤補強工事を行う企業が決めています。
このこと自体、住宅の設計者が地盤補強工事に対して高い関心を持っていない現れのように感じます。
私は、下の記事でも述べましたが、「地盤補強に関わる技術基準や積算基準は、住宅の設計者が定める」という体制が、消費者にとっては最適だと考えています。
なぜなら、地盤補強については、工事に使う道具や作業手順が標準化されておらず、工事業者によってバラバラだからです。
地盤補強工事は、建築の中の数少ない「土木工事」で、住宅の設計者にとっては分からないことばかりだと思いますが、長寿命化する住宅のためにも、安定した品質の地盤補強工事の実施に関心を持っていただければと思います。
このブログが、「地盤」についての学びのきっかけになれば嬉しい限りです。
神村真