工務店から、SWS試験による地盤調査報告書を指して、「液状化は大丈夫だよね?」と尋ねられることがあるのですが、残念ながら、SWS試験結果だけを見ていても液状化の危険度を確認することはできません。
液状化危険度の確認の第一歩は、ハザードマップであることが一般的ですが、液状化に関するハザードマップを公開していない自治体もありますし、ハザードマップでは、住宅用敷地一つ一つの危険度を確認することが難しいことがあります。
そもそも、液状化の危険度は、どんな調査が必要で、どうやって求めるのでしょうか?
また、液状化危険度が高い場合に適用できる対策には、どのようなものがあるのでしょうか?
今回は、液状化危険度の判定で本来実施すべき調査内容や液状化対策の種類や実際に戸建て住宅で対応できそうな対策について考えていきます。
液状化危険度の判定方法を理解するためには、「液状化がなぜ起こるか」を知る必要がありますが、ここでは、細かい原理の説明は置いておいて(細かいことは、以下の記事に書いているので参考にしてください)、以下の液状化の発生条件のみ記憶に留めてください。
<液状化の発生条件>
これらの三つの条件のうち、SWS試験で確認できるのは、二つ目の「地盤強度が比較的弱い」ということだけです。
このことから、SWS試験だけでは液状化の危険度を推定することが難しいことが分かります。
なお、日本建築学会では、液状化の判定を行う必要がある飽和土層(地下水位以下の地層)として、以下の条件を挙げています。
【参考文献】日本建築学会:建築基礎構造設計指針, p.50, 2019.
SWS試験のみでは、確認できない項目ばかりです。
それでも、液状化の危険度を何とか確認する必要があります。
そのために、まず、液状化の危険度の評価方法を知り、「本当は何をするべきなのか」を知る必要があります。
最初に、「想定する地震動」について考えていきましょう。
建築基準法で、建物の安全性が確保されているのは震度5強までですので、地表面加速度にして200galどまりです(以下の記事を参照願います)。
当然、地表面加速度が大きいほど、地盤に作用する地震力が大きくなるので、液状化の危険度は増加します。
耐震等級2、3で建物を設計する場合、想定する地表面加速度が建築基準法レベルよりも大きいので、液状化検討でも、建物で想定する場合と同じ地表面加速度を想定しておく必要があります。
また、地震の規模を表す指標であるマグニチュードも想定する必要があります。
日本建築学会は、通常マグニチュード7.5を想定するとしています。
【参考文献】 日本建築学会:建築基礎構造設計指針, p.50, 2019.
液状化危険度は、地盤の強度が、地震動によって地盤内に発生する応力よりも「大きいか小さいか」、液状化する地層が、「地表面から何mの場所にあるのか」によって判断します。
地盤内に発生する応力は、想定する地震規模が大きいほど大きくなります。
一方、液状化に対する地盤の強さ(液状化強度)は、主に、細粒分含有率とN値によって決まります。
細粒分含有率は、0.075mm以下の土粒子の含有率で、細粒分含有率が小さいほど「砂らしい砂」で、「液状化しやすい地盤」と言えます。
この値は、SWS試験では確認できないので、現地で採取した土を用いて細粒分含有率試験を行う必要があります。
なお、液状化の発生条件の第一項目「地下水位以下のの砂質土」ですが、この項目に含まれる「地下水位以下の」という項目もSWS試験では正確に把握することが難しい項目です。
【参考文献】日本建築学会:建築基礎構造設計指針, pp.50-54, 2019.
日本建築学会は、SWS試験結果から算出した換算N値をN値として扱うとともに、SWS試験の試験孔を利用して土を採取して細粒分含有率を調べたり、地下水位を計測したりすることができるとしていますが、いずれも計測精度が定かではありません。
以下の研究報告では、①Nswが150を超える地層での換算N値の低減が必要であること、②採取した土を用いた細粒分含有率の補正が必要であることが指摘されています。
【参考文献】株式会社東京ソイルリサーチ、旭化成ホームズ株式会社、三井ホーム株式会社、大和ハウス工業株式会社、ミサワホーム株式会社、独立研究開発法人建築研究所:小規模建築物に適用する簡易な液状化判定手法の検討、平成25年度建築基準整備促進事業報告会資料, 2014.
これらのことから、「液状化危険度を知るために必要な情報は、SWS試験のみからは得られないと判断した方がよさそう」です。
国土交通省は、液状化する地層と液状化しない地層を分類し、それらの層厚から液状化の危険度を分類する方法を示しています(以下の記事を参照ください)。
液状化の危険度を推定するためには便利な方法ですが、地表面加速度200galを想定した方法なので、耐震等級2や3で設計する場合は、この方法が使えませんし、そもそも「液状化するか/しないか」の判定ができません。
結局、小規模建築物の建設であっても、液状化危険度を正しく判定するためには、最低でも以下の試験を行う必要があると、私は考えています。
液状化危険度は、不動産の売買契約時の重要事項説明が必要な項目に、今のところ含まれていませんので、不動産業者が液状化危険度を 積極的に調べるモチベーションがありません。
一方、建築基準法では、地盤の軟弱さに加えて液状化が原因で地盤が沈下することで、建物に悪影響が及ばないことを確認しなければならないことになっています(平成13年国交省告示1113号) 。
このため、建築士は、少なくとも、公開されている既存資料を調査し、液状化の危険度を確認し、どのように対処すべきかを消費者に伝える必要があることをお忘れなく。
また、消費者は、液状化する可能性がある土地であっても、不動産業者は、知らんぷりで売りつけてくるということをお忘れなく。
液状化の発生原因として、三つの項目を挙げました。
これらの項目で対策可能な項目は、「地下水」と「地盤強度」です。
このため、液状化対策では、この二点をどのように対策するかを考えます。
表-1に、各項目に対する対策項目を整理して示します。
表-1 液状化対策工法の種類と概要
具体的な対策方法の概要については、以下でも触れましたが、今回は、もう少しだけ細かく書く紹介します。
液状化は、その名の通り地盤が液状化する現象で、地中に水があるために発生します。
地震時の振動で緩い砂地盤は締め固められますので、砂粒子間の水の移動が制限され、水圧が上昇し、液状化に至ります。
つまり、液状化対象層から水をなくす、あるいは、地震時に砂粒子間を水が移動しやすいように工夫すれば液状化は起こりません。
その方法として考えられたのが「地下水位低下工法」と「排水促進工法」です。
図-1に、各工法の概要を示します。
「地下水位低下工法」では、対象地域への地下水流入を抑制し、この域内での地下水をくみ上げることで、地下水位を低下させます。
地表面付近の地盤を非液状化層とすることで、液状化被害を軽減できます。
地表面加速度が200gal程度の地震の場合、非液状化層を5m確保することで、「顕著な被害の可能性が低い」状態にすることが可能です。
しかし、地下水位低下工法は、地下水位の観測施設や揚水施設等の大規模な施設の建設が必要なうえに、長期に渡って、これらの施設を運転する必要があるので、かなり広い範囲を対策対象とする場合にしか適用することが難しい工法です。
次に、「排水促進工法」では、地盤中に透水性の高い排水材を密に埋設します。
地震時に砂粒子間の水の動きが拘束され、地中で水圧が上昇した時でも、透水性が高い排水材では水圧が上昇しません。
水は水圧の高い方から低い方に移動するので、排水材の埋設によって水圧の急激な上昇を抑え、液状化の発生を防ぐことができます。
排水材の施工間隔をできるだけ小さくする必要があるので、地盤の透水性があまりよくない場合は、排水材の施工数量が多くなり、工事費用が増加します。
「排水促進工法」は「地下水位低下工法」に比べて維持管理が不要で、戸建て住宅単位でも適用が可能ですが、一般的な不同沈下対策のための地盤補強工事よりは「かなり高額」な工事になります。
地下水位以下の 「弱い」 砂地盤が液状化するので、「弱い」砂地盤の強度を増加させるのが、この対策の目的です。
強度を増加させる方法を大きく分けると、「地盤強度を増加させる方法」と「地震時の変形を抑える方法」の二つに分かれます。
「地盤強度を増加させる方法」には、「砂粒子同士を結合(固化)させる方法」と「締め固める方法」があります。
「地震時の変形を抑える方法」として、地震によって変形しようとする地盤の動きを拘束する方法があります。
前者は、セメント系固化材等で砂粒子同士を結合(固化)させるか、地中に砂杭を打設したり、地表面にオモリを落下させることで地盤を締め固めたりする方法です。
後者は、地震時に水平方向に変形しようとする地盤の動きを拘束する方法です。
いずれの工法も戸建て住宅への適用が可能ですが、地下水対策同様に、工事費は、通常の軟弱地盤対策工事よりも「かなり高額」になります。
様々な対策工法を紹介しましたが、住宅に適用するには、様々な問題があります。
地下水位低下工法は、地下水の揚水によって広範囲で地盤沈下が発生する可能性があるので、1棟のみで適用検討を行うことは、まず不可能です。
固化工法や排水促進工法・締固め工法については、対策範囲として余長が必要なことや(図-3参照)、工事によって周辺地盤に変状が生じるので、隣地ぎりぎりまで建物を建てることが難しくなります。
変形抑制工法は、一般住宅でも対応可能な工法の一つですが、変形抑制のための地中壁を、柱状改良体で作る場合は、施工手順に配慮する必要があります(改良体を連続打設すると、改良体の鉛直性が確保できず、設計で想定した形状で連続地中壁を作ることができなくなります)。
なお、連続して改良体を打設するので、材料費・工事費とも、一般の地盤補強工事よりも割高になります。
このように考えると、「液状化の発生を防止するための対策」は、一般的な戸建て住宅の建設には荷が重いように感じられます。
一方、敷地内での「液状化の発生を許容し、液状化による建物の不同沈下のみ防止する」のであれば、通常の杭状地盤補強でも対応が可能です。
ただし、この場合、以下の対応が必要になるので、一般の地盤補強工事よりも工事費用は割高になります。
※液状化エリアで土地を購入する場合、擁壁が液状化対策されていることを必ず確認してください。地上高さ2m以下の擁壁は、適切な対策はされていないと考えた方が良いでしょう。
また、敷地内での液状化の発生を許容する場合、住宅が不同沈下することは回避できますが、以下のようなこと事柄に備える必要があります。
しかし、住宅が不同沈下しなければ、避難所ではなく、自宅で休むことはできます。
様々な液状化対策工法がありますが、個人の資金力で対応できるものには限りがあります。
液状化の危険度が高い地域で土地を購入される場合や住宅建設を計画される場合は、液状化対策工事にどの程度の費用が掛かるのかについて確認してください。
以前、執筆に関わった下記の書籍の中で、工事費(直接工事費)の概算値を示しているので、参考にしてください。
なお、ここでの表示価格は、改良業者の直接工事費(工事業者の経費や利益を含まない金額)なので、工務店の提示額(設計監理・工事管理費等を含む金額)は、表示額の2~3倍程度になる場合があることに注意してください。
【参考文献】一般社団法人レジリエンスジャパン評議会 住宅地盤を対象とした液状化調査・対策の手引書作成WG:住宅を対象とした液状化調査・対策の手引書, pp.127-129, 2016.
残念ながら、日本では、災害に遭う可能性のある地域の土地が、宅地として販売されています。
消費者は、液状化リスクを十分に考慮して、投資計画を立てる必要があります。
また、建築士は、液状化地域で住宅建設を行う必要が生じたら、ボーリング調査を実施して、液状化の危険度を適切に評価してください。
液状化の発生は、後から考えれば必然なのですが、多くの場合は事前調査がされていません。
逆に言えば、しっかり確認すれば防ぐことができる災害なので、適切な調査を行い、液状化の発生を未然に防止していきましょう。
神村真